俺の名は財前光、25歳独身。俺の仕事はセキュリティポリス…所謂SPっちゅーヤツや。
俺がどうしてSPになったか、とか、SPとしての俺の経歴とか。そういう話は色々あるけど。今はそんなこと、置いておく。



やって俺、只今警護対象が会議終えるん、待ってるところやから。




SP




「…財前、さっきから何ぶつぶつ言うとるん?仕事中やってこと、分かっとるか?」
「分かっとりますよ先輩…てか、俺の心のモノローグ、勝手に読み取らんで下さい」
「心のて…全部口から出てたで。ベタな奴やなぁ…因みに、SPになったんは「憧れの人、白石先輩がSPになったから」やろ」
「……」
「ちょ、否定とかツッこむとかしてや!放置怖っ!!」


隣に、今日ペア組む白石先輩が居るのを、すっかり忘れとった。この人とは腐れ縁っちゅーヤツで。何でか中学から今に至るまで、同じ進路を辿っとる。そんなん別に、どうでもえぇねんけどな。

ガヤガヤと、扉の向こうから怒声にも似た声やら物騒な物音が聞こえる。どうやら、交渉は決裂したらしいな。そんなことを、扉の向こうにいる警備対象に思うた。


今日の警備対象は、外務大臣さん。今扉の向こうでは、何ちゃら条約について、お偉いさん方が一生懸命、論戦を繰り広げている最中。流石に、現役の議員さんやら外交官さんだけの席で、警備対象が狙われることはないやろうが。万が一に備え、中にも何人か、俺らの仲間が配置されとる。一つしかない扉は左右に俺と先輩、窓の外にも何人か配置されとって。死角はないはずや。


「…この条約、通ったら困る人間も、ようさんおるからなぁ…」


ぽつりと、白石先輩が零した。せや、誰しも利害が一致する話なん、そうそうありえへん。だからやろ、普段滅多に聞く事のない、あいつの怒声まで聞こえてくるんは。
みんな自分の利益を求めるのに、必死や。


それから数時間後。
どうやら会議は物別れに終わったらしい諸先生方は、ある人は胸を撫でおろし、またある人は怒りを隠すことなく、扉から次々に出て行く。その最後尾、室内に配置されとった同僚に囲まれゆっくり足を進めてくる、警備対象とその秘書が見えた。

どっか憔悴した顔の警備対象の左右を、俺と先輩で固め。後ろには秘書と室内配置だった小石川さんが続く。警備対象は白石先輩の前を歩く秘書と何やら話をしておるが、俺たちには関係ない。寧ろ耳に入れず、他の音…そう、大臣を狙う音をいち早く拾う様、常にアンテナを張る。

そうして、決してゆっくりではなく、立派な装飾がされた廊下を歩き、俺ら以外に人間がいないことを確認したエレベーターに乗り込む。ロビーには未だ会議に参加しとった先生方が居ったが、半分以上はこちらに、敵意丸出しの視線を向けてくる。こういう奴は、安全や。
逆に笑顔や善意を向けながら牙を向く奴の方が、何百倍も危険だってことを、経験上俺はよく知っている。




会場となっとったホテルを出た、瞬間だった。


響く一発の銃声。
伏せる警護対象、それを覆うように屈み銃を構える小石川さん。




「財前、右やっ!」



同じように銃を構えた白石先輩の声を全部聞き終わる前に、俺の身体は弾かれた様に飛び出す。指示された方を見れば、人混みを逆らって走り去る男が数名。

予想よりも多いこっちの人数に予定を変更したんか、それとも今回は威嚇だけが目的だったんか。一目散に走る男を追い、俺は警棒を構え、足を動かし続ける。
追いついた人間を手当たり次第に地面に沈め、只管走り続けて。あと何人かってなった時、一団は角を曲がり細い道へと入っていく。


追い詰めた、そう思うた時やった。



「…おびき寄せられた、っちゅーことか」



辿り着いたんは見事に袋小路になった場所、相手は追っていた数よりも、十人は増えとる。あ、これ失敗したら始末書モンやな。なんて思いながら。向かって来た奴を一人ずつ、丁寧に沈めていく。
やけど多勢に無勢、いくら俺が警備課期待の星やからって、無理がある。汗で警棒をとり落とした瞬間、後ろから振り下ろされるんは、偶然にも俺がとり落としたんと同じ、警棒で。

それを使うとる人間やから分かる。あれ、頭当たるとめっちゃ痛い。とっさに来たる衝撃を避けようと、身を捻った俺に、届いた声。




「ひかるに、手ぇ出すなん許さんで」




ガッと鈍い音と、目の前で沈んだ、つい先刻まで俺を襲おうとしていた人間。その背後から現れたのは。



「っき、金太郎!何やっとんねん!?」
「あ?何やねん、せっかく助けに来たったんに」
「べ、別に頼んでないわっ!てか、親父さんどないしてん!?」
「あー白石らおるし、平気やろ」



それは今日の警護対象、外務大臣の一人息子であり、その第一秘書であり。
そして俺の幼馴染の、遠山金太郎やった。


いきなり現れた金太郎に見せた動揺も一瞬、すぐに体勢を整えた男たちが、一斉に俺らに襲いかかる。俺もすぐに落とした警棒を拾い構えると、隣に立つ金太郎と共に、向かってくる奴らを確実に、仕留めていく。


「こんな時になんやけど」
「なんや、ねん!」


金太郎を視界の隅に留めながら(こいつは警備対象の息子やし)目の前に繰り出された警棒を避け、その主の顎を蹴り上げる。小気味いい音と共に、俺に振り下ろされようとしていた獲物は、コンクリートの上を転がっていく。



「誕生日、おめでと、う!」



金太郎の拳が銃を構えた男の鳩尾に決まる。ぐっと鈍い悲鳴を上げた男は、それでも力を振り絞り銃を向けたが。




「…ホンマ、どんなタイミングやねん」


それから再び弾がはじき出される前に、俺の踵がそいつの脳天を直撃。どさりという音と砂ぼこりを立て、男は地面へと沈んでいった。


「やーホンマはちゃんと、プレゼントと一緒に言うつもりやってんけど。今夜も会合入ってしもうてーやったら取り敢えず、おめでとうだけ言うてまえーて」



きびきびと、俺から奪うようにして受け取った手錠やら縄やらで、意識を失った犯人らを拘束していく金太郎は。俺なんかよりもよっぽど、SPに向いとる気がした。やけどこいつは、親父さんの跡継いで、立派な政治家せんせーになるって、産まれた時から決まっとって。


俺がその傍におる為には、どうしたらえぇのか。考えた結果が、SPや。
……なーんてな。




「プレゼントって何やねん。アル●ーニのスーツか?それともフェ●ーリの赤?あ、ベ●ツでも構わんで。ベ●ツやったら黒がえぇな」
「そない高価なモン、渡せませーん…ま、今度のお楽しみっちゅーことで」
「まぁ、期待せんと待っとるで」



そんなことを話しとったら、同僚たちが掛けて来て。すぐに合流した黒塗りの高級車に、金太郎は吸いこまれるように乗りこむと、次の目的地に向かって行く。こっから先は俺の管轄外。次の奴にバトンタッチ。

車が俺の横をすり抜けた時。少し開いた防弾ガラスの窓から、真っ赤な髪が見えた。
次に会える時がいつかなん、わからんけど。まぁプレゼント貰えるん、待っとこうと。
目を覚まして悪態ついた犯人の一人に、一発拳をお見舞いしながら思った。





End.







ひかたん2011


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