好きだと言われた。 ずっと思い続けていた相手に、好きだと言われた。 LOVEずっきゅん 俺も好きだと、すぐに返せばよかったのだろう。 そうすれば彼に、寂しそうな顔をさせることもなかっただろうし、俺自身もこんなに苦しい思いをすることがなかったはずだ。 そう、すっかりしょげた俺を心配してきてくれた師範に告げれば「なら自分がせなアカンことは、もうわかっとるやろう」と、頭を撫でてくれた。その掌の大きさと暖かさは、俺に勇気をくれた。 だけど、そんな勇気も彼を目の前にするとすっかり消え失せ。代わりに口から飛び出すのは、心にもない言葉(うざいとか、キモいとか…ホンマ、自分で言うてて嫌になる)ばかり。 その度に彼に、悲しそうな顔をさせた。その度に俺の心も、ずきずきと痛んだ。 それを半分泣きそうになりながら師範に言えば「ホンマに財前は、金太郎はんが好きなんやな」と、優しく言ってくれた。 その言葉は彼が言ってくれた好きには届かないけれど、俺の心の底まで浸透していった。 「…ひかるは、銀のことが好きなんやな。やったらワイのことなん気にせんでえぇんに…ワイな、ひかるが幸せやったら、それでえぇねんで」 だけど、そんな言葉を彼は聞いていなかったから。だから俺と師範が最近よく一緒にいる所を見て、俺が師範の前で素直に彼とのことを相談している所を見て、そんな風に言った。 その言葉は、鋭利な刃物のように俺の心に、突き刺さって来た。だけどそれはきっと、彼がずっと受けて来た痛みなのだろう。そして今も彼は、その言葉を発しながら傷ついている。 だって。その顔は全然いいとは思っていないから。 全然嬉しそうでも、幸せそうでもないから。 俺が今まで見たことがないくらい、辛い、悲しい、寂しいって、言っていたから。 「……やけど、忘れんで。否定せんで……ワイはひかるが、好きやから。ホンマにひかるが、大好きやから」 こんなに彼を傷つけてしまう俺なのに、彼はまだ、好きだと言ってくれた。 その言葉が脳に届いた瞬間。俺の目からは涙が溢れていた。人前で泣くだなんて、どれくらいぶりだろう。最後に泣いたのも、彼の前だったと思いながら。その時の彼は、慌てて俺の目をごしごしと擦って、最後には自分まで泣きだしていたっけ。 そんなことを思っていると、視界が真っ暗になる。俺を包んでいるのはすっかり見慣れた豹柄と、そして汗の匂い。 「…ひかる、泣かんで?そないワイに好かれるんが嫌やったら、もう言わんから…もうひかるんこと好きやって、言わんから…やから、泣かんで」 ぎゅっと、背中に回された腕に力が入る。その力は彼にしては控えめで、まるで卵でも持つような力加減で。 自分が大切にされていることを、全身で感じた。 今ならきっと言える、そう思った。 「…きや」 「へ?」 「っ!お、俺も好き、や」 誰が?なんてすっとぼけた事を抜かした彼の背中に、宙ぶらりんになっていた自分の腕を回して力いっぱい抱き締める。するとしばらくして頭上に、冷たい感触。 ゆっくりと顔を上げると、涙でゆがんだ視界に、同じように視界を歪めている彼がいた。 だけどその顔は、さっき見たものとは違って嬉しそうで、幸せそうで。 それを認めた俺も、やっと笑えた。 師範に2人揃って、やっと言えたと告げに行った。両手を俺たちの頭にそれぞれ乗せた師範は穏やかに笑って「よかったな」と一言零すと、優しく暖かい掌で、俺たちの頭を撫でてくれた。 師範に頭を撫でられながら、俺たちは顔を見合わせてもう一度、笑いあった。 幸せってこういうことを言うんだろうな。そう思った、14回目の春のある日。 End. 金誕 |