ホンマ、自分ってヤツがわからん時がある。


自分のことは自分が一番わかっとる、なんてよぉ言うくせに。
自分ってヤツが、世界で一番わからん時もある。


何で?どうして?自分でやっとる事なんに、そう思うてばっかりや。





11 Why?




「…あれ、蔵ノ介…と、小石川?」



約束の次の日曜は、雨が降っとったから。海に行くんには適さんやろっちゅーことになって。
屋上で話した日から十日以上経ってやっと、俺と千歳の約束は果たされることになった。


そんな千歳との約束を果たすべく、待ち合わせの場所に向かう途中。
交差点の向こう…蔵ノ介と、彼と並んで信号待ちをしとる俺のクラスメート…小石川健二郎の姿が、あった。


小石川は学校を休みがちな俺にとって、あのクラスの中では唯一といってもえぇ友人で。俺の事情についても詮索なん無粋なことせんで、休み時間なんかは一緒にいてくれたり、教室ん中におるときは、殆どを一緒におってくれたりした。


そんな小石川と、横で笑うとる蔵ノ介。
蔵ノ介はあの日から…懺悔にも似た言葉を言うた日から、俺の目の前に現れんように、なっとった。それまでは、どない酷く喧嘩したとしても、三日と経たん内にまた、笑顔を見せてくれとったんに。こない長い間、蔵ノ介と顔を合わせんかったことは、初めてや。

その蔵ノ介が、笑うとる。
結構人見知りするんは、兄弟揃ってなんか。親しない人間に対しては、作りモンの笑顔しか見せん蔵ノ介が、俺や光に見せとるんと同じ表情を、小石川に見せとる。


それは、俺にやからわかる些細な変化。俺にやからわかってしもうた、小さな違い。




俺には二人の接点が、何もわからんかった。
蔵ノ介は俺に、隠し事なんしないから。やから蔵ノ介と小石川があない親しいんやったら、俺にかて言うてくるはずや。小石川かて、つい最近学校で話した時には、そないなこと、言うとらんかったやないか。



信号が変わる。止まっとった人々の足が動きだす。それは向こう側の二人も同じ。
俺かて約束を守るためには、この足を動かして、向こう側へと歩かなアカンのに。なのにこの足は、いっこも動かんで。


笑い合う二人が、俺なんかには気付かんで、通り抜けていった。



信号が、点滅する。ほら、早う行かな。約束の時間に、遅れてまう。それなんに俺の足は、やっぱり動かん。通り過ぎてく人々が、怪訝そうな目を向けて来る。なんで止まっとるんやって、顔しとる。

やけど、自分が一番わからんのや。なんで動けへんのか、動かへんのか、わからんのや。


信号が再び、赤になる。動いとった人々の足が止まる。



気付けば俺は、走り出しとった。
やけどそれは、身体が向いとった方角ではなく。蔵ノ介と小石川が歩いて行った方角へ。





なんでこないなことになってんのか、自分でもわからんかった。
なんで俺はこない一生懸命になって走っとるんか、わからんかった。


やけど俺は、走った。蔵ノ介たちを追って、走った。



ホンマは約束したんやから、千歳んところに行かなアカンって、わかっとった。昨日やって電話で何度も、待ち合わせ時間と場所、確認して。絶対行くて、言うたんやから。千歳んとこ行かなアカンてことくらい、わかっとった。

やけど千歳やったら一回くらい約束を破ってしもうても。一回くらい遅刻してもうても。また、あのちょっと困ったような顔して、それで許してくれるて思うた。



ホンマにアホやな、俺は。
それはつい最近まで、俺が蔵ノ介に対して、思うとったことと全く一緒やった。
あいつなら許してくれる。勝手にそう思いこんどるだけやって、まだ気付けんでいたんや。



結局俺は、他人から向けらとる好意の上に、胡坐かいとるだけやったって、ことを。


千歳と一緒におると、安心する。会うてまだ間もないのに、ほっとする。蔵ノ介と一緒におる時と、それは似とった。
そう、俺は蔵ノ介が当たり前のようにしてくれとったことを、千歳にも求めとったんや。二人は全くの別人やって、わかっとるくせに。



それでも阿呆な俺は、まだ気付けへん。



「…謙也、遅かねぇ…」



俺に向けられとる好意がいつまでも続くもんやないって、ことを。











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