「また派手にやったな…退学に、されたいんか?」



銀フレームの奥に光る黒目が、ゆっくりと細められる。
ワイと、その周りに転がっているモンに対して、まるで汚いモノでも見るように、まるで視界に入れるのも嫌だとでも言うように、眉間に皺を寄せながら。
生徒会長は、綺麗な革靴が汚れることを厭わず、一歩、また一歩と、ワイの方へと近付いてきた。




生徒会長




ワイの周りに転がっているのは、意識を失った人間。みんな制服を着ているけれど、その色形は様々。他校生もいれば、同じ学校の奴もいる。
中には角材やら金属バット、ナイフなんかを持ってる奴もいたけれど。そんな卑怯な奴に負ける程、ワイは弱くない。

学校も違えば年齢も違う。そんな連中がどこで結託したのか、ワイは知らないし興味もない。ただ、売られた喧嘩は買うだけで。買ったからには勝つだけだ。



「生徒会長自らお出ましなん、随分とビップ待遇やなぁ〜」
「…態々来たんやないわ。ここ、俺の通学路やねん。人の帰り道で何しとんのや」


終始嫌そうな顔をしている生徒会長に笑ってみせると、余計に眉間の皺が増える。
そんな顔するなら、態々話し掛けなくてもいいのに。いくら通学路で目に入ってしまったからって、無視すればいいのに。
だけど、そんな会長に話し掛けられて、どこか浮かれている自分がいることに、気付いていた。


あと数歩踏み出せば、手が届く距離。そこまで来ると会長は、ぴたっと足を止める。唯一の優等生アイテムである眼鏡を取ってしまえば、ワックスで立てられた髪に耳に連なったピアス、どう見たってこいつも、不良なのに。


なのにこの男は、教師からの信頼を欲しいがままにし、生徒からの羨望の的となっている。ワイとは、偉い違いだ。


そんな男は、教師からも同じ学校の連中からも見放されたワイに、誰もが目を背け関わらないようにしている(関わる時は、喧嘩を吹っ掛ける時だけだ)ワイに、唯一話し掛けて来た人間で。



「そんなこと言うてぇ〜ワイのこと、すきなクセにぃ〜」



茶化す様に言えば会長は、これ見よがしに溜め息を吐いて。



「馬鹿言うとる暇あったら、さっさと逃げろや。そのうち、警察来るで。次補導されれば、お前完全に退学や」



見下すように、言い捨てた。
その言葉には侮蔑が多く含まれていたけれど。それでも確かに、ワイに向けられた言葉で。本人にその気がなくても、ワイを心配しているであろう、言葉で。



「……じゃあ、優しい生徒会長さんのお言葉に甘えさせて貰うて。ワイ、ちょっとトンずらさせて貰うわ」


近くに落ちていたカバンを拾い、会長に背中を向ける。遠くからサイレンが聞こえて来る事から、誰かがこの惨状を通報でもしたのだろう。

ワイが歩き出したのを見届けたかのように、会長が一歩、踏み出した音がする。本当に、彼はワイに声を掛ける為だけに、この場にいたのだと改めて実感した。
殆ど何も入っていないカバンの中を確認する。投げだされていたソレに、中身を心配したが。どうやら被害はなかったらしい。中からただの、何の変哲もないビニール袋を取り出して。



「かいちょー!これ、ワイの気持ち!!」



振り向き様に、会長に向かって投げる。

それはワイの計算通り、会長の手に収まって。鳩が豆鉄砲食らったような顔(って言うのだろうな、こういう顔を)した会長が、ワイの方を見る。距離は大分開いてしまったけれど、表情を変えていることがはっきりと分かる会長に。今まで細められてばかりいた目を大きく見開いている会長に。



「たんじょーび、おめっとさん!!」



一方的に言葉を押しつけると、踵を返して走り出した。



残された会長がどんな顔をしていたか、とか。どんなことを言っていたか、とか。そんなこと分からないけれど。

だけど、分かっていることがある。




「…またお前、サボっとるんか。えぇ加減、授業出ろや」



会長がまた、ワイに話し掛けてくれるってこと。嫌そうに目を細めながらも、ワイをしっかりと見てくれるってこと。




それだけは、確かだ。






End.








ひかたん2011


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