真夏の昼。 ファーストフード店でシェイクを片手に携帯をいじる。節電の為か、クーラーの設定温度が高めな気がするが。それでも外に比べれば何倍もマシである。 シェイクの喉越しのさわやかさとほのかな甘さが喉を通り、徹夜明けの身体にしみわたっていくような感覚。 あぁ、ホンマに眠いなぁ。 プログラマー 本当は眠気覚ましにコーヒーでも頼もうかと思ったのだが。前に並んでいた小学生たちが喜々として頼む姿に、思わず頼んでしまったシェイク。 久しぶりに飲んだが、今の自分にはカフェインなんかよりも、甘味の方が必要だったらしい。何となく、疲れも取れるような気がした。 携帯を一旦置き、肩を回す。思ったよりも凝っていたソレに驚きながら、ぼんやりと窓の外を眺めた。もう夏休みに入っているのだろ。店内にもだが街中にも、普段この時間帯にはみない子どもの姿が、ちらほら見られる。 今回の仕事は、簡単なHPの作成だった。 余裕を持って仕事を進めていたのだが、3日前に締め切りを一週間も早められて、する予定のなかった徹夜をしてまで完成したのが、納期ギリギリの今朝8時。 何でも、キャンペーン告知の予定が早まったとか何とかで。その分余計な仕事も増えたのだが、基本給に上乗せして、特別給をくれると言っていたから、良しとしよう。 本社への仕事完了のメールを送ると、暫くは本社勤務になる旨の返信がすぐに来る。取り敢えず、今日は休んで良いらしい。そのことに胸を撫でおろし(流石に徹夜明けで今から本社なんて、かったるすぎる)、目の前のシェイクに口を付けた。 本社勤務の方が、仕事としては楽だ。見知った人間ばかりだし、仕事内容も主としては自分のスキル磨きと簡単な事務だけ。対して外部への出向は今回のHP作成然り、あちらさんの要望によって内容が二転三転することがあったり、納期が変更されることもあったり、あちらさんの人間とトラぶったり。まぁ色々あるのだが、その分給料は貰えるんだよなぁ… そもそも、俺はゲーム作成に携わりたくて今の会社に就職したというのに。ゲーム作成なんて、就職してから3年、先々月携わった携帯配信のゲーム1本だけだ。 俺、何の為に働いているんだろう。俺の夢って、何だったんだっけ。 「金ちゃーん!こっちの席、空いとるで!」 「おーやったら、そこにしようや」 小さくため息を吐くと、隣の四人掛けテーブルに、トレイを持った小学生らしき子どもが3人、ぱたぱたと足音を立てたかと思えば、ガタンと一々音を立てて座る。滅多に子どもだけでこういう所に来ないのだろうか、どこか浮かれた様子がうかがえた。 自分にも、こんな風に友だちと共にはしゃぎ廻った時期もあったな。なんて、ぼんやりと思いながら。手元の携帯のスケジュール機能を呼び出し、明日からの予定を打ち込む。見事に仕事の予定しか入っていないソレに、また小さなため息が出てしまった。 そんな俺とは正反対に、隣に座る小学生共は何が楽しいのか、笑い声が絶えない。何の気なしにその様を眺めていると、その内の1人が徐に携帯を取り出す。所謂キッズフォンという奴だが、近頃のガキはそんなモン持っているのか。思わず顔を顰めてしまったが。 「金ちゃん、何しとるん?」 「これか?この前から始めたモバゲーなんやけど。めっちゃおもろいねんで!」 「へー…ゲーム嫌いな金ちゃんがおもろいっちゅーんやから、ホンマにおもろいんやろなぁ…何てゲームなん?」 「怪人ロイヤルZ」 …今、この子どもは何て言った? それって、俺がこの前プログラミングしたゲームじゃないか? 「何となく始めてんけど。何やめっちゃハマってしもうて。朝から晩までやってしもうてるわーホンマ、おススメやで!やってみてや」 「へー…俺もやってみようかなぁ」 「俺もやってみたいわ!」 その後も、席を立つまで携帯を持った奴が他の連中にゲームの良さやら面白さを、語り続けて。それに対して他の子どももへーだのほーだの、一々大袈裟過ぎるリアクションを取ってみせて。 別に、俺だけが作ったソフトじゃないって、わかっている。 別に、俺がほめられている訳じゃないって、わかっている。 だけど。 (あ〜〜っ!何やもう、めっちゃ恥ずかしいし!つーか、めっちゃ嬉しいんですけどっ!!) 子どもたちが去った後、ほのかに赤くなっているであろう顔を隠すようにテーブルへと伏せ、足をじたばたさせてしまう。この歳になって、こんな子どもの台詞なんかで、こんなに心を乱されてしまうだなんて。 熱を冷ますように一気に飲み干したシェイクはすっかりぬるくなっていて。 だけどどことなく、明日への活力になるような。そんな味がした。 (明日からも、仕事頑張ろう) 紙コップを握り潰すと、さっきの子どもたちの様に音を立てて、俺は立ち上がった。 End. ひかたん2011 |