声しか知らない人に恋をするのは、変なことなのだろうか。
程良い低さの、電波に乗せられて届くソレを、恋しいと思うようになったのはいつからか。



DJ




『…ちゅーわけで、ホワイトストーンさん。健康対策もえぇけど、やりすぎには注意ってことで。ではここで次のリクエスト。ラジオネーム副部長さんで、「箱根八里の半三郎」』


彼の“声”だけを届けてくれていたラジオからは、演歌のイントロが流れてくる。その音に、それまで無意識のうちに込められていた力が、すっと抜けるのがわかった。

手元には、真っ白なままの問題集。あぁ、これ明日提出の宿題なのに、早く片付けなければならないのに。そう思いながらも、手にしたシャーペンは少しも動かず。反対の手でメール作成画面を表示したままの携帯に、軽く触れる。
宛先は、このラジオ番組。リスナー参加型を謳うこのラジオ番組を聞くようになったのは、いつだっただろうか。いつか、この番組のDJを務める彼に、自分の想いを読み上げてもらいたい。そう思いながらも実行できずに、もうどれだけの時間が過ぎただろう。


曲が終わるとそのまま、CMが始まる。この間に一問でも問題を解くべきだと、理性は訴えているのだけど。実際には携帯に表示された宛先と、真っ白な本文を眺めるだけで。




『えっと、次のお便りです。ラジオネーム恋する子ウサギちゃんさん。「ヒカルさんのお誕生日っていつですか?っていうかぶっちゃけ今何歳なんですか?謎が多過ぎて毎日気になって眠れません」…ってこれ選んだん誰ぇ?タイムリーすぎるやろ、狙っとるやろー』



ラジオからは、DJであるヒカルさん(本名か芸名かもわからない)の、少し呆れたような、そして少し恥ずかしがるような声が聞こえてくる。こんな彼の声を聞くのは初めてのことで。特に変哲もない質問に、彼がどうしてこんな態度をとるのか、不思議に思った。

その疑問は、すぐに解消されたのだけれども。



『あーっと、実は俺の誕生日…今日、7月20日なんっすよねー…って、事前に告知しとったら、こない恥ずかしい思いせんでもよかったんかな。あーでも、自分の誕生日主張するとか、祝ってくれって、言うとるようなモンだしなぁ…あ、因みに今日で22歳になりました。恋するウサギ子ちゃんさん、疑問は解決したやろか?』



彼の言葉に、頭の中が一瞬真っ白になった。それはもう、手にしていたシャーペンが転がり落ちるくらいに。


あ、今日誕生日なんだ。
声以外、彼の真実を知らない自分にとって、それはとてつもなく有益な情報であって。


ふと、転がっていたシャーペンが携帯にぶつかり、その動きを止める。それは未だ、メールの編集画面を表示したままで。



彼の声が読み上げることがなくても、せめて彼の目に止まってくれれば、それでいい。
そう思うと、行動は速かった。




声しか知らない相手だった。
自分のことなんて知らない相手だった。
それでも、彼の声は、自分に安らぎをくれた。自分に勇気をくれた。




そして、自分に希望をくれた。





『えー今日は、おめでとうメール沢山、ありがとうございます。何や、催促してしまったみたいで、スミマセン。では、本日最後のメール。ラジオネーム、金ちゃんさんから…』




きっとこれからも、自分は彼の声に焦がれ続けるんだろうな。
ラジオから聞こえてくる彼の声に、うっとりと目を閉じた。




End.






ひかたん2011


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