彼と彼らの日常。07





「夏休みは…殆ど大阪におられへんねん…」



彼の方が、寂しいってわかっているのに。



「堪忍な…」



なのにどうして、彼は俺のことばかり、気遣うのだろうか。





第七話 小石川健二郎の不在





「ちゅーわけで!夏休みは目一杯遊ぶでー!」

「「「おー!」」」



昼休みの教室。広げられていた弁当を粗方食べ終わると、持参していたピンクの手帳を広げた小春の「もうすぐ夏休みやんな。みんな、もう予定は決まっとるん?」の一言を皮切りに。次々と飛び出す要望希望に決定事項。それらにふんふんと、耳を傾けながら。
次々と小春はスケジュールを組んでいく。部活のミーティングだかで席を外している小石川以外のメンバーは、皆文化部だったり俺のように帰宅部だったりで。特に夏休みだからといって目立った行事もない。
去年の今頃は、必死に合宿の予定立てたり試合のオーダー考えたりしてたっけなぁ、なんて。ちょっと感慨にふけっていると。



「ん〜大体こんなもんかしら?」



広げられたスケジュール帳には、綺麗に埋められた予定。遠出をする予定の後は、暫く間隔が開いていて。その代わり近場の夏祭りやら花火大会やらはいくら日が近くても、出来る限り予定に組み込まれていて。


「…なんて無駄のないスケジュールなんや…小春、恐るべし!」

「あら、褒め言葉としてありがたく頂いておくわ」


それは思わず唸ってしまうほどの、完璧さだった。



「まずは、夏休み初日!取り敢えず親睦を深めよう会〜!」

「「「いえーい!」」」



ノリノリの小春に賛同するように、皆拳を上げたところでチャイムが鳴る。

会話の最中ずっとクラスの女子から与えられた菓子を頬張っていた財前くんを引き摺るようにして、小春とユウジが、そして俺だけ別方向やん!と叫びながら忍足が教室を出たのと入れ違いに、小石川が戻って来た。
出て行く時には持っていたコンビニの袋がなくなっていたことからも、昼食はちゃんと摂れたのだろうが。その表情はどことなく、疲れているように見えて。



「どないしたん?何やあったんか?」



どさっと音がするように席に着いた小石川の方へと駆け寄ると、その顔を覗きこんだ。そんな俺に、あぁと力のないような声を出した彼は、そのまま溜息をついて。いかにも無理していますっていう笑顔をみせた。


「せや!小春らとさっき、ようさん計画立ててんねん。小石川も夏休みは、一緒に遊ぼうや!そんでもって、嫌なこととかぜーんぶ、忘れてまおうや!」



そんな小石川を元気づけようと。俺は努めて明るい声を出して先ほどまで皆で立てた(正確には小春が殆ど一人で立てたのだが)計画を写したスケジュール帳を見せて笑う。これを見れば、少し先の話になってしまうが、楽しいことを思い浮かべればきっと小石川だって元気になるって思ったから。



だが、俺のした行動は、全て裏目に出ることになる。



「…夏休みは、IHやらそれに向けての合宿やらで、殆ど大阪おられへんねん…さっきミーティングで、俺も聞かされてんのやけど…」



溜息と一緒に、どこか自嘲めいた笑みを浮かべながら発せられた小石川の言葉に。あぁ!地雷踏んだ!!と、俺は自分の軽率さを呪った。だが、一度言ってしまった言葉はどうしようもならない。それに、それ以上に。



「え…小石川、一緒に遊ばれへんの?ちゅーか夏休みの間、会えへんの?」



その事実が、悲しかった。



何だかんだ言って、小石川は俺にとって、一番最初に出来た“友達”で。
この一学期の間に色々あった俺の、一番傍にずっといてくれた人物で。


そんな小石川と夏休みの間…約一か月半、会えないという事実。
休みの日以外は隣にいることが当たり前だった人物が、俺の隣からいなくなってしまうという事実。

何よりそんな小石川と、一緒に思い出を作れないという、寂しさ。


それらが俺を、一気に襲ってきて。何だかぽっかり、穴が開いてしまったような、気分になって。



なんだかとっても、寂しい気分になってしまって。



「…堪忍な。小春らと、楽しんで来ぃや。俺も合宿とかで土産買ってくるし。楽しみにしとって」



一番辛いのは、寂しいのは自分であるくせに。だからミーティングから戻ってきてから、浮かない顔しか見せていないくせに。
小石川はまた俺を、優先する。自分以上に俺のことを、気遣う。

その優しさはとても嬉しい。嬉しい半面で駄目な自分を見せつけられているような、気にもなる。

俺だって、彼を力づけたいのに。どうしていつも、彼に寄り掛かってばかりになって、しまうのだろうか。


「…せか。楽しみにしとくわ!俺かて、ようさん土産、買うてきたるから。小石川も楽しみにしとけや!」

「おん。期待しとくわ」

「おー精々度肝抜かれへんように、用心しとくんやでー」


だからせめて。これ以上心配かけないように。
俺は寂しいという感情を押しこめて、笑った。
小石川も一瞬、何か言いたそうな顔をしてから、一緒に笑った。









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