せかこい。05





おとぎ話なんて所詮作り物でしかないって、そんな出来過ぎたハッピーエンドなんて現実にはそうそうないって、まだ夢と現実の区別が出来ていない甥っ子に言い聞かせた。
そうすると奴はびーびーと泣いて、そしてこう言った。


「しんじてればホンマになるもん!しんじらんひーくんのとこには、おーじさまはきぃひんの!」


王子様はまだ、俺のことを見ていてくれるのかな。
ハッピーエンドを連れた王子様は、ちゃんと俺を見つけてくれるのかな。






第五話 LOVE IS BUBBLE






『…うちらな、財前ちゃんには幸せになってもらいたいんよ。やからこの考え、聞いてもらえたら、嬉しいんやけど』


そう前置きされて小春先輩から出された提案は、それまでの俺だったら到底受け入れることが出来ないものだった。だけどその時の俺は、ある意味失恋以上の落胆を味わっていたもんだから。


『…わかりました。俺、やってみます』


一生分の素直さを使い切るくらいに、俺はすぐに首を縦に振った。

それに後悔したのは、その次の日。それまでぶちょーに、確かに迷惑がられていただろうし、何か色々言われてしまったけれど、だけど毎日すぐ傍にいられたぶちょーに、近付けないし話しかけられないし。

はっきり言わなくても、ぶちょー欠乏症だ。ぶちょーに「財前」って呼ばれる度に高鳴る胸を押さえ、「はい!」と忠犬よろしく尻尾振って飛びつきそうになるのを必死に押さえて、まるでもう、ぶちょーになんか興味ないような素振りするのは、至難の業だった。

だけど、先輩たちから「さっき白石、財前の方見とったで」「朝練の後白石、財前のこと気にしとったで」等々、嬉しい報告がされて。あぁ、小春先輩が言った通り「押してダメなら引いてみろ!」は恋愛の極意だったんだなぁ、と、実感していた。

だけどやっぱり、ぶちょーに近寄れないのも話しかけられらないのも、寂しくてたまらなくて。
それに加えて俺を励まそうとしているのだろうが。千歳先輩と先生によって毎日のように繰り広げられる、(自称)先輩カップルからのラブレクチャー(これ、ネーミングセンス最悪やな!)と言う名の惚気にも、辟易していた。何気に部内で一番モテる金太郎から「まだくっついとらんの?」と、毎回違う女子を横にはべらかして言われる度に、ぴきっと青筋が立つことがわかった。一瞬でもこの人たちに感謝した自分が、アホだと思うくらいに。



そんな日が何日も続いて。
休み時間突然教室に飛び込んできた謙也クンに「光、やったで!」と言われた時には何のことだかわからなかったが。


「白石な、光がちょっかい出さんようになってるんが寂しいて、やっと認める気になったみたいや!俺、さっき相談されてもうた!!」


まるで自分のことのように笑う謙也クンと手を取り合って女子みたいに喜んだことは、言うまでもない。


まぁその後渡邊先生に呼び出されて、多分前日に千歳先輩と一緒になって熱血教師ドラマでも観たんだろう。生徒の為に頑張ってる俺、かっこいい!って顔をしながら色々聞かれたけど。


『……もう、先生らのおせっかいも千歳先輩のラブレクチャー(笑)もいりませんて!小春先輩らの言う通りにしとれば、ちゃんとぶちょーは俺のこと、見てくれるんすから』


そう、もうそんなものいらない。だって謙也クンが言うことが本当ならぶちょーは、俺のことを意識し始めてくれているんだから。
それに最悪、とある筋から入手したアレがある。アレがあればもう、ぶちょーのハートは俺のものだ。よっしゃ、よく我慢した、ここ最近の俺!これで堂々とぶちょーと話せる日も近いで!


意気揚々と向かった部室に、まだぶちょーはいなかった。嬉しそうに顔をほころばせた小春先輩が近寄ってきて。


「いい?財前ちゃん。蔵リンと目が合ったらさり気なく逸らすんよ。そんで、傍から離れるの。蔵リン、そないなことされたことなんないはずやから。余計財前ちゃんのことが、気になってまうわ!」


最後の仕上げだと、それから今までよく頑張ってわねと、頭を撫でて笑ってくれた。それがすごく、嬉しかった。


きっと先輩たちの言う通りにしていれば、ぶちょーは俺のことをちゃんと見てくれる。俺の気持ちにも気付いてくれる。そう、思っていたのに。


小春先輩に言われた通り、ぶちょーから目を逸らした。それからぶちょーは俺の名前を一度も呼ばなかった。俺の方を、見ようともしなかった。



俺にはわかった、ぶちょーが俺との間に今まではなかった“線”を引いたんだって。だって俺、ずっとぶちょーのこと見てたから、それくらい分かるんだ。



俺はぶちょーに、拒否られたんだ。
あの時は俺がいない所でだったけど、今度は面と向かって。



何で?何で?何で?
そう思いながら部活を続けて、気遣ってくれる先輩らに笑顔(になっとったかはわからん)を向けて。ろくに練習に身も入らん内にもう部活が終わるという時間になった時、ふっと意識が遠退く。あぁ、そうだ。今朝ちゃんと朝飯食べて来なかったし、昼飯も先生に呼ばれてロクに食べられてなかったし。加えて最近ぶちょー欠乏症で、体調悪かったんだ。
そんなことを一気に考えながらも身体は言うことをきいてくれなくて、どんどんと地面が近付いてくる。





薄れていく意識の中で心配そうに歪んだぶちょーの顔が、見えた気がした。













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