せかこい。03






好きだった。本当に好きだった。だった、じゃない、今でも好きだ。
だけどそのことで、あなたに辛い思いをさせたくない。
嫌われるくらいだったら、好きになってもらえなくてもいい。
可愛げのない後輩でもいい。



だからせめて、嫌わないで。






第三話 Lambency





ぶちょーにはじめて会ったのは、去年の春の日。
桜もキレーだったし、制服に身を包んだ女子たちは見違えるようだったし、男友達だって皆、大人っぽく見えていた。
中学生ってそれだけで、何か大人になれた気がしていた。
そんなある日のこと。


制服は楽だったから好きだったし、クラスに同小の奴が何人かいたから、学校生活自体はそこまで苦ではなかった。ただ、放課後のことを考えると頭が重くなるだけで。放課後…そう、部活動だ。

部活なんてめんどくさいって思っていた。しかも文武両道をモットーにしていらっしゃるうちの学校は、運動部と文化部、両方に所属しなきゃいけない。そんなこと、知らなかった。ただ家から近いってことだけで学校を選んだことを、俺は入学して数日で後悔していた。

文化部は…まぁ、趣味である音楽に関係するものを選べば苦にはならないだろうし。選択の幅も自然と狭まる。だが問題は運動部だ。別にこれといって、好きな運動もなければ嫌いな運動もない。身体を動かすことは嫌いではないが、好き好んでやろうとは思わない。そんなレベル。



「なぁ財前ー、自分もう部活決めたか?」


そんな風に迷っていた時、同じ小学校だった奴から声を掛けられる。
小学校までは「光」と名前で呼ばれていたものが「財前」と名字に変わったことにも馴れた。俺もそいつのことを、名前ではなく名字で呼ぶし。そんな奴の言葉に、俺はめんどくさそうに首を振った。事実、次週に提出せねばならない部活選択の用紙は、真っ白だったから。
首を振るだけでなく、机の中から真っ白な紙を取り出して示してやると、そいつはホッとしたように笑ってみせて。


「やったらさ。一緒に見学行こうや。他の連中、殆ど決めてまってんで」


そう言うと俺の返事も待たずに、歩き出す。その強引さにため息を吐きながらも、この時こいつが強引な態度を取ってくれなかったら、俺はテニス部に入ろうなんて思わなかっただろうから。今では感謝している。




「…ほな、最後はテニス部やなー」


野外の部活動を一通り見学して、最後に向かったのがテニスコートだった。
そこに、ぶちょーはいた。


「先輩ら!次はそっちのコートで新入生見たって下さい。二年は外周や!」


汗を拭いながら、少し掠れた声で指示を飛ばす。その声に二年生らは素直に従っていたが、三年生らはぐちぐちと小言を零して。そんな三年生にぶちょーは、よろしくお願いしますと、頭を下げていた。


「…何やねん、この部活…二年生が部長なんか?」

「……そーみたいやな。へこへこしよって、カッコ悪」



これがぶちょーへの、第一印象だった。


そう、俺にとって部長という役割は、部員一同に慕われて、その指示だったら誰もが聞く。そして部員たちの手本になるような存在だった。現に今まで見て来た部活の部長さんらは、そうだったと思う。

だというのに、この部の部長は。
三年生に動いてもらおうと頭を下げて、他の二年生がそんな三年生に苦い顔をしているのを宥めて。自分が一番偉いはずなのに、ちっともそうは見せないで。自分で球拾いなんかもして。


「あーでも、部長が二年っちゅーんも、楽かもなぁ…三年との間に入ってくれそうやし。財前、自分絶対目ぇつけられよるで。そないピアスじゃらじゃら着けよってからに…」


カッコ悪いと言いながらも、俺の目はぶちょーに釘付けになっていた。
確かにぶちょーは俺の部長像とはかけ離れていたけど、だけどそのテニスは素人の俺が見ても明らかに上手かったから。

そんな俺同様に、コートの周りを囲っているフェンスに顔を押し付けてテニス部の連中を見ていた友人が、思い付いたように言う。それまで俺は隣にこいつがいることを忘れていた。それくらいにまで、ぶちょーに目を奪われていたんだ。そのことに気付いたのは、ぶちょーのことが好きだと、自覚したあとのことなんだが。


「俺に心配より、自分が何部に入るか決めぇっちゅーねん…せやけどまぁ、言う通りかもしれんなぁ…」

「やろ!せやろ!?よっしゃ!俺も付き合うたるし。二人でテニス部入るで!」

「は?ちょっ!」


止めようと伸ばした手は逆に掴まれ。そしてフェンスの中…コートの中にいるぶちょーの方へと、一緒に連れていかれてしまう。他の人たちが驚きや不快を露わにし、ベンチでくつろいでいた顧問ですら驚いた表情を浮かべていたというのに。ずかずかと近寄って来る俺たちに嫌な顔一つせず。



「すみませーん。俺ら、入部希望でーす」

「そうか…大歓迎やで」



ぶちょーは俺たちに、笑顔をくれた。

俺は入りませんって、喉まで出かかっていた言葉は飲み込まれてしまい、もう二度と外に出てこようとすることはなかった。


こうして強引な友のおかげで、俺はぶちょーに近づく第一歩を踏み出せたんだ。











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