「陰謀や!こんなん、何かの陰謀に決まっとる!」


陰謀、なんてモンがこの平和な世の中に存在するのだろうか。


「そないなモンに、俺は負けんで!」


はいはい、どうぞご勝手に。そんなこと言える雰囲気じゃないことも、そんなこと本心じゃないにせよ言えないようになってしまったことに、俺は気付いている。





白石蔵ノ介の疎外





「な…なんでや…」


色々あった一年が無事に終わって。無事に全員進級でき(成績の面で財前と一氏が地味に危うかったが、どうにか乗り越えた)、迎えた新学期。新しいクラスが張り出されている掲示板へと向かう途中、いつものメンバーと合流する。出来れば皆一緒のクラスであるに越したことはないが、人数的に不可能だが、それでも近くのクラスだといいな、や、クラスが離れても今まで通りだろうな、と話しながら辿り着いた掲示板。それを見上げての、白石の一言。


「陰謀や!こんなん、何かの陰謀に決まっとる!」


続いて発せられた叫びに、思わず俺…石田健二郎も頷きそうになった。だって、それもそのはず。


「何で俺だけ、クラス違うんやー!!」


白石以外の六人は見事に三・三で同じクラスになったというのに、彼だけが違うクラスだったのだから。





因みに、二年からは文理選択によってクラスが異なって来るため、文系志望の小春とユウジ、それから忍足が揃ってC組。理系志望の俺と千歳、それから財前がE組で。同じく理系志望の白石は、H組で。


「何やねんHて!何で俺だけ、こない離れとんねん!おかしいやろ!」


そう叫びたくなるのも、当然と言えば当然だ。
高校でのクラス分は、成績が同じくらいの集団をまとめる…と聞いたことがあった。だから俺はきっと、白石とは同じクラスなんだろうなぁ…と、漠然とだかが思っていた。それだけに、声には出さないが俺も、結構ショックな部分があって。


「おい千歳!俺とクラス代われ!」
「そぎゃん無茶なこつ、言わんと…現実を受け入れっとね」


だけど吠え続ける白石を見ていたら、一番辛いのは彼だろうと、思い至った。俺は…確かに白石がいないことが好ましい結果ではないが、それでも千歳と財前の二人が同じクラスにいる。小春とユウジと離れてしまった財前も、あまりキーキー言わないところから、まぁ知り合いがいてよかった、くらいに思っているのだろう。文系トリオは言わずとも、学力にも偏りがある三人が同じクラスになれたことを、手を取り合って喜んでいた。


それに比べて、白石は…


千歳に諭されるようにしながら、何度も何度も、掲示板を恨めしそうな表情で見る彼と、代われるものなら自分が代わってやりたいものだが。そんなこと、一生徒の俺にできるわけもなく。



「白石…そない落ち込まんと…昼休みは今まで通り、一緒に飯食うやろ?帰りかて、一緒に帰ればえぇやん」


ただ俺にできることは、彼を励ますことだけだった。選手交代と言わんばかりに、白石の横に立っていた千歳と場所を代わってもらって。横に立ちすっかり項垂れてしまった白石に、努めて明るく声を掛ける。励ましたところで現状は変わらないし、千歳の言う通り、白石自身が現実を受け入れないことには何も変わらない。だけどそれでも、少しでも白石の気が紛れてくれるなら。

そう思って尚も言葉を発し続ける俺を一瞥すると、白石は再び視線を地面に戻して。


「せやけど…せやけどな、二年になったら修学旅行があんねんで。俺、皆と一緒に北海道行きたかったんや…それだけやない、文化祭かて体育祭かて、色々クラス別の行事があるやないか。それを…皆と一緒に、したかったんや」


ぽつりぽつりと、言葉を発した。その声量は先ほどまで吠えていた人物と一緒だとは、到底思えないくらいのか細さで。
あぁ、そうだった。今年は北海道に行くんだ。修学旅行の実行委員会の席で白石は、一緒にカニを食べようと笑っていたじゃないか。俺はその言葉に、無責任にもせやなと、返していたじゃないか。


「あー…俺、文化祭も体育祭も、仲間居らんかったけどなー」
「そう言えば謙也クン、一人だけクラス、違うたわね」
「やけど…まぁ、文化祭は一緒に劇やったし。体育祭はクラスの連中と盛り上がったし…休み時間は、自分らが一緒に居ってくれたやろ?俺だけのダチかて、B組にはようさん居ったしなぁ…」


何も言葉を紡げなくなってしまった俺の代わりと言わんばかりに、忍足が声を発する。そう言えば、A組に入り浸っていたせいですっかり忘れていたが、彼だけは一年の時にも違うクラスで。そりゃ文化祭は俺以外の皆は(僻んでいるわけじゃないけれど)劇をやったりその練習に明け暮れていたりしたわけで。



「せやから、寂しい思うたことも、悲しい思うたことも、つまらん思うたことかてない。寧ろ一緒に居らん分、ネタもようさん仕入れられとったしな」



あっけらかんと笑う顔。言われてみれば記憶の隅から隅まで探してみても、忍足が一人違うクラスであることを愚痴ったことも嘆いたこともない。たまに覗いたB組で彼は、楽しそうにやっていた。


「…せやな。クラス違うても、俺らは俺らや。距離なん、関係あらへん。そないなモンに、俺は負けんで!」
「…何や白石、遠恋でもしとる男みたいやな」
「あらん、素敵ね。また長編ラブロマンスが書けそうやわ」


その言葉に、その笑顔に。やっと上げられた顔にはもう、悲壮感は漂っておらず。白石の顔も忍足のような、笑顔に彩られていた。それに絶妙のタイミングで、ユウジと小春が続いて。俺たちの間にはいつものように、笑い声が溢れた。



「…一個、えぇこと教えたろか」
「何や?えぇことて…H組の担任がめっちゃ美人でないすばでーなおねーさんやーとかか?」
「もーっとえぇことやで。教えて欲しかったら、ぜんざいおごれ」



すっかり元気を取り戻したように見える白石のジャケットを、くいくいと引っ張りながらずっと黙っていた財前がにやりと笑い、声を放つ。それはきっと、彼なりに一緒に帰ろうという誘い文句だったのだろう。財前と一緒にいれば、彼の性格を十分に把握していれば分かることだが、普段から何か妙なフィルターを掛けて財前を見ているためなのか。
それに気付いていないのは、言われた張本人である白石だけ。他の皆はそんな二人のやりとりを、にやにやしながら見ている。



「はいはい。放課後一緒に、ぜんざい食い行こうなー」


そんな財前の頭を、おねだりなんかわえぇわーとでも思っていることが丸分かりの笑顔で撫でながら、白石が渡した言葉に返された言葉。




「…修学旅行の班な、クラス関係なく作れるんやで」



それに白石だけではなく、俺も、勿論他の皆も大喜びしたことは、言うまでもない。

半年後、皆で北海道に行こう!と騒ぎ出した俺たちが、さっさと教室に入れと先生方に怒鳴られたことも、言うまでもない。



こうして、俺たちの新しい一年がはじまった。
この先に何があるかなんてわからない。だけどきっと、皆と一緒ならなんとかなる。
そう思える友達との、新しい一年が…







彼彼。



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