最初から君に、助けられていた。 明るく輝く君に、照らし続けられていたんだ。 Fire Flower いつからだろうか、こんなにも彼のことを愛おしいと思うようになったのは。 最初に彼を見た時は、あぁ今年も大変な子が入ってきたと、また手を焼くことになるなと、これから起こるであろう未来の事件に対しての溜め息しか出て来なかったというのに。今では彼のことを考えるだけで、まるで初めての恋をした少女のような甘い吐息が出て来るのだから、自分のことながら面白い。 席替えで、窓際の一番後ろの席になった。同じクラスの連中にサボるのに最適の場所だと羨まれたが、俺はそんなことにこのポジションを利用しない。俺がこの席になって一番よかったと思うのは、彼のクラスが体育で外に出る時間。 聴き覚えのある…どんなに大勢が声を張り上げている中で小さく呟いた声ですら聴きとる自信のある声が、グラウンドから響いてくる。その声に、彼を知る人間はまたかと、呆れたような嬉しそうな顔をしてみせる。そんな連中に合わせるような表情を顔に張り付けた俺は、高鳴る胸を押さえながら、窓の外を眺めた。 そこには予想通り、この寒い中でも半袖半ズボン姿でサッカーボールを追いかけている、彼の姿。それを認めるだけで心が暖かくなる。彼のように誰にでも優しく出来る気がする。 「こぉら金ちゃん、また喧嘩なんしよって…大会、出場停止とかになったら、どないするん?」 そんな彼を見ていたら、俺が彼のことをこんなにも愛おしいと思うようになった切欠を、思い出した。 それはまだ春と夏の境目、俺がまだ彼のことを、手のかかる後輩としか思っていなかった頃の話。 テニスコートの現れた彼の身体には数か所、殴られたような跡があって。着ていたまだ新しい制服には、埃がついていた。それをはたいてやりながら、溜め息交りに出した言葉。彼を封じる為に編み出した技を披露しようと、ゆっくり左手を上げた瞬間。 「やって白石ぃ!ワイ、悔しかったんや!自分らの部長はテニスは出来るけど、喧嘩は弱いやろて、言われて…悔しかったんや!白石が馬鹿にされんの、許せんかったんや!」 その左手を掴んで、彼は真っ直ぐに言った。 その時感じた。俺は彼を守っているつもりになっていて、彼を導いているつもりになっていて。実のところ彼に、守られていたのかもしれない、と。 彼は俺が守らなくたって、もう立派に一人で立てている。俺が導かなくても、自分で自分の路を選んで進んでいる。 そして俺のことも、守ってくれている。 「…おおきにな、金ちゃん…せやけど、喧嘩はアカンよ」 「ん。気ぃつける」 握り絞めた掌は、俺のそれとほとんど大きさが違わなかった。そんなことにも、その時はじめて気がついた。 それから。気付けば彼を目で追って。何かある毎に彼のやることに口を出して。ひょっとしたらウザがられているかもしれないけれど、そうでもして彼との接点を持とうとした。 そんなことをする理由は、気付いてしまえば簡単なことで。認めてしまえば楽になり、自分の気持ちに正直な行動が取れるようになっていた。 窓の外から、歓声が聞こえる。 どうやらサッカーの試合で彼がシュートを決めたらしい。チームメイトと抱き合って、喜びを表現している彼の笑顔に、こちらの心も暖かくなる。すぐにホイッスルが鳴り、また彼はボールを追いかけて走り出した。 そうやって彼はずっと、何かを追い続けるのだろう。彼自身が求める、何かを。 そうしているうちに俺のことも…俺たちのことも、自然と導くようになるのだろう。 大輪の花のような笑顔を浮かべ、光輝き続けるのだろう。 もうすぐ俺は卒業して、彼と同じ学校に通うことはなくなってしまうけれども。そんな彼を、少しでも長く見ていたいと。もう一度、窓の外へと視線を動かした。 彼はやっぱり、眩しいくらいの笑顔を浮かべて、走り続けていた。 End. 金誕 |