※財前は金太郎に仕える忍です。
詳しい?設定は7月17日のmemoを見てください。





今日くらいは、我儘を言ってほしかった。
我儘じゃなくてもいい。

ただ本音を、言ってほしかった。






きみさえいれば






「ひかる、誕生日おめでとう」


そう言いプレゼントだと、綺麗にラッピングされた包みを差し出すと、光は一瞬目を大きく見開いて、そして。



「そんな、滅相もございません。俺は金太郎様の忍です。そないなこと、せんでください」



膝を着くと、頭を垂れた。



こうなることくらい、分かっていた。
光は確かにワイの忍である。だがその前に、遠山家の忍なのだ。そうなるように幼少の頃からずっと、教育されてきている。そうなること以外の路を、封じられている。

そんな光が役目を捨てて、ワイの手を取ってくれることなんて、絶対にない。



「…ひかる、顔上げぇや」


そう言えば素直に、顔を上げる。黒髪が揺れて耳に付けられたピアスが、しゃらりと音を立てた。

じっと、ワイの口が開くことを待つ。元々口数が多い方ではないが、こうやって二人で居る時ですら、彼はワイから話しかけなければ言葉を紡ぐということを、しない。


それでも、いつかは。


そう思っていつも暫くは、こうやって無言を貫こうとするのだが。結局こちらが根負けしてしまい、口を開くことになる。

分かっている。光がそういう風にしか、出来ないってことを。
分かっている。光が本当の気持ちを、ワイにはぶつけて来てくれないことを。



だってワイは“主”であり、彼は“従”であるのだから。



遠い戦国時代から続いている両家の関係を、時代錯誤も甚だしいこんな関係を、


壊す力を、ワイはまだもっていない。



そんな自分たちの関係に、どうしようも出来ない自分たちの無力さに。
そしてちっとも伝わらない自分の想いを吐きだすように、溜息をついて。



「自分はワイがわざわざ用意したモン、無駄にするん?」

「いえ、そないなつもりは…」

「やったらこれ、受け取ってや…まぁ、夏のボーナスや思えばえぇから」


結局今日もワイが根負けしてしまった。


ため息交じりに言葉を投げ捨て無理矢理包みを押し付けると、光は困った様な表情を見せてからゆっくり、それを両手で包みこむと。


「ありがとうございます…ホンマ、嬉しいっすわ」


本当に幸せそうに、笑うのだった。


普通の友だちだったら、困った顔なんてさせないで、ただ笑顔だけが彼の顔に浮かんだことだろう。

普通の友だちだったら、プレゼント一つ渡すのに、こんなに苦労も掛けないだろうし、彼も素直に受け取ってくれただろう。



だけど。



「これからも、金太郎様のこと必ず守りますから…やから、これからも宜しくお願いします」



包みを抱き締めるように身体を丸めると、光は再び頭を垂れてしまった。

もう笑顔はおろか、彼がどんな表情をしているかもわからない。


そんなこと、望んでないのに。

ワイはこんなにも、光が好きなのに。




「せや、来年の誕生日、欲しいモンがあんねん…ひかる、絶対にそれ、くれな」

「俺に用意出来るもんでしたら、必ず」

「……その言葉、忘れんでな」



それが遠山を捨て、光と一緒に自由を掻き取ることだって言ったら。


君は許して、くれるのかな。




そんなことを考えていたら、泣きたくなった。
今日は光の誕生日なのに、光が産まれて来てくれた日なのに。



湧きあがって来る、どうして財前に産まれてきたのだと、どうして忍の家になんて産まれて来たのだと。


目の前で跪く光を、罵ってやりたくなる気持ちを、必死に抑えた。






End.






光誕


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