彼と彼らの日常。04






「…うそつき」



自分より頭一個以上小さいところから見上げるように、大きな黒眼が睨みつけてくる。



「俺、自分みたいに嘘ついてへらへらしとる奴なん、大嫌いや」



そこから発せられた言葉は、破壊力抜群だった。






財前光の暴動






「くそ、一体誰がこないなことを…この白石蔵ノ介を陥れようなん…絶対犯人見付け出して、痛い目見せたるわ…」



机上には一枚の写真。あの日クラスメートが握り締めていた忌々しい写真が、今は俺の手元にある。
どうやらそれは合成の類らしいが。どうやって作られたのか、誰が作ったのか。そんなもの、俺たちには分からずに、ただ時間だけが虚しく過ぎていった。


相変わらず俺は誤解を解くことが出来ず、クラスでハブられ続けている。小石川と忍足が以前と変わらずに接してくれていることだけが救いだ。この二人と友達になれてよかったと、ガラにもなく思ってしまうのは。相当俺自身、参っている証拠だろう。



「取り敢えず今は、犯人見付けてこれが作りモンやて、認めさせることやな…ちゅーか誰もこれ持ってきた奴知らんとか、おかしいやろ、フツーに考えて」



ひらひらと、写真を持ちながら忍足がぼやく。こいつの無駄に広い人脈を持ってしても、この写真を用意した人間が特定出来なくて。窓の外から聞こえて来る蝉の合唱に眉を顰めながら、また脱色したのか色が明るくなった髪を掻いた。


俺だって何もしていないわけではない。ネットや何かで取り敢えずこのような合成写真の作り方でも調べてみたり、学年主任とは何もありませんよーということをアピールしてみたりはしている。全て面白い程、空回っているけれども。白々しいって顔、されるだけだけれども。あ、ちょっと思い出してへこむ。

相当精巧に作られているのか、合成された形跡すら見て取れないこの写真。ここまでくるともう、プロの犯行なんじゃないかって、疑いたくもなってくる。
そうでもしなくてはやっていられない。そう思ってしまうこともまた事実。



「…ひょっとしたら、どうやって作ったかくらいは、分かるかもしれへん」

「「マジか!!」」



ずっと何か考えるように黙っていた小石川がゆっくりと、声を出した。その言葉に俺と忍足は、がっつり食いつく。そんな俺たちの態度に若干驚いたように目を丸くして、落ち着くように座るようにと、手で制して。



「…E組に俺と中学一緒やった、パソコンとか詳しい奴がおってな。そいつやったらひょっとしてて、思うねん」



ちょっと話、しに行ってみぃひん?



続けられた小石川の言葉に、俺は思いきり頭を建てに振った。







そしてそのままの勢いでE組へ。校舎が違う為に初めて訪れる場所に若干きょろきょろと辺りを見回しながら、自分挙動不審やでーと、時折すれ違う人たちとにこやかに挨拶を交わす忍足に苦笑いされた。

仕様がないじゃないか。初めて来るんだから。忍足と違って俺は、友達少ないし。てか多分、小石川と忍足以外、いない、し。

ぶつぶつ呟くように返すと。



「そんなんこれから増やせばえぇっちゅー話や!」



痛いほど背中を叩かれた。いつもなら何倍にもしてやり返してやるのに今日だけは、何だかとても嬉しく感じてしまったから。こいつなりの気遣いのように思えてしまったから。そのままにしておいてやった。




「財前、おるか?」



小石川が教室の入り口からひょっと顔を覗かせると、中から悲鳴のような嬌声が上がる。そうですよねー小石川君、モテモテですもんねー状況が状況なせいか、久しぶりに俺の中の僻み虫が鳴いていたが、無視だ無視、虫だけに、なんつって。



「なんや健坊、自分がこっち来るなん、珍しいやん」

「せやでー小石。もっと遊び来いや、さみしーやん」



小石川の声に応えるように教室の奥から連れ添ってやってきたのは、俺たちより少し背の低い坊主に眼鏡の男とバンダナを巻いた釣り目の男。そして。



「けんじろー。俺に用なん?」



その二人より更に小さい、え?君本当に高校男子?俺たちと同じ歳?と疑いたくなるような容姿をした、黒髪の少年だった。








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