後悔なん、何度したってえぇ。それで次が上手くいくんやったら、いくらでもしたる。 やけどもし、それが最後のチャンスやったら。 後悔したってどうにもならへん、場面やったら。 やり直しなんて利かん、時やったら。 ワイは一体、どうしたらえぇんやろう。 最近、色々考えてばっかりや。 ……そんでもって何一つ、解決出来てへん。 08 Un healable 「…今日も、おらん…」 あの日…一緒に学校に行った日から、もう十日が経った。 次の日から三日間、大雨が降り続いとったせいで、その間は行けんかったのやけど。せやけど、雨が止んでからは毎日、部活をサボってまでワイはこの場所に…光といつも会っとった廃駅に、来とった。 やのに光は、ずっとおらん。毎日、日が沈むまで、日が沈んで小春かユウジが迎えに来るまで、ワイはずっと、いつもやったら二人で座っとったベンチに一人で座って、待っとるのに。 やのに光は、ずっとおらん。またって言うたんに、おらんのや。 「…ひかる、どないしたんやろ…」 広いベンチの左側に腰掛けると、足をぶらぶらとさせる。いつもやったら右側に、光がおってくれるんに。 ワイが座れるようにて、右側に座って場所を空けといてくれるんに。どない小さな声にやって、呟きにやって、気付いてくれた、言葉を返してくれた相手が、今はおらん。 なんや、ベンチに空いとるスペースと同じように、心にもぽっかり、間が空いてしもたような、感覚。 『これ。ヒカル君に会えたら渡しといてや』 ユウジから預かった、あの日の写真はカバンの中に入れられたまんま。 そこに写っとる光は、控えめにやけど笑うとって。ワイと同じ制服着て、ホンマにワイと同じ学校に通っとる生徒みたいで。 ホンマに、いつもワイの横におる、そんな人みたいで。 「…ひかるに、会いに行こう」 放り出したまんまのカバンを掴むと、前に一遍教えてもろた住所へ…光が住んどる場所へ、走り出した。 そこであない辛い目に遭うなんて、ちっとも思わずに。 ただただ、光に会うために。走り出した。 *** 「…自分が、“トオヤマキンタロウ”か」 「…せやけど…おっさ…お兄さん、誰なんですか?」 「俺か?俺は光の保護者や」 光に教えられた場所は、街はずれにあった。光とその保護者(名前も聞いたんやけど、忘れてしもた)が二人で住んどるっちゅーその家は、二人で暮らすには広すぎるんやないかって、思うた。 そしてその家はワイを拒んどるような、そないな気がした。そんなん、気のせいやって分かっとるんやけど、やけどそう感じさせる何かが、そこにはあった。 一度大きく深呼吸してから、震える手でチャイムを鳴らすと、出てきたんは光やのうて、知らんおっさん…否、お兄さん?色素の薄い髪はぼさぼさで、無精ひげが生えとって、決して綺麗とは言えん。せやけどそっから来る威圧感?みたいなモンは半端なくて。 思わず、普段滅多に使わへん敬語が出てしもた。 ワイの言葉にその男は平然と、当たり前のことを聞くな、とでも言いたいように答える。 「…会いに来たんやろ、光に」 その威圧感に、身体が竦んでしもうて何も言えんようになっとったワイに、お兄さんは心底面倒くさそうに、そして嫌そうに言う。 ここで少しでも躊躇うような素振りをしたら、もうこのまま二度と、光に会えんような気がして。 「っはい!」 腹の底から、声を出した。 お兄さんは一瞬やったけど表情を柔らかいモンに変えて。すぐ元の眉間に皺寄せたような顔に戻して。 「…入りや。光は奥におるで」 顎だけで奥を示すと。自分は煙草買うて来る言うて、出ていってもうた。 すれ違い様にそのお兄さんから、光と同じ匂いがした。 → |