彼と彼らの日常。20








第二十話  彼と彼らの未来





小さい頃から人に褒められることが好きだった。
褒められる為に、完璧であろうと努力し続けていた。


昔から周りの子どもたちよりも、俺は勉強やスポーツが出来ていた。人をまとめる能力にも長けていた。
仕事が忙しい両親に代わり、妹の面倒もよく見たし、姉の手伝いもよくした。だからだろうか、他人から頼られることは馴れていたし、そうされることに喜びも感じていた。



そしていつの間にか“褒められるための自分”を作り出していた。本音を話せる相手なんて、家族しかいなかった。それだけでいいと、それが幸せだと、思っていた。信じていた。



―――これからよろしゅう、白石。



小石川に出会い、俺の世界は色を変えた。それまでは単調な色合いしかもたなかった世界が、沢山の色を…それは鮮やかであったり、くすんでいたりと様々だったが…見せてくれたんだ。



―――っちゅーわけで!今日から自分とうちらは友達や!



小石川と過ごすようになって、俺のことを“友達”だと言ってくれる人が、出来た。
知り合ったばかりの俺に、満面の笑みと共に差し出してくれた小春の手は、とても暖かった。



―――俺、自分みたいに嘘ついてへらへらしとる奴なん、大嫌いや。



自分がしてきたことの重さを、改めて感じさせられることも、あった。
あの時の財前くんの瞳は逸らされることなく、真っ直ぐに俺の中の汚い部分を、射抜いていた。



―――俺んこと巻き込んでまで新しくスタートやーとか意気込んどった白石は、どこに行った?



変わっていこうと、本当の意味でもっと自分らしく生きようと、思えた。
同じように変わっていこうとする仲間が…千歳がいたことがとても、心強かった。



―――ぐじぐじするんは、また後でも出来るやろ。やったら今俺らに出来ることするんが、先やっちゅー話や。



隣に立って挫けそうになったとき、励まされたことも、あった。
普段はへらへらしているくせに、忍足はこういう時一番頼り甲斐があって、一番強かった。



―――まぁ、急に言われても迷惑やろうし。考えるだけ、考えてもろうてもえぇかな?



たくさんのきっかけを、作ってもらえた。
言葉は少なかったがユウジは、細かいところにまで目を行き届けさせてくれていて、誰よりも俺たちを心配してくれていた。



そして俺は、変わっていくことが…成長していくことが、楽しくて楽しくて、仕方なくなって。



―――俺、これからも色々やってみるわ!色々挑戦、してみたいねん。俺、もっともっと、成長したいねん。



自ら変わることで、世界がもっとたくさんの色を見せてくれると、信じていた。信じていたんだ。
なのに。



―――自分は、俺と違う…やから、さよなら。



一番最初に手にしていた色の美しさを、俺は忘れてしまっていた。その色を失いかけるまで、その美しさを忘れてしまっていたんだ。



―――やってホンマにここで、お別れやからな…もっと早うに、こうしとればよかったんや。そうすれば期待なんすることも、希望なんもつことも、なかってん。



その色が本来の美しさを失くしてしまうまでに、追いこんでいたというのに。





小石川の身体が、ゆっくりと地面から離れていく。
一瞬、宙を浮いたと思ったそれは、重力に逆らえずに段々と、小さく、小さくなっていって。





「っ!小石川ぁ!」












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