※せかこい。その後。




今日はぶちょーと俺が付き合い始めて、はじめてのぶちょーの誕生日…
ちゅーことで俺は、めっちゃ気合い入れてプレゼントとかデートコースとか、考えてたんやけど…


「堪忍な、財前。その日、どうしても外せん用事、あんねん」


そう、ホンマに申し訳なさそうに言われてしもうたら。


「…まぁ、しゃーない、すわー」


最早お決まりになってしまった言葉を吐いて。物分かりのいい恋人の姿を示すことしか、俺には出来んかった。






くらたん。
〜蔵ノ介ぶちょーをめいっぱい祝いたい、財前くんのお話。〜




「…で、何で俺のところに来んねん」
「やってー謙也クン、ぶちょーと同じ学校やろ?同じ制服着てるんやろ?やからや」
「そんなけかいっ!!」


4月14日。ホンマやったらぶちょーと過ごすはずやった日。目の前に居るんはぶちょーやなくて、謙也クンで。俺がいるのも一所懸命調べたオシャレなカフェやのうて、駅前のファーストフード店。
目の前のトレーに広げられたポテト(勿論、謙也クンのおごりや)を頬張りながら。俺は目の前の謙也クン…やのうて、制服を見つめる。これ着とるぶちょー、めっちゃかっこいいんやで。



「やけど。誕生日に用事って何やろな?白石。部活も休みやし、委員会とかも特にないねんけどなぁ…」



俺は脳内に映し出されたぶちょーを思い描き、うっとりとしていたのだが。謙也クンのその一言に一気に目が覚まされる。

どうしても外せん用事って、一体何なんやろ。
ぶっちゃけんでも、ぶちょーに大事にしてもらっとる自信はある。ぶちょーは受験とか進学とか、忙しい時でも俺の為に時間つくってくれとった。やから今日かてきっと、俺と過ごしてくれるって、信じていたのに。



「…せや。俺より大事な用事て、何なんや?」



ポテトに伸ばした手が止まる。掴み損ねたそれを、謙也クンは頬張り咀嚼しきってから。


「そういや白石、最近ずっと忙しそうやったからなぁ…」


ぺろりと、指先についた塩を舐めながら思い出したように呟いた。
その時には俺の頭の中では、ぶちょーの秘密を解き明かしたい気持ちがむくむくと膨らみ。同時に、俺より大事なモンを問い詰めたいって思いがどんどん大きくなっていって。



「謙也クン!ぶちょーどこにおるか分かる!?」



思い切りテーブルを叩く。ちょうど帰宅の時間帯だったからか、店内にいたのは学生ばかりだったが、そいつらが皆揃ってこっちに顔を向けたんだから、結構デカイ音やったんやろ。
やけど、実際それを目の前で聞いていた謙也クンは流石というかやっぱりと言うか。ちっとも動じることなく、シェイクをじゅるじゅると音を立ててすすり終えると。


「あー…何や、今日は直帰やーって、言うとったわ」


ぼんやりと呟く。それを全部聞き終えることなく、俺は走り出した。後ろで頑張れよ〜って、間抜けな声がした気がした。





***





「直帰…やったら、家に居るはずやよなぁ…ちゅーことは、家族と過ごすんかなぁ…やったらそう、言うてくれればえぇんに」


現役テニス部員の体力は、かなりあったらしい。駅前からぶちょーの家の傍まで約30分。俺は一息も吐くことなく、走り続けていた。その内に頭の中は大分整理されていって。

あぁ、何だ。家族にやったら負けてしもうても仕方ない。
そう思った瞬間だった。



「もう蔵ノ介ったら!そない安いモンやのうて、もっとえぇモン強請ってよかったんに」
「えぇってこれで。貰えるだけ、十分やで」


媚るような女の声と、それに対して返される、ぶちょーの柔らかな声が耳に飛び込む。
俺はまるで逃げるように。反射的に、身を隠して。ぶちょーと“誰か”が近付いてくるのを待つ。


「やってな。16歳の誕生日は、一生で一度やねんで?そん時くらい、甘えたって、えぇのよ?」
「十分、甘えさせて貰うてるわ」
「そう?ならえぇけど…あーそれにしても、4月やってのに寒いわなぁ」
「やったら、さっさと家ん中入ろうや」


通り過ぎたぶちょーの横には、モデルみたいに綺麗な女の人。
その女の人に対して、柔らかく目を細めたぶちょーは、俺に気付かず(まぁ、隠れてるんやから当たり前やけど)通り過ぎてしまう。



何?俺よりも大事な用事って、その女の人に会うことやったん?
俺のこと好きやって言うてくれたのに、やっぱり女の人の方がえぇん?
何で、何で。その言葉ばかりが頭の中をぐるぐる廻る。それ以上思考することを、ぶちょーの行動に対する“答え”を導き出すことを、脳が全力で拒否する。



それよりも、俺の本能は。




「ちょーっと待えぇぇえええええいっ!!!!」




仲良さ気に、並んで門をくぐろうとしとったぶちょーと女の人の背中に向かって、叫ぶ。
この時、少しでも理性が働けばよかったのか。それとも本能のまま突き進むことが、正解だったのか。俺には分からないけど。



「俺のぶちょーに、手ぇ出すなん、一億と二千年早いわぁああっ!!!」



弾かれた様にこちらに向けられた二つの顔は、どこか似た、面影があった。





***




「…なーんや、姉貴との約束があったんか。やったら白石、断れへんわ」


週末。
この前と同じファーストフード店、同じ席。目の前に広げられとるんも、同じようなメニュー。やけど今回は謙也クンのおごりやのうて、割り勘やけど。
目の前の謙也クンは相変わらず、もごもごと口を動かしながら大して驚いた風でもなく。俺がしでかした失敗談を聞いとる。


はい、あの綺麗な女の人は、ぶちょーのお姉様でした。やったらあれだけ美人でも、納得や。うん。


あの後俺がどうなったかは、ただの恥でしかないんで、割愛。
ちょっとでもぶちょーのことを疑ってしもうた罰やと思えば、納得やけど。



「ざーいぜん。待たせたな」



神様は俺のこと、見離さなかった。



「ぶちょー!全然待ってないっすわ!ちゅーかぶちょーのことやったら、俺、八千年過ぎたって待っとりますわ!!」
「いや、八千年は流石に待たせへんわ…ほな、行こうか」
「はいっ!!」


テーブルをひっくり返すくらいの強さで押し、椅子を蹴るような勢いで立ち上がる。ホンマにテーブルがひっくり返りそうになり、謙也クンが慌ててそれを押さえたんが視界の隅に一瞬映ったけど。俺の目にはぶちょーしかもう、映らない。まぁそれは、ぶちょーに初めて会うた日から、変わらんのやけど。


「誕生日、ゆっくり出来んかったからな。今日はゆっくり色々しような…勿論、2人きりで」


こないなこと、耳元で囁いてくれるぶちょーのことを。
俺はこれからも、ずっと好きでいるんやろうなって。いつまで経っても冬を知らん、小春日和の様な関係の中で、思った。



Happy Birthday!! ぶちょー!
今日は俺のとびっきりを、みーんなあげるっすわ!!





End.






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