せかこい。04 自分勝手?自己中心的? そんなこと、誰が言うんだ。 そんなんじゃない、そんなんじゃない。 俺はただ、ただ… 第四話 ONE on ONE 嵐のように俺を襲い続けていた財前からの攻撃?がぴたっと止まって、早いものでもう一週間が経った。 はじめのうちこそ「せいせいしたわ!」と公言していた俺だったが、そう言う度に部員たち+顧問からの痛い視線が突き刺さった。何故俺がそんな目で見られなきゃならない。俺は被害者だ。そう言ってやりたかったが、皆の目があまりにも真剣だったから、それ以上口を開くことは出来ず。そして財前も、俺に対して口を開くことがなくなっていた。 そう、全くなくなっていたんだ。 指示を出しても首を縦に振るだけ。それ以上の反応を求めようとすると、どこからか湧いて来た謙也や金ちゃんに阻止されてしまう。一体、何がどうなっているんだ?この時期になって部長イジメか? そしていつからか、俺はそんなことすら考えないようになっていた…違う、考えないようになっていたんじゃない、考えないようにしていたんだ。 だって考えてしまったら、財前からの反応がなくなってしまったことに対して“寂しい”と感じている自分を、認めざるを得ない状況になってしまうから。 「…どないしたんや、白石。最近元気ないやん」 そんな日が何日か続いて。 財前のことを気にすることも、そのことで周りから痛い視線を投げつけられることもなくなって。それにすっかり、馴れたつもりになっていたある日。 ニブチン王のくせに他人の顔色の変化には人一倍敏い謙也が、前の席にどかっと座ると俺の顔を、じっと見て来た。その目に写された俺の顔は、お世辞にも輝いているようには見えない。謙也の言う通り…否、それ以上に疲れた様な顔をしていた。 その理由を理解出来ないほど、俺は馬鹿じゃないし、自己管理が出来ていないわけでもない。 だけどただ、認められなかっただけだ。 「…何で財前は、俺に寄りつかないようになってもうたんやろ。俺、何かしたか?別にフツーやんな?」 その理由が、財前だなんて。あれだけ迷惑だと思っていた財前の行動がなくなってしまったことに、頭を悩まされているだなんて。 「何言うてんねん。自分、光んこと迷惑しとったんやろ?やったら別に、えぇやろ?それとも何や?その気もないんに優しいして、光んこと、弄ぶ気なんか?」 俺の言葉に途端、顔色を険しいものに変えた謙也が唸るように低い声で言う。その言う通りだ。今更、何を。俺だってそう思う。だけど、だけど。 「……しゃーないやん。そりゃうっとおしいて思うとったけど…やけどいざ無くなってまうと、なんちゅーか…なぁ?」 “寂しい”って言葉を使いたくなくて、語尾を濁して苦笑いを浮かべた俺に対して謙也は、未だ1年で何度もしないんじゃないかって思うくらいに真剣な顔を、したままで。 「…なぁ白石、ホンマは光んこと、どう思うとるん?ホンマに光んこと、うざかってん?」 少し泣きそうな顔をしてそう言うと、委員会があるからって教室を出て行ってしまった。 財前を本当はどう思っているかなんて。そんなこと、俺自身が知りたい。 「…まぁ、知ったところでどうなるかなん、わからへんけどなぁ…」 呟いた言葉を拾ってくれる人間は、そこにはいなかった。 謙也が去った席をぼうっと見ていたが、このままそうしているのも時間の無駄だし。俺が校内新聞に連載している小説の原稿を、編集やっている後輩に届けに行こうと思い立ち、席を立つ。心のどこかで2年の教室に行く途中で、財前に会えるのかもしれんって、思っていたのかもしれん。そのせいで心は重たいというのに、どこか軽い足どりで2年生の教室がある棟へと向かう途中、廊下の角を曲がった先に見慣れた人影があった。 そこにいたのは財前と、それからオサムちゃん。 珍しい組み合わせだなぁと思いながらも何を話しているのかが気になって、自然とそちらへと近付いていくと。普段は見せない様な真剣な表情を作ったオサムちゃんが、財前に向き合うと、口を開く。 「…なぁ財前。ホンマに自分、大丈夫なんか?無理しとらんか?」 「…俺もう、ぶちょーのことなん、知らんっすわ。それに、ぶちょーかて清々としてるんでしょ?こない可愛げない後輩につきまとわれんようになって。すっきりしとるんちゃいます?」 別に隠れることなんてない。なのに俺は身体を2人の死角になるように隠して。まるで盗み聞きをするように、全神経を両耳に集中させて。 尚も口を開く、オサムちゃんの言葉と、それに対して返される、財前の言葉を拾い続ける。 「白石のことやなくて、自分や自分!自分が大丈夫なんかって、聞いとるんや」 「やけに突っかかりますね。千歳先輩に何か言われたんすか?だったら先輩にも、伝えとってください。俺は大丈夫です。ぶちょーがおらんでも、俺は全然大丈夫ですって…もう……いりませんて」 → |