相手の望むことなん、わかるはずがない。
せやけどしてやりたい思うことは、ようさんある。
それが正解なんかは、わからんけど。
せやけど少しでも喜んでもらえたんやったら、えぇんやないかな。


少しでも、相手の力になれたんなら。えぇんやないかな。





13 Relation




元部長が光の兄ちゃんやって知って。その日のうちに光にそのことを話すと、そう言えば兄ちゃんと同じ制服やなって、今更気付いたように言った。その制服を前に光に着せた時嬉しそうにしとったんは、ひょっとしたら兄貴と同じ制服やっていうんも、あったのかもしれん。

そう思うたワイの心は、何や穏やかっちゅーか何ちゅーか…兎に角、あの頃ユウジたちに感じたような嫉妬?みたいなモンは、なかった。あぁ光はやっぱり、兄ちゃんのことが好きなんやなって。光のことがもっと知れてよかったなって。そう思うただけや。


光が嬉しいと、ワイも嬉しい。光が笑うてくれると、ワイも笑う。
それがいつの間にか、当たり前になっとった。二人一緒に居るんが、当たり前になっとった。


―――光の、どこがえぇん?やって…俺が言うんもアレやけど。光、普通ちゃうやろ。それなんに何で…何で光と、友達になって、くれたんや?


あの日、白石元部長に言われた言葉の一つ。これを言うた時あの人は、ホンマに苦しい、悲しいて顔をしとったから。せやから元部長が光のこと、大切に想うてはることはわかった。

それを言われた時、ワイは咄嗟に答えを出すことが出来んかった。やってそないなこと、考えたことなかってん。気付いたら光と友達になりたい、思うとって。光のこともっと知りたい、一緒に居りたい、思うとって。それだけなんや。きっと他の場所で出会うとっても、ワイは光と友達になりたいて、一緒に居りたいて、思うた。光が光やから、ワイはそう思うたんや。

そう、たどたどしくやけど元部長に言うと。彼は嬉しそうに。さっきまでの辛そうな顔が嘘みたいな笑顔を浮かべて。それから言うてくれた。



―――光のこと、見つけてくれてありがとう。光のこと、好きになってくれてありがとう。



“好き”


その言葉が只単に、ワイが小春やユウジに向けて感じとるモンと同じ感情を表してるんやと、そん時は思うた。やけどそうやない、小春やユウジや、他の人たちに向けて感じとるモンとは、違うんや。ワイが光に対して感じとるモンは…光に対してもっとるモンは、そないなモンやない。

それは、気付いてしまえば当たり前のようなこと。
そう、単純なことやったんや。全部全部、ホンマに単純なことやったんや。



「…ワイ、ひかるのことが、好きや…友達としてもそうやけど、それだけやない…もっと、もっと好きやねん。ひかるのこと、世界中でいっちゃん好きやねん」



せや。ワイは光が、好きや。
好きの中でも、特別な好きなんや。


いつからや言われたら、きっとあの時…はじめてあの廃駅で会うた時から惹かれとったんやろう。



「…ワイ、ひかるのことが好きや…これからもずっと、ずっと一緒におりたい…ひかる。ワイのお願い、聞いてくれますか?」

「…また俺、忘れてまうかもしれんのやで?また俺、自分のことみんな、忘れてまうのかもしれんのやで?それでも、えぇの?……俺なんかで、えぇのか?」


並んだソファーの上、重ねたワイのよりも小さい手をぎゅっと握りしめて。真っ直ぐに目を見て言う。これがワイの素直な気持ちやから。気持ちは言わな、伝わらんから。この気持ちを光に、知ってもらいたいから、わかってもらいたいから。

そんなワイの気持ちを、光は否定することはせんかったけど。合わせられとった目を伏せ、小さく震わせると。ゆっくりと噛みしめた唇から出た言葉は、自分自身に対する不安を表すもの。


そんなこと、気にせんでもえぇんに。そう、ワイが思うんは所詮、ワイは光やないからやろか。


やけどホンマに、ワイは光に、そないなこと気にして欲しない。今のままの光が、ワイは好きなんやから。ワイが好きなんは、そんな光なんやから。それを少しでもわかって欲しいて。もう一度、口を開いて言葉を紡ぐ。



「ひかるが、えぇんや」

「せやけどっ!」



それでも否定の言葉を吐こうとする光に、ゆっくりと近付く。

光の手を握っとるのとは反対の手で、光の顔を辿っていく。はじめて触れた他人の唇っちゅーもんは、漫画で読んだり話に聞いたりするよりもかさかさしとって。やけど柔こくて。暖かくて。



気付けば、己のそれを押し当てていた。見開かれた目はいつの間にか、閉じられとった。


それが、まるでワイの全てを光が受け入れてくれたかのようで、嬉しかった。






***





「…それが、話したかったこと、か」

「…せや。これが俺の、全部。俺が隠しとったこと、全部」



珈琲に入れたミルクをかき混ぜながら、努めて穏やかに語っとる白石やったが。その手が小さく震えとることは波打つ表面と時折カップにぶつかる金属音から、よぉわかった。

俺かていきなりこないなこと告白されて、驚いとらんわけではない。白石と忍足の間に何かあるんちゃうんかっていうことは、この前の忍足の態度からわかっとったけど。せやけど白石の方が忍足に好意を抱いとったとか。それが原因となって自分の弟を事故に遭わせてしもうたとか。そういった、思いもよらんかったことを整理するんに、俺の頭はパンク寸前やった。


せやけど、俺が一番驚いたことは、そこやない。



「それを何で俺なんかに…」

「ん…せやんな。お前やったら俺のこと、許してくれるんやないかって、思うたからかな」



白石の中での、俺自身の位置づけについてや。

信用どころか毛嫌いされたっておかしないはずである俺の存在を、こんなにも許してしもうとることに、白石自身は気付いとるんやろか?俺のような奴に、許してくれそうなんて理由だけでこない重要なこと、話してしもうてもえぇんやろか?



そうは思うても、白石が俺を選んでくれたことは、素直に嬉しかった。











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テーマ「人外ファンタジー」
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