「…そう言えば、意外な接点やったなぁ…」


そう思ってしまうことも、当然。
そしてピースが次々とはまっていくことは、必然。




財前金太郎の暴露





「「おじゃましまーす」」


皆で並んだ目の前には、大きな門。綺麗な白磁の、汚れ一つない塀に囲まれた家。インターホン越しに聞こえたのは、病院で散々お世話になった声。その声に了承を貰い、開けた扉の向こうにも広い庭が広がっていて。
この前行った小石川(今は石田だが、慣れないために小石川と呼んでいる)の家も広かったが、この家もなかなかの広さだ。

ほーやらへーやら、間抜けな声を出しながら辿り着いた玄関。声を揃えてその扉を開けると。



「どうぞどうぞ、遠慮なく上がってや〜」

「って、何で小春がおんねん!ここ、光んちやろ!」



ふりふりのエプロンを着けた小春が、出迎えてくれた。

忍足の言葉通り、ここ、財前くんの家。俺たち今、全員でお呼ばれ中。




そもそも始まりは、忍足が「どうせやったら白石と小石川の退院祝いやろーで」と言いだしたこと。最初はカラオケだかファミレスでやろう、という意見が出ていたのだが。まだ足が完治していない小石川を気遣い、近場で…誰かの家でやろう、ということになって。「やったら光んちで、えぇやない」と、まるで自分の家のように小春が言い放ち、いつの間にか会場になってしまった財前くんの家は。


「…言うたやろー狭いって…」

「どこがやねん!俺んち、軽く三個は入るわ!」



こんな場所にこの夏まで、二人で住んでいたのか?と尋ねたくなるくらいの広さ。通されたリビングは恥ずかしながら、夏休みに財前くんと千歳を泊めた俺の家の客間が、余裕で五個は入るだろう…ソファーもふかふかだし。ここで寝たら、良い夢が見られそうだ。



「ひかるーみんな来とるんか?」
「ん。来た」
「よっ!久しぶりやな!」


小春とユウジが小母さんの手伝いをしにキッチンに消えたのと入れ違いにリビングに入って来たのは、何となく懐かしいラケットバックを背負って太陽みたいな笑顔を向けた、金太郎君。
挨拶だけ済ますと荷物を置きに、自室へと行ってしまったが、着替えるとすぐに、リビングへ戻ってきてくれた。

それから、ユウジと小母さんが用意してくれた料理を皆で運んで。



「「白石、小石川。改めて退院おめでとう!」」



俺たちの退院祝いという名目の、どんちゃん騒ぎが始まった…





「そう言えば金太郎君って、千歳と同じ中学やったんやんな?」


途中。忍足が自分の恋愛感を急に語り始めたり、それに乗った小春が自分の(自称)経験談を語り始めたり、それを本気で捉えたユウジが半泣きになって耳を塞いだりと、色々あったが。
終始穏やかに時間は流れて。俺にも小石川にも、笑いが絶えなくて。

そんな中、ふと目が合った金太郎君に、文化祭の時にぽろっと聞いただけだった話を振ってみると。


「せやでー千歳とは三年ん時、同じクラスやったし…ちゅーても千歳、全然学校、来ぃひんかったけどな!」


返ってきたのは、意外な答え。
否、意外ではないかもしれない、千歳はあの初夏の日、学校がつまらないと言っていたから。それは高校に入ってからのことだとばかり思っていたが、中学からなのかもしれないの、だから。

千歳が席を外していることをいいことに、俺は尚も彼に、話を振る。


「サボってたんか?千歳」

「ん。転入早々サボって、そん後もずっとサボとって。ちょっとした有名人やったで」


千歳を見ると、一日えぇことある!なんて噂もあってくらいやしな。

たこ焼を口いっぱいに頬張りながら答えてくれた金太郎君に、思わずもっと詳しく!と、にじり寄ってしまう。いつの間にか他の皆も、金太郎君の話に耳を傾けている。


「せやけどなー…いつやったかな?七月くらい?からは、毎日学校、来るようになってん…あぁ、オサムちゃんが進路面談やーって、千歳んち殴り込んだ後くらいやったかな」


輪の中心に据えられた金太郎君の、話によると。

千歳は当時、学校に来ないばかりか家にもおらず。かと言ってそれを家族は咎めることなく、本人の自主性に任せていると、義務教育なのだから出席日数も関係ないだろう、とだけ、学校側には伝えてきていたそうだ。

しかし、はいそうですか、と頷けない部分が学校にもあって。当時進路担当だった渡邊先生が、千歳の家に殴り込んだ…もとい、家庭訪問に行ったそうで。


「なんちゅーか…千歳、オサムちゃんには懐いとったからな。オサムちゃんの言う事をはちゃんと聞いとったし…そうそう、オサムちゃんが主任に馬鹿にされた時なんかなぁ…」


その後も止め処なく金太郎君の口から飛び出してくる、千歳の“過去”。それは正しくは千歳と渡邊先生の“過去”であって。



それは如何に千歳が、そして渡邊先生が互いの為に行動してきたかという“記録”でもあって。




「そんでなーオサムちゃんが学年主任に「今年は進路担当がいい加減やから、レベル落ちますなー」て、厭味言われてん。したら千歳が「なら俺が、四天高校に合格すればよかこつばい!」て、職員室で啖呵切ってん。そん時先生らは皆、千歳に四天高なん無理やーて、思うとったらしいで」


千歳が俺たちと同じ高校に来たのも、その為に勉強したのも、全て渡邊先生の為。唯一自分を信じてくれていた、渡邊先生の為。

そんな千歳の為に渡邊先生は、自分の仕事と彼個人への指導とを両立させて。金太郎君たちから見ても、かなり疲れている様子だったそうだが、それでもどちらかをおろそかにすることもなく、仕事を続け、そして千歳の勉強も見続けた。

多分きっとこの頃にはもう、二人はお互いを“特別”と思える間柄になっていたのだろう。



そんな二人の努力の結果、千歳は見事四天高校に合格して。自分達を馬鹿にしていた他の先生方を、黙らせることが出来たそうだ。その時の二人の喜び様は、容易に想像できる。


そう、きっとこんな風に…




「…千歳、よぉやったな…惚れ直したで」
「そ、そぎゃんこつ、なかよ!…ぜーんぶ、オサムちゃんのおかげったい…俺こそ、オサムちゃんこつ…惚れ直した、とよ」
「千歳!」
「オサムちゃん!!」










「…なんば、しとっと?」



感極まって、隣に座っていた小春と抱き合った瞬間。


千歳が部屋に、戻ってきた。何でも小母さんに頼まれて、電球の交換をしていた、とのことだ。まぁ、この中で一番背が高いのは彼だから、それくらい役に立ってもらわないと。せっかく御厚意で場所提供だけでなく料理まで出してもらっているのだから、それくらいはして当たり前だろう。と、まるで自分がやったかのように、思ってみたり。



「千歳ぇ…自分、愛のために動ける人間やったんやなー」


ぎゅっと、力強く互いを抱き締めたまま、小春と顔を見合せて、ねーと、可愛らしく小首を傾げてみる。遠くで小石川と忍足が引いた音がしたけれども、まぁ気にしない。あ、因みにさっきの千歳、よぉやった〜から、オサムちゃん!!まで、俺と小春の演技な、うん。演技やけど現実とそない、やっとることは変わらんやろ。



「は?何言っとっと…?て、金ちゃん!なんば言うた!?」

「あ?ただ千歳がサボり魔やったーってこと、言うただけやし。な?白石」

「せやでー…あとは俺と小春の、脳内補完や」

「うち、今やったら長編ラブストーリー書けそうや!」



抱き締め合ったまま、長編ラブストーリーの構想を練り始めた俺と小春と、それから何も悪いことなんてしてないもん!と言うような顔をしている(事実、悪いことなんて何一つしていない)金太郎君の三人を見比べてから。千歳はあー、だのうー、だの言って。大きな身体を部屋の隅っこで小さく丸めてしまった。



いつもどこか一歩引いた位置に立ち、俺たちよりも余裕いっぱい、大人びているような姿を見せている千歳のそんな様子が、何だか珍しくて。そしてどこか可愛らしくて。



「…今度動画、作ったろか?」
「本気で遠慮します!!」


「千歳ぇ〜携帯鳴っとるで?渡邊先生からとちゃうん?」
「もう放っておいて下さい!!」


「卒業したら一緒に住むんか?引越祝い、何がえぇ?Yes/No枕でえぇか?」
「余計なお世話です!!」



隅っこで小さくなったままの千歳の元へ、一人ひとり歩み寄ると、めっちゃえぇ笑顔で一言、掛けていく。
その度に…いつもと違い標準語できーきー反応してくる千歳が、めっちゃ面白くて。

小石川と金太郎君以外は、一人三回以上そんなやりとりを繰り返して。自分がやっていない時は他の奴と千歳とのやりとりを、笑って眺めていた。


いつの間にかパーティの主役は俺と小石川じゃなく、千歳になっていたけれども。まぁそれは仕方ない。楽しいんだから、それでもいいじゃないか。




このメンバーの中、唯一の恋人もちの千歳への。
俺たちなりの冷やかしと愛の籠った、そんなやりとり。

それは財前くんのお父さんが帰って来るまで、ずっと続けられた。
千歳の過去を垣間見ることが出来て。そして彼との距離がまた縮んだと、

そう思える、一日だった。





End.







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