彼と彼らの日常。04




「せやけど光も悪いんは変わらへんよ。健坊が連れて来たっちゅーことは、奴にとって大事にしたい人っちゅーことやろ?やったら尚更、仲良ぅせなアカンよ」



でもやっぱり、許してはくれなかった。くそ。

小春ちゃんはこういう事に、煩い。根っからの体育会系なんだきっと。
友達とかめっちゃ大切にするし(俺も大事にしてもらってる)、理不尽なことは許さないし(そのくせ、自分はよくやる)、その為だったら暴力だって平気で振るう(しかもめっちゃ強烈なのを)。
助けを求めようとユウ君の方を向くが、諦めろと、肩を竦めるというジェスチャーだけで言って来た。役に立たないんだから、もう!


「そうと決まったら早速謝り行くで!あとちょっとで授業かて終わるやろ。レッツA組!」

「い、いやや!何で俺が謝らなアカンねん!俺、悪いことしてへんもん!」

「何言うとるん!自分かて悪いて、今うちが言うたばかりやろ!何聞いてたんや!?」

「い、痛い!痛い〜!!!」



拳を握り勢いよく立ちあがると。俺の腕を引き立たせようとする小春ちゃんに、その言葉に。必死になって反抗する。
掴まれた腕を勢いよく払い睨みつけたら。チョップ喰らった。それも一発や二発じゃない、いっぱいいっぱいだ。痛い、凄く痛い、めっちゃ痛い。



「た、助けてユウ君!」

「あ〜…俺もあいつと、仲直りした方がえぇ思うで?」



止むことなく降り注ぐチョップからやっとのことで逃げだし、ユウ君の後ろに隠れようとした。したのにユウ君は曖昧な笑顔を浮かべると。そのまま俺の両肩を掴み、小春ちゃんの方へと差し出した。

この裏切り者!



結局。俺は暴力に屈した。

決して自分が悪いなんてことを認めたのではない。只単に、痛いのが嫌なだけだ。そこの所はしっかりと、ご理解いただきたい…て、俺誰に言ってるんやろ。





***





「さっきは光が生意気言うてごめんな〜堪忍したってや…ほれ光!謝りぃ!」

「……」

「ひ・か・る?」

「…どーもすんませんでしたー」



午後一の授業が終わると同時に。先ほど顔を合わせた三人が財前くんを引き摺るようにして(実際引き摺って)現れた。
俺と小石川を呼ぶと、最初に眼鏡君が頭を下げる。そのまま隣にいる財前くんにも同じことを強要するが、そっぽ向いてしまって。先ほど大嫌い宣言されたのに、そんな仕草も可愛いなぁ、なんて思ってしまって。ちょっと低くなった眼鏡君の声に、一瞬肩を震わせて、それから本当に不本意そうに、嫌そうに、謝罪の言葉を口にした。その間、一回も俺の方は見ていない。ちょっと悲しい。

でも、俺がしてしまったことを考えると、仕方ないのかな、とも、思った。



彼らが来る前、E組から戻る途中。小石川の口から出た言葉。



「あいつ…財前な、小学校の頃親離婚してんねん。オカンが浮気して家出てってまったらしいんやけど…そのオカンが家出る直前まで絶対財前んこと、置いて行かへんて、出て行くんやったら一緒に連れてったるって、言うてたんやと。そっからやって、あいつがどんな些細な嘘でも、嫌がるように、なったんは」


やから、あいつんこと許したってな。



そう続けた小石川の表情は、慈愛に満ちていて。財前くんのこと、本当に可愛がっているんだってことが伝わって来た。



未だにむすーっとしている財前くんに、眼鏡君とバンダナ君がやいやい言っている。ふと、こちらに視線を寄越した彼と目が合った。


「否、俺ん方こそ悪かった…ちゅーか、俺が悪かったんやな、全面的に…あぁ、やからこないなこと、されてまうんやな…堪忍な、財前くん」


その黒目に吸い込まれるように、自然と言葉が出る。真っ直ぐな言葉は、彼にちゃんと届いただろうか。今度は曖昧な笑みではなく、俺自身を嗤う為だけの、自嘲の笑みだけが、俺の顔には乗っかっていた。
財前くんの瞳が、揺れた気が、した。隣に立つ小石川の周りの空気も、固いものになる。



「だぁもう!いつまでもうだうだすんなや!そんなん、こないな写真作った奴が悪いんい決まっとるやろがぁ!!」



気まずいだけの雰囲気を、一蹴したのは眼鏡君の一言だった。眼鏡君、見た目によらず、結構熱いんだな…と、呆気に取られてしまっていると、ガシっと、両肩に手を乗せられて。10cmくらい高い位置にある俺の顔と自分の顔を、近付けて。



「自分、名前は?」

「え…しらいし、くらのすけ」

「そう、なら今日から自分は蔵リンな!」



そう満面の笑みで、言い放った。同時に満足したのか肩に乗せていた手を離し。



「うちは金色小春、小春って呼んでや。そんでこっちが」

「一氏ユウジや。ユウジでえぇで。よろしゅうな」


くるりと一回転してにっこり微笑むと、隣に立っていたバンダナ君を指さす。指名されたバンダナ君はこっちを向くと、控えめな笑みを浮かべ軽く頭を下げて来た。俺もそれに倣い、頭を下げる。


「そんでこいつが……光!ちゃんと挨拶なさい!!」

「…ざいぜんひかるや」

「よし、えぇこやな。っちゅーわけで!今日から自分とうちらは友達や!」




「「はぁ!?」」



小春君の言葉に、財前くんとハモってしまった。そんな俺たちに、小石川が噴き出す。



「なんや自分ら、もう仲良しさんやないん」

「ちゃう!仲良しなんかとちゃうわボケぇ!」


そこまで必死に否定しなくても…と思ってしまうが。先ほどまで纏っていたつんけんした空気が少しずつ、柔らかい物に変わっていることに気付いた俺は、それだけでも嬉しくて。

また小春君とユウジ君に挟まれぎゃーぎゃー言い始めた財前くんを見て、思わず笑ってしまうと。



「…なんや自分、ちゃんと笑えるんか」



にっと、何か企むように口角を上げた財前くんと目があった。
何となくだけど、俺のこと許してくれたのかなって。本当の俺のことちゃんと見てくれたのかなって。思ったらまた、嬉しくなってきて。


小石川が横で、よかったなって、言ってくれた。その言葉に小さく、頷いた。



「なんや〜自分ら俺抜きで、何しとるん?」

「あー…ついでや、自分も友達にしたってえぇで?」

「ついでて何やねん!ちゅーか、何の話や?全然展開見えへんっちゅー話や!」



その後騒ぎを聞きつけた忍足がやってきて、またちょっと騒々しいことになったけど。


そのおかげで久しぶりに、思いきり笑えた。
みんなも一緒になって、笑っていた。



腹が痛くなるくらい笑ったのなんて、いつ以来やろな。




人生楽ありゃ苦もあるさ。まさにその通り。
だけど苦しいことの中にだって、楽しいことはきっとある。
だって現に今、俺はしんどい状況の中にいてもこうやって、笑っているから。
こうやって一緒にいてくれる友達がいるから。



白石蔵ノ介、クラスでハブられるようになって数週間経過中。
だけどその代わりにか、新しい友達ができました。
個性的だけどとても力強い、友達が。




「…おもしろく、なかね」




そんな俺の姿を見て、そんなことを思っている人間がすぐそばにいる。
それにさえ気づかずに、俺に敵意を持つ人間がいることさえ忘れて。

大声で、笑った。




久しぶりに今夜はいい夢が見れそうだと、思った。









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