欲しいものは、仰山あった。


余りにもそれは多過ぎて、成長するに従って大きくなっていった掌からも、ぽろぽろと零れ落ちて行ってしもうて。
拾い上げても、隙間からどんどん、零れて行ってまう。
自分でも気付かんうちに、なくなってまう。消えてまう。


そして最後に残るんが、一番大切なモンやって、誰が決めた?



ホンマに一番大切なモンを決めるんは……俺自身や。






14 Leady?






「…千歳、今日も休みか」



携帯の通話ボタンを押すことも、アドレス帳から千歳のデータを呼び出すこともなく。あっという間に時間が過ぎていった。

今までずっとサボっとったんが嘘っちゅーくらいこまめに…せやけど教室には入らず、俺は学校に行っていた。やけどどこに行っても、千歳に会うことはなかった。

こない偶然を待つんやなく、もう一遍約束して、それで千歳に会えばえぇだけの話やって、自分かてわかっとる。わかっとるんや。せやけど俺は、動けんかった。



―――謙也も俺んこつば、いらんとね……やっぱり俺は、いらんとね……



その言葉の意味を、理解することが怖かったから。



「…なんや自分、こないな場所におったんか」


そないなことを考えながら辿り着いた屋上…千歳に最後にあった場所に座る込んで空を見上げとると、そこにやってきたのは待ち人ではなく。


「…なんや、小石川か」

「なんやとはなんや、失礼な奴やなぁ」



先日蔵ノ介と一緒に居る所に割り込んで以来会っとらんかった、小石川やった。その顔はどことなく、疲れとるようで。俺の横にどさりと腰を下ろすと、でっかい溜息を吐いた。

他人の心配なん、俺にはない。ないんやけど、この前蔵ノ介と多分何か話があったんやろう、それを邪魔してもうたことへの罪滅ぼしか。俺はその顔を覗きこむと、言葉を紡いだ。



「…自分、調子でも悪いんか?」

「……それは、そっちやないんか?めっちゃ死にそうな顔、しとるで」



やけど返ってきたんは、想定しとらんかった答え。そして向けられたんは、俺を心配しとる言葉とは正反対の、鋭い眼差し。何でそんなもん向けられなアカンのやと思うたが、その理由はすぐに、小石川の口から紡がれることとなる。



「…千歳千里が、ずっと学校休んどる。携帯にも出んし、家にも帰っとらんそうや…まぁ。言うてまえば“行方不明”っちゅーことやな…で、奴のクラスメートがな、千歳が居らんようになる前、日曜に忍足と会うんやって言うとったんを覚えとった。日曜てアレやよな?俺と白石が一緒に居ったとき、自分が合流した日やんな?んで、何や接点あるんやないか思うて白石に聞いてみたら、自分とのことで千歳に釘刺された言うた……自分、何や知っとるんやないか?」



何で小石川が、そないなこと知っとるんやろ。ちゅーか千歳が行方不明って何やねん。しかも俺が約束破った頃からやて?なんやねん、何が起こっとるんや。

俺の小さな頭は既に容量を超えていて。小石川からもたらされた情報を処理することにいっぱいいっぱいで。彼が尋ねてきた言葉に対して答えることなん、出来んくって。



「…あの日千歳と、会わんかったんか?」



もう一度、ゆっくりと尋ねてきた言葉をゆっくりと咀嚼し、答えを生み出す。



「……あぁ。会わんかった…せやけど留守電に、めっちゃメッセージ残っとった……千歳の奴、自分なんいらんのやて、言うとった」



そう、俺は千歳との約束を破った。そればかりかずっと俺を呼び続けてくれとった千歳を完全に無視し、その後も何か俺からするでもなく、それを詫びるでもなく、ただ屋上を訪れて千歳の姿を探しとっただけや。会うた時に何を言うか、とか。どうやって謝るんか、とか。そういったことは一切考えんで。


ただ、ここに来れば千歳に会えると、そう思っとった。
千歳に会えば約束を破ったことなん、すぐ許してくれると思っとった。


それが大きな間違いやったことは、言うまでもない。


それにやっと気付けた俺が顔を伏せてまうと、小石川の方から小さく舌打ちをする音がする。それに驚いた俺が再び顔を上げると、小石川がめっちゃ辛そうな顔をして。



「…忍足、ひょっとせんでも自分、千歳にトドメさしてもうたんかも、しれん…」



重そうに口を開いて、そう言うた。




「千歳、子どもん頃親に、捨てられとんねんで?」



そのままの表情で続けられた言葉は、俺の心に突き刺さった。











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