せかこい。04





いらない?何が?
あぁ、俺か。俺がいらないのか。
だってさっき俺のことなんかもう知らんって、言ってたもんな。だから財前は、俺に追いかけ回すことを止めたのか。だから財前はもう、俺に話しかけてもこないのか。


そうか。やっとわかった。


俺は財前が俺の手元から巣立ってしまうのが、寂しかったんだ。
これはきっと、親心。そうに決まっている。そうじゃないと、やっていけるもんか。
わかった途端に、もういらないと言われてしまった、真実なんて。




「……もう、先生らのおせっかいも千歳先輩のラブレクチャー(笑)もいりませんて!小春先輩らの言う通りにしとれば、ちゃんとぶちょーは俺のこと、見てくれるんすから」



まだ背後では何やら話し声が聞こえていたが、俺の耳はもうその言葉を拾うことはなく。
ただ身を翻して、教室に戻る自分の足音だけを、脳に伝えていた。


あぁ、原稿届けるの忘れたなって、気付いたのは次の授業が始まってからだった。いつの間にか手に力が籠っていたのか、それはぐちゃぐちゃになっていて。もう一度プリントアウトしなきゃなって、ぼんやり思った。


それからの授業も、ちっとも頭には入らんで。ただ右から左へと通り抜けていく。いつもはどこの出版社の参考書もびっくりってくらいに綺麗にわかりやすく取っているノートには、黒ポチ一つすら、描かれていない。そんな俺に謙也は何か言いたそうな顔をしていたけれど、俺はそれを拒んだ。





そんなまま迎えた放課後、部活の時間。財前と目が合う。
前は逸らされることがなかったそれが、すぐに逸らされる。

と思うとすぐに、彼は俺の傍から離れていって。伸ばしかけた手が何を掴もうとしたのか、開きかけた口から何を呼ぼうとしたのか、俺だってもう、わかっている。わかっているけど、認められない。認めてしまうとあまりにも、自分が惨めだから。自分が可哀想だから。


そうだ、知らないと言われたんだから。俺だって財前を必要としないようにすればいい。俺だって財前のことを、構わなければいい。俺だって財前のことなんか、もう知るもんか。

そう思い、その日はもう財前の方を向くことも、彼個人に対しての指示を出すこともしなかった。



そんな俺の背中を、寂しそうな顔をした財前が見ていたなんて。ちっとも気付かずに。
また俺は、自分のことで一杯になっていて。周りを見ようとしていなかった。







「きゃあぁぁあ!!」




部活も終盤に差し掛かり、さぁ集合を掛けようかと思った頃。小春の金切り声に近い悲鳴が、コート一杯に響く。

普段、ふざけて発しているそれとは違う色をその声に感じた俺は、小春の方を見る。
すると、そこにいたのは。



「光!しっかりせぇ!光!?」

「ひかるー!どないしたん!?目ぇ開けぇや!!」



彼の周りを取り囲み、顔を青くしている部員たちと。
コートに力なく横たわり謙也に抱えられている、財前の姿だった。


久しぶりにちゃんと見たその姿は、俺の知っているそれよりも大分痩せて見えた。
このときになって俺は、初めてちゃんと財前のことを、見ようとしたんだ。


気付けば足が、地面を思いきり蹴っていた。俺にはもう、財前しか見えていなかった。




いらないって言われたっていい。だってそれまで俺が散々迷惑がっていたのに財前はそれを続けたんだから。散々追いかけ回して、勝手に好きだとかもう知らんだとか、言ってきたんだから。




今度は俺が、仕返してやる番だ。











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