※光→25歳、金太郎→5歳でお送りします。 君がくれた、宝物。 何よりも大切な、たった一つの宝物。 面影 「ひかるーたんじょーびおめでとーさん」 5才とは思えないほど拙い言葉を、金太郎が放つ。 ちゅーか今、こいつは何て言った? 「ひかるーたんじょーびおめでとー」 「あ、あぁ。おおきにな…ちゅーか自分、何で今日が俺の誕生日やって、知っとるん?」 金太郎の誕生日は兎に角、俺の誕生日なんてこいつが産まれてからこっち、一度も祝っていない。 俺の誕生日は金太郎の誕生日と違って、あいつとの思い出が多過ぎるから。どうしても、あいつのことを思い出してしまうから。 あいつがいなくなってしまってもう、5年になるというのに。俺はちっとも、前に進めていない気がした。 俺の問いかけに金太郎は、うーんうーんと、必死に脳みそを動かしてから、ようやく思い出したのか顔をぱっと輝かせ、飛びついてくる。 「さっきなーけんやがおしえてくれてん。ひかるにそういうたら、よろこぶでーて」 「謙也クンか…余計なことを…」 「ひかる、うれしないんか?」 「ん?あぁ、嬉しいよ。ホンマ、おおきにな。金太郎」 そう言って、飛びついて来た身体を抱き上げ、あいつ譲りの赤毛を撫でてやると。 金太郎は嬉しそうに目を細めた。 こんなところまで、あいつにそっくりだ。 『ひかる、誕生日おめでとーこれでやっと、同じ歳になれたねー』 思い出の中のあいつは、あの日のまま。 だけどあいつが遺していったこいつは、すくすくでかくなっていく。 「ひかるー?どないしたん?おなかいたいんか?」 金太郎の言葉に、はっとする。 どうやら俺はトリップしてしまっていたらしい。 金太郎の頬には、俺が流したのであろう涙の痕が残っていた。 「ん…違うよ。ちょお、お母ちゃんのこと、思い出しとっただけや」 「ふーん…だいじょうぶやで、ひかる」 頬に落とされた涙と、自分の目尻に溜まっていた涙を拭いながら、安心させるように微笑むと。 腕の中の幼子はまた、にかっと笑って。 「おかあちゃんのぶんも、ワイがひかるといっしょに、おったるからな!」 あぁ、もう。 「おーきにな、金太郎」 「おん!おやすいごよーや!!」 この子どもは確かに、あいつの子どもだ。あいつと俺の子どもなんだ。 一緒にいてやるとか、そりゃこっちの台詞だとか。何でそんな上から目線なんだとか、色々と思うことはあるけど。だけど。 俺が一番欲しい言葉を、必ずくれる。 世界で一番愛おしい存在を俺は、力いっぱい抱き締めた。 「…ってくっさ!自分、どないしたらこんな汗臭くなれるん!?風呂や、風呂行くで!」 「えー…ワイ、風呂きらいやー」 「好きとか嫌いとかの問題ちゃうやろ!ほれ、さっさと脱げや!」 「いややー!!」 汗臭さとほこり臭さを家中にまきちらしながら、腕の中をすり抜け駆けだした小さな身体を、必死になって追いかける。 その子が俺を必要としなくなるまでは、精一杯守っていこう。 あいつの分まで、守っていこう。 「捕まえた!ほれ、風呂や風呂!」 「あーつかまってもうたーつぎはまけへんからな!」 「はいはい…」 「あーひかる、いっけないんだーはいはいっかいやーて、しらいしがいうてたでー」 汗だくになって子どもを追いかけている姿なんて、あいつが見たらどう思うだろうか。 こんな、俺のキャラでもなかったようなことを、俺がしているなんて。 そんなことを考えながら、金太郎を抱えて風呂場へと向かう。ついでに俺も、一風呂浴びてくるか。 ぎゃーぎゃー言い合いながら歩いていく俺たちを、遠くであいつが笑っている気がした。 End. 光誕 |