せかこい。01 どんな恋も、諦めなければいつか本物になるって。 ずっとずっと、信じてる。 馬鹿みたいに、ずっとずっと、夢見てる。 第一話 Look me in the eyes 気が付いたら、目で追っていた。 目が合えば信じられないくらいに、動悸が早くなって。身体の自由が、奪われてしまって。 こんなこと初めてだったから、どうしていいか分からなくて。 懸命にネットで調べたり、先輩たちに相談したりして、得た結論。 俺、財前光は、白石ぶちょーに、恋しちゃった、みたいです。 それからの俺はもう、一昔前の少女マンガのヒロインもビックリしてしまうくらい。一途にぶちょーのことを、想い続けて。 ぶちょーがシャンプーの香りがする子が好きだって聞いた日から、義姉さんが使っている、いい匂いがするシャンプーを使うようになった。 ぶちょーがチーズリゾットが好きだって知った日には、母さんと一緒に台所に立って、チーズリゾットの作り方を習った。 ぶちょーが若草色が好きだって教えてもらった日には、街中のアクセ屋廻って若草色のピアス探して、次の日から5つのピアス全てを、ぶちょーが好きな色にした。 ぶちょーはそんな俺の変化に、気付いてくれた。 シャンプーを変えた次の日には、香りだけでその銘柄を当ててみせた。 料理を習った次の日には、絆創膏の指を見て包丁でも使うたんかって、言ってくれたあとで、今日はあんま無理すんなやって、心配してくれた。 若草色のピアスをして行った日には、その色綺麗やなって、褒めてくれた。 なのに。 ぶちょーはちっとも、俺の気持ちには気付いてくれない。 今日だってぶちょーが好きだって聞いたから、いつも聞いてるUKバンドの曲じゃなくて、聞いたこともないようなグループの、トランス系?っちゅー曲を聞いて、ワザとイヤホン外してたのに。 「なんや財前。自分、そないな曲聞くんか。意外やな」 って、笑っただけで。 ちゃうんです。ぶちょーの好きなもん、好きになりたいんです。 ぶちょーが好きなもん、俺も好きになりたいんです。 少しでも、ぶちょーに近づきたいんです。 やって俺、ぶちょーが好きやから。 そう言えたら、どんなに楽だろうか。 だけど俺はそんなこと、言えないで。 「…俺かてたまには、新境地開拓したいんすわ。ぶちょーには、関係ないっすわ」 なんて。可愛げの欠片もないことを、言ってしまって。 あぁ、自己嫌悪。 それもそうやな、悪い悪いって、笑うと。何事もなかったように、副部長と一緒に、部室を出て行ってしまうぶちょーの背中に小さく、ごめんなさいって、言った。 本当に小さな声で呟くように紡いだそれが、ぶちょーに届くはずもなく。そのまま彼は、俺の方を一度も振り返らずに。部室を後にしてしまった。 「…財前ちゃん、健気やわねぇ…いじらしいわねぇ…」 「ホンマになぁ…ちゅーかあんなけ光が頑張っとるんに、何で白石は気付かへんねん」 「そら、モテ男白石君ですからぁ?その辺ちょお、マヒしとるんとちゃうん?」 あまりの不甲斐なさに、机につっぷしてしまうと。後ろからは先輩らの声がする。因みに俺がぶちょーのこと好きだってこと、ぶちょー以外のレギュラーはみんな気付いている。俺が言ったわけでも、相談に乗ってくれた小春先輩が言い触らしたわけでもない。曰く「見とったらわかる」だそうで。 そんなに…あの鈍感王謙也クンですら気付くくらいに分かりやすく、好意を剥き出しにしているのに。 俺の想いはちっとも、ぶちょーには届かない。 ホンマ、ユウジ先輩が言う通り、ぶちょーは凄くモテるから。だから好意を向けられることなんて、当たり前になっていて。俺の小さな想いなんて、ぶちょーに向けられている全部の好意の前には塵芥、ほんのちっぽけなものなのかもしれない。ぶちょーから見たらゴミ同然…否、それ以下の存在なのかもしれない。 そう考えたら、目の奥がツンっと痛む。あ、ヤバい、泣きそうかも… 「泣いたら駄目よ!財前ちゃん!!」 思わず嗚咽を漏らしてしまうと、いつの間にか目の前に腰かけていた小春先輩が俺の手を、強く握る。 「せやで光!まだ希望がない訳やないわ!!」 隣にどかっと座った謙也クンには、強く肩に手を置かれる。ちょっと痛い。 「まぁ、あのニブチンを振り向かせるんは至難の業やろうけどなぁ」 反対隣に座ったユウジ先輩は腕を組むと、溜息交りに言う。ぶちょーはニブチンなんかやあらへんって、小さく反論すると。 「そない口利けるんやったら、見込みあるやろ」 小春先輩にしか見せない笑顔で、俺の頭を撫でてくれた。 普段は頼りないとかキモいとか思う先輩たちだけど、こういうときは凄く、あり難いというか、頼り甲斐があるというか…兎に角、俺はこの先輩たちがぶちょーとは違う意味で好きなんだよなって、再認識させられるんだ。 → |