どうしても特別になりたかった。
どうしても、君の特別になりたかった。




瞳の奥をのぞかせて





彼の誕生日が春だと知ったのは、彼の幼馴染の誕生日を部員たちで言わっていたときのこと。来年の誕生日にはもう俺たちは卒業していて、俺たちに祝われることはないのだろうと、

少し寂しそうに彼が呟いたときのこと。



「来年の誕生日は、一緒に祝お。俺たちが出会って、はじめての誕生日は」



そう告げたとき彼は、本当に嬉しそうに笑っていたのに。その一緒にが“2人で”ではなく“みんなで”だと彼が理解していたことに気付いたのは、そのすぐ後のこと。
彼がその日の主役に、自分が見たことがないような笑顔で「来年の誕生日は、千歳もお祝いしてくれるんやて」と、告げていたから。その幼馴染も他の人間には見せたことがない、慈しみに溢れた笑顔で「よかったな」と、俺のことなど歯牙にもかけないかのように、言ったから。



あぁ、俺は彼にとっては“その他大勢”でしかない。そう気付いてしまった瞬間。俺だけではない、彼ら2人にとって自分たち以外は、例え家族であっても“その他大勢”でしかないのであろう。



それから、その状況を少しでも変えたいと思い。彼の幼馴染よりも優れているところを多々見せつけて来た。彼が最も情熱を傾けているであろうテニスで、その実力の差を全国大会という絶好のステージで示してみせた。

他にも沢山、俺の方が彼を幸せに出来るのだと、示してきた。
でも、最終的に彼は幼馴染の手を離すことはなかった。俺の完敗だった。



卒業式、この学校を、彼と一緒に過ごしたテニス部を去って行く俺たちの前で、彼は彼が不器用で無愛想な幼馴染を幸せにするのだと、言ってのけた。
何があっても自分だけは、幼馴染の味方で居続けるのだと、2人一緒に幼馴染の愛するテニス部を守るんだと、だから安心して卒業しろと、言ってのけた。


そして隣に立ち、そないなことせんでもえぇと顔を真っ赤にしている幼馴染の…彼の“特別”の手を握ると、嬉しそうに笑うのだ。



「なぁ千歳、今年の誕生日はお祝い、してくれるんやろ?ひかると一緒に、待っとるわ」



別れ際、そう言った彼の笑顔は、あの日の主役に捧げていたものと殆ど違わなくて。だけどその瞳の奥にある真意だけは、どうしても読みとれなくて。



「…そうとね。うん。祝お。金ちゃんの誕生日ば、みんなで祝おう」



そして最後まで俺は、彼の“特別”になれることはなかった。



こうして桜が散るように、きっと最初から実る見込みなんてなかったのであろう、そうわかっていた憐れな俺の初恋も、誰に気付かれることなく散っていった。


桜と違い、俺の初恋は誰かに美しいと愛でられることも、誰かの心を癒すことも、出来なかったけれども。誰にも気付かれることなく、ひっそりと散ってしまったけれども。


“特別”の手をとり歩き出した彼の、見た目以上に大きく感じられる背中を見送りながら。それでも彼にとって少しでも俺は“特別”に近い存在になれていますようにと、願った。




End.






金誕


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