彼と彼らの日常。05






晴天の霹靂とは、こういうことを言うのだろうか。



「…自分、また他人利用しとるん?金色らの人気利用して、自分もそれに乗っかるつもりなんやろ?」



あの写真を突き付けられてから、クラスメートたちから避けられるようになってからちょうど一か月。


全く同じ場所、同じ相手に。また同じような言葉を、投げられるなんて。


だが一つ、違うことがあった。
一か月前は俺に対して向けられていた憎しみやら失望に溢れた瞳が、どこか違う色を滲ませていた。

それはそう、俺がそう思いたいだけかもしれないけれども。
後悔。それに似ていた。

目の前に立つ男だけでない。俺たちを囲む他のクラスメートたちも。どこか一か月前とは違う空気を、纏っていて。



今自分を偽ってはいけない。今調子のいいことを言ってはいけない。
ケリを付けるには、今しかない。



直感だった。



「…俺は自分んこと偽ってきた。自分らんこと、騙してきた。せやけど俺は、俺んこと信じてくれた、俺に力貸してくれる言うてくれたダチんこと利用するほど、落ちぶれてないわ」



だから俺の正直な気持ちをぶつけた。
誤解が解けなくてもいい。ただ自分が小春たちを利用してなんかいないこと。小春たちには感謝していることを、知っていてもらいたかった。



教室が、静まりかえる。周りはただ目を見合わせて、俺と目の前の男とを、見守っている。



「ほなこつ、他人に取り入るんが上手かね。今度はそうやって、皆に取り入るつもりと?」



静寂を打ち破るように紡がれた、一人の声。独特のイントネーションで穏やかに喋るその声の持ち主を、俺は一人しかしらない。



「どうやったらそぎゃん風にできっか、教えてほしかよ」


その声のする方へと目を向ければ。


一人の長身の男…千歳千里が、そこに立っていた。


その目を見た瞬間。
こいつが首謀者だと、理解した。



「…別に、そないなつもりあらへんし。わざわざ取り行ったりせんでも、俺には俺んこと信じてくれる奴がおるしな」



挑発するように言葉を放ってやると、みるみるうちにその顔は険しさが増していく。俺が憎くて仕方のないって、そういった表情に。
そんな風に他人から悪意を思いきり向けられたことは、初めてだった。正直、かなりビビっていた。


「…俺んことが気に入らんのやったら、最初からそう言えばえぇやん。こない回りくどいこと、せんでもな」



だが出来るだけ平静を装って。胸ポケットに入れられていた例の写真をひらひらと見せてやる。なんのことだと、とぼけてみせる千歳に尚も言葉をぶつける。



「こないなもん偽モンやって信じてくれる奴らが俺にはおる。自分、それが羨ましかったんやないんか?せやからこない卑怯な真似したんやないん?」



途端、頬に走る熱。
身体が吹き飛びそうになるのを、両足に力を入れて留める。中学時代に必死になって足腰鍛えておいたことが役に立った。そんなことを思いながら。



「最初から、こうすればよかったんや」



自分から殴りつけてきたというのに。まるで自分が殴られたような、痛そうな顔をしている千歳に言ってやると。顔を真っ赤にさせた千歳は教室を飛び出して行った。あー頬が痛い。このままだったら確実に腫れる。男前が台無しになってしまう。さっさと冷やさなければ。



「小石川、俺保健室行ってくるから。あとよろしゅう」

「あぁ、先生らには適当に言い訳しとくわ」

「ん、おおきに」



殴られて熱を持ち続ける頬に手を当てると、静かに様子を伺っていた小石川に声をかけて。



「…ホンマに俺、小春らんことは利用なん、してへんから。そこだけは信じてや」



状況が飲み込めていないのか、微動だにしないクラスメートたちに声を掛けると、教室を後にした。






白石蔵ノ介十六歳。ぶっちゃけ順風満帆以外の何物でもないと思っていた俺の高校生活はたった数か月でどでかい壁にぶち当たってしまって。
それでもその壁が一つに、今ヒビが入ったように思った。



こっからどう切り崩していくのか。それは俺一人の力ではどうこう出来ないことなのかもしれない。
だけど不安はなかった。



だって俺には、一緒にいてくれる友達がいるから。
信頼出来る人が、傍にいてくれるから。



数か月前までは、こんな風に思いもしなかった。一人で何でも出来るって、何でもしてみせるって、思っていた。



保健室へ向かう途中、そんなことを考えて。
嬉しくなった。
そう思えるようになれた俺って、恵まれているなって、思った。




そしてそう思えないでいるであろう、人物を思い浮かべた。










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