“運命の相手”


そないな漠然としたモン、誰にもおるもんやないやろし。そう簡単にわかるもんとも違うやろ。
そないなモンがわかったら、恋人同士やった人らが別れたり、夫婦だった人らが離婚したり。そないなことはなくなるやろ。


“運命”なんて言葉、俺は信じひん。


そないな言葉で全てを、諦めたない。そないな言葉で全てを、受け入れたない。
しゃあない、なんて思わへん。
神様っちゅー奴が決めたことやから、なんて思えへん。


やって、やったら何であの子が、あないな目に遭わなあかんかったんや。
それが“運命”やったなんて、俺は絶対に納得せぇへん。してたまるか。


やけど“運命”て言葉で片付けてまう方が楽な時かてある。“運命”やからしゃあないて、片付けてまう方が楽な時かてある。


“運命”なんて漠然としたモンに、揺らがされたない。
やけどその“運命”て言葉を言い訳にしとることも、確かなんや。


そんな俺にも、おるんやろうか。“運命の相手”っちゅー奴が。





09 Live a lie




「…やっぱりここに、おったんか」


いつものように、屋上に一人寝転び空を見上げる。
この空は地球上だったらどこまでも続いちょる。今は離れて暮らしとる、あの子とも繋がっちょる。

手を伸ばせば、あの子の笑顔に届く気がした。そぎゃんこつ、科学的に不可能だってことくらいは、分かっているけれども。


学校にいても、つまらない。あの子たちがおらん場所に、興味はない。ばってんあの子たちに会いに行くこつは出来ん。ほなこつ、つまらない。
頭のモヤモヤを消すように、目を閉じて見る。浮かぶのは遠い郷里。あの子たちと暮らしていた、あの町。


懐かしい顔が、俺に向かって笑った。


と、視界に影が落ちる。
空の代わりに飛び込んで来たのは、太陽みたか明るい色をした、髪。


「んー最近よう会うとね。何ね、ストーカー?」

「アホなことぬかすなや…その、蔵ノ介がすまんかったな。堪忍やで」


そう言うとそぎゃん髪の持ち主…謙也は思いきり、頭を下げた。ばってん、寝転がっとる俺から見たら、まだまだその頭は遥か高かところに、あって。


「…謙也ぁ、頭がたかーい。控えよー」

「て、自分は黄門かい!」

「正確には、格さん…ん?助さん?」


謙也が言うちょる“蔵ノ介”とはきっと、先日俺に因縁?つけてきたきれーな子のことだろう。あん後教室に戻って確認したから、間違いなか。あん子は謙也のこつ、好いちょるんに。

初対面の俺にまで、あんな目して見せたくらいに、謙也のこつば好いちょるんに。

どぎゃん風に謙也に俺とのこつ、説明したかは分からんばってん、それを本人に謝られとるなん知ったらあの子、どぎゃんこつに、なっとね?


きっと怒りと嫉妬で、顔真っ赤にさせて。だけん謙也のすることには、口も出せんで。一人でまた、溜めこんで、溜めこんで。あぁ、むぞらしかね。ほなこつ、馬鹿な子。



「ホンマにごめんやで。蔵ノ介かて、悪気あって自分に俺の邪魔すんなーなん、言うたんとちゃうし…」

「分かっとっとよ。蔵ノ介くんは、謙也のこと心配しちょるから、あぎゃんこつ、言うただけっちゃろ」

「千歳…分かってくれるんか!おおきにな!!」



そう言い笑う謙也は、一体どこまで知っとっとね。
蔵ノ介くんの気持ちには、気付いとるのか。気付いとる上でこぎゃんこつ言えるのだったら、彼は俺が思っちょる以上に、罪深い。


俺が少し口角を上げて、笑みを作ってみせれば。それだけで安心したように、俺の何倍も大きな笑みを、返してくる。



あぁ、ほなこつこの男は……



それ以上は、言葉にしたらいかん気がした。
それ以上を、言葉にしたらいかん気がした。



まだこの関係ば壊したくなか。

だからまだ、言葉にしたらいかん。そう思った。




***




数日前。蔵ノ介が真っ青な顔して訪ねて来た。いつもやったら必ず持ってきとる、差し入れとか学校のプリントとか、一切持たずに。それどころか学校帰りやろうに、自分の通学カバンすら、持っとらんかった。


そないな蔵ノ介を見るんは、こない長く一緒におるんに、まだ二度目のことで。
どうしたらえぇか。何て声掛けてえぇんか。分からん俺はただ、うろたえとるだけで。


ゆっくりこちらに倒れて来た蔵ノ介の、体格はそない変わらんはずなのに、やけに細く見える身体を受け止めることしか、出来んかった。受け止めたその身体は、妙に冷えとった。


あとはただ、蔵ノ介本人が落ち着くんを待つだけで。時折何か、途切れ途切れに声が聞こえて来たけど。それは到底「言葉」ということはできんもので。


何でこないになってしもたんか、俺にはわからんかったけど。



―――俺、めっちゃ嫌なことしたわ。千歳に謙也の邪魔するななん、言うた…そないなつもり、なかったんに。そないなこと、言う必要なん、ないんに。



ようやく紡がれた言葉に俺が思うたことは。
そんなに俺のことを想ってくれとったんやっていう喜びよりも。


なんでそないなことしたんやっていう、怒りに似た想いであって。



―――蔵ノ介はそないなこと、気にせんでえぇんや。俺は俺で、やっとるんやから。


そう言ってしまった時の蔵ノ介の顔は、部屋に飛び込んできた時以上に青白かった。










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