人の繋がりなん、ぱっと見やとわからへん。
やけど皆、どっかで繋がっとるんや。


見えんけどどっかで、ちゃんと繋がっとるんや。




12 Once again



あれから毎日、光んちに通うた。
ずっと頑なに態度を軟化させんかった光やったけど、ある日を境に、ワイと出会ってからの記憶を失くしてまう前みたいに、ノートを見せてくれたり、一緒にあの駅に行ったり。機嫌がえぇ時は自分が作った曲を自ら演奏して聞かせてくれたりと、ワイに対して距離を置こうて強張ることは、のうなった。

渡邊さんに聞いたら、その日は光ん兄貴が、学校サボってまで会いに来てくれたんやって。そん時きっと、大好きな兄貴に何や言われたんやろうって、言うとった。


なんでそない大好きな兄ちゃんと別れて、渡邊さんと一緒に暮らしとるんか、とか。光の兄ちゃんってどんな人やろうとか、まだ知らんことはようさんある。


やけどそれは、当たり前のことなんや。


やって光かて、ワイのことをみんな知っとるわけないもん。
そのことにワイは、やっと気付けた。もっと早う気付いとったら、ワイのエゴのせいで光を苦しめることも、なかったのやろう。やけどもう、それを憂いても遅い。
今ワイは、ワイに出来ることをするだけや。


同じ間違いは、二度とせんように。



そんなお互いの知らないことを、少しずつやけど減らせるように。
一つでも多くお互いのことを、知るように。


ワイと光は、時間を重ねた。

それはワイにとって、どんな時間よりも大切なモンやった。






「…遠山、ちょおえぇか?」


そんな日が暫く続いて。
教室に現れたんは、部活の元部長。男のくせにやけにキレーな顔しとるから、最初テレビに出とる人やなんかと、思うたくらいや。その、女子らが「かっこえぇ」と囃したてる顔には、キレーな笑顔が浮かべられとったけど。纏っとる空気は、どこか重苦しいもんがあった。

あぁ、最近光んところ行くからて、部活サボってもうてたなぁ、しかも無断で。
それで今の部長に、頼まれたんやろ。ワイよりテニスが弱い今の部長の言うことなん、ちっとも聞かんワイのところに、元部長がやってきたんは。


わざわざ一年の教室にまで来た元部長に促されるまま。女子らの黄色い悲鳴っちゅーヤツを背中一杯に浴びながら、ワイが辿り着いたんはテニス部の部室で。夏の大会前は…光と出会うまでは、あんだけ通うとったんに、ここ最近は足を踏み入れるどころか、その前を通ることすらなかった場所。

持っとった鍵で部室のドアを開けた元部長に入るよう言われ、めっちゃ久しぶりにその中に入った。相変わらず埃っぽくて、それから汗臭さのような臭いが充満しとる。でもどっか、懐かしい場所。



「…自分、最近部活サボっとるようやな?部長が嘆いとったで?遠山が言うこと聞かんて」



机の傍に置いてあったパイプ椅子に座ると、元部長はキレーな顔に笑顔を張り付けながら、ワイの方を見て口を開いた。
その内容は予想しとった通りで。真面目やけどテニスは弱い、そんな今の部長にちょおムカつきながらも。突っ立ったまんまワイは、その言葉に応える。


「…別に、部長に出て来いなん、言われとりませんし。ワイにかて用事くらい、ありますし」


敬語なん、滅多に使わんワイやけど。この人は別や。なんちゅーか威圧感?そういったモンが、滲み出取る…キレーかもしれんけど、嘘くさいその笑顔から。


ぶっちゃけんでも、ワイはこの人が苦手やった。


テニスかて完璧にやってみせて、頭もえぇらしいし。それにいつも、にこにこしとって…やけどその笑顔は絶対に、本当に笑うとるモンや、のうて。
同級生連中は皆、この元部長のこと、尊敬しとったし、色々と励まされたり憧れたりしとるみたいやったけど、ワイは違うた。


どうしても、この人間味のない人を、好きになることなん、出来んかった。



「…用事て?何なんや?言うてみ?」


キレーに笑う。ワイはそっから逃げよう思うけど、逃げるなん、出来ん。ドアはしっかりと閉ざされとる。目の前の人はワイを見て、笑うとる。キレーな、やけど奥が見えん瞳で、こっちを見ながら。



「…友達に、会うことです」

「友達?そんなん、部活サボってまで会う必要、あるんか?そないな価値が、その友達にはあるんか?自分にとって大好きなテニスよりも、大切なモンなんか?」



絞り出すように言葉を出せば。すぐに言葉が返される。
それを聞いてるうちに、ワイの中で何かが沸々と、湧き上がってきて。



「ひかるんこと、馬鹿にすんなや!ひかるは…ひかるはテニスなんかと比べモンにならんくらい、ワイにとっては大切な人や!!…ひかるんこと否定するんは、許さんわ!!」



椅子に座ったままやった元部長の、襟首を掴み立ち上がらせる。ワイよりも上背のある人やったが、細いその身体は面白いほど簡単に、ワイの思い通りになった。

そうされてもまだ、笑いながらこちらを見とるその人に、益々怒りに似た感情が湧いてくる。
まるでワイと光、両方のことを否定されたように、感じられたから。



やけど、次の瞬間に元部長の口から出た言葉は、ワイが想像だにできんモンやった。



「…合格、やな」

「……は?」




何がやと問う前に、えぇ加減離せ言われて。襟首を掴んだままやった手を慌てて離す。その時に謝ろうかと思うたけど。やっぱりさっきの発言は許せるもんやないと、開きかけた口を閉じた。
そんなワイを見て、今度はホンマ楽しそうに笑うて。乱れた襟元を直しながら部長は、言葉を続ける。



「光の名字、聞いとらんのか?…しゃーない奴やなぁ、光も」

「あ、の。ひかるんこと、知って?」



ふふふと、声出して笑うこの人を、ワイははじめて見た。
それは今までワイが抱いとったこの人のイメージを、根本から覆すようなモンやったんやけど。

せやけどワイがそれに気付くんは、もっと後の話で。
ワイがちゃんと、状況を飲み込めた後の話で。



「光の名字な、白石言うんやで?一緒に暮らしとらんけど、光は俺のたった一人の…大事な弟や」



…今、何て言うた?
誰が誰の、弟やって?



「…やから。俺が光の兄貴や言うとんねん…聞いとらん?テニスやっとる、光が大好きで大好きで、しゃーない兄貴の話」

「…はぁぁぁ!!?ぶ、部長がひかるの、兄貴やて!!?」



チャイムの音が遠くで聞こえる中。ワイは思いきり元部長に人差し指を突き付けながら、大声で叫んどった。


元部長は相変わらず笑うとったけど。その笑顔はワイが見たことがない…多分、この人にとってホンマの笑顔やった。










「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -