一周年だよ、全員集合。





「なんとね…一周年記念パーティて…何が一周年とや?」



カラコロと、下駄を鳴らしながら千歳が向かうのは、手にした紙に書かれた場所…男子テニス部の部室だ。その紙には部室の地図の他に、一周年記念パーティのお知らせ、の文字。

一体、そこには何が待っているのだろうか。日常に刺激を求める方ではない、寧ろ平穏な時間がどんなに大切かを、この歳にして知っている千歳であるが。何だかんだ言ってもまだ14歳。パーティだとか冒険だとか、そういうイベントが楽しみでないわけがない。千歳はまだ、14だっからー♪とでも唄い出しそうなくらい、足どりは軽やかだ。

それに、部室でやるというのなら。自分が密かに想いを寄せている相手…顧問の渡邊も、同席する可能性が高いのだから。そう考えると、自然と顔が緩む。



「着いたばってん…中は、暗かね…」



表情は緩んだまま、足どりも軽いまま辿り着いた部室。長身を生かして窓から中を覗いてみる。しかし、その中は窓から差し込む光以外の光源は何もない。誰かしらいるのだったら、電気が付けられているはずだ。覗き見た部室の中は暗いことを除いて、いつもとちっとも変っている場所がない。パーティだと言うのだから、もっと飾り付けられていたり、美味しそうな料理が並べられていたりすると思ったのに。



「…いたずらだったとや?…手の込んだことを…仕方なか、もう、帰っとね」



誰に言い聞かせるでもなく。説明するような言葉を溜息と一緒に吐き出すと。千歳はくるりと、踵を返そうとした。


その時。




「いらっしゃ〜い、ちとっちゃん。こっからは、アタシと師範と、それからユウ君にお・ま・か・せVvよん」
「色々な人がおるさかい…気を付けて、行ってくるんやで」
「ほれ、わかったらさっさと行って来いや!土産、期待してんでー」



「え?う、わぁぁぁぁ!!」




背中に衝撃。
前のめりになった身体は、目の前になった部室のドアへとぶつかる。


そう思い、ぎゅっと目をつぶった。しかし、いつになっても痛みはおろか、衝撃すら起こらない。






「…よぉやく来たんか。遅刻やで、千歳」
「本当ったい。同じ千歳として、恥ずかしかねー」



「え…」



掛けられた、聞き覚えのある声に目を開けてみれば。そこに立っていたのは自分と謙也。二人とも見覚えのある姿よりも大きく見えるのは、気のせいだろうか。そもそも自分が何で、目の前にいるのだ?夢か?夢なのか?

そう思い、目をごしごしと擦る。目の前には、未だ謙也と自分。今度は頬を思い切りつねってみる。目の前には、やはり謙也と自分。


「い、一体何が、どうなっとっと!?」


「何や、小春君らから、何も聞いとらんのか」
「はははーそうだったらこん反応も、納得できっと」



驚いて大声を上げる千歳を見て、目の前の謙也たちはカラカラと笑う。小春の説明?説明も何も自分はいきなり背中を蹴られてドアに突っ込んだだけだ。そう、しどろもどろになりながらも伝えると、二人は益々笑い声を大きくして。



「あんな。ここ、所謂パラレルワールドみたいなモンなんや。こんサイトが今日でめでたく一周年やっちゅー話で、自分にパラレルワールドっちゅー名の他の文の世界を回らせてまえ!っちゅーんが、今回の趣旨やな」


笑い過ぎて涙目になりながらも、謙也は状況を説明してくれた。
彼が言う通り。この文はやまさきの訪問者様に捧げる、お礼の気持ちだけはてんこ盛りな、どうしようもない企画なのである。趣旨は先ほど謙也が説明した通り。
そして、もうお気づきかもしれないが、この世界は。



「ここは、Beautiful Worldsの世界ったい。ここでは俺、謙也とらぶらぶVvっちゃ。ね、謙也ぁ」
「…まぁ、紆余曲折色々あってんけどな。主に俺が悪いんやけどな。最後はハッピーエンドやっちゅー話や」


そう、Beautiful Worldsの世界。長いのでBWとでもしておこう。BWの謙也の腕に自分の腕を絡めて微笑む、BW千歳を見て、千歳は信じられない!という表情を浮かべる。そんな、だって。



「なんで謙也とぉぉぉ!!?お、オサムちゃんはどこ行ったとや!!?」



自分の相手が、話は違えど、自分が密かに想いを寄せている相手ではないのだから。
そんな千歳の反応に、二人はやはりケラケラと笑って。


「ここでそないな風になってもうてたら、身ぃもたへんで?」
「そうっちゃ。まだまだ続きはあっとよ〜…頑張れ、俺!」


最後には励ますような笑顔をくれた。
未だに状況が飲み込めていないし、到底受け入れようという気にもなれない千歳であったが。


「…わかった。楽しんだモン勝ちばい!こうなったら企画に乗っちゃる!さぁ、どんな世界でもどんと来い!!」


お前の考えていることは、まるっとお見通しだ!とでも言わんばかりに、びしっと誰もいないはずの虚空を指さした。

それから、BWの世界のことを二人にちらほら聞いて(自分の相手が謙也だということ以外は、特に驚くようなことはなかった)、自分の世界の話もちらちらとして。それからすっかり落ちつけてしまっていた腰を上げる。何となくだが、今立たなければならないと、そう思ったのだ。



「…あぁ、もう行かなな。名残惜しいけど、他の世界の俺らにも、よろしくな!」
「元気でな、俺!頑張るっちゃよ!!…ぜったい、諦めたらダメったい!!」



立ち上がった瞬間だった。途端に目の前が眩しくなる。
目を細めれば元々あまり鮮明でない視界はますます不鮮明になり、耳から二人の声だけが、飛び込んでくる。

あぁ、俺もお礼を言わなきゃ。話を聞いてくれてありがとう、励ましてくれてありがとう、それから、そらから…




そう思っているうちに、増す光と反比例するように、千歳の意識は薄れていった。







「…これ、生きとるんか?」
「お、おい!蹴ったらアカンやろ、蹴ったら…」
「やって、生きとるか心配やん。どれ、もう一発…とりゃ!」
「い、痛かぁぁぁ!!」



腹部に感じた衝撃に、跳ねるように飛び起きる。
すると、目の前にいたのはこれまた自分がよく知る人物で。


「おー目ぇ覚めたか。ほれ見ぃ、俺が言うた通りやったやろ」
「はぁ…もうちょい安全に…て、言うても無駄か」


見た目こそ殆ど変わらないが、自分たちとは違った制服に身を包んだ、白石と小石川だった。


「…今度は何の世界っちゃ?ここで、白石と小石川はらぶらぶとや?」



痛む腹をさすりながら、先ほどの会話から犯人であることは間違いのない白石にジト目を向ける。すると、白石はただ首を傾げ、小石川は慌てたような素振りを見せて。



「自分、何言うとるんや?ラブラブて…あぁ、自分と渡邊先生はラブラブやけどな。俺と小石川は親友や、ベストフレンドや!ラブラブとは、ちょお違うわ」


平然と言ってのけた白石に、分かりやすいほど肩を落としたのだった。あぁ、この世界ではどうやら二人はまだ、親友同士で。相手にそう言った意味で好意を抱いているのは、小石川だけなのか。その様子を見て千歳は、そう思った。



「俺とオサムちゃんがラブラブ!?そこんとこ、もっと詳しく!!」


そんなことより、ここがどこかより。自分とその想い人がラブラブかそうでないかの方が、遥かに大事だ。ぐっと近付くと白石は驚いたように目を大きくして。小石川も驚いた表情を浮かべている。


「と、取り敢えず。ここは彼と彼らの日常。の世界や!俺ら、高校生なんやで」


ぐいぐいと近付いて来た千歳を離してから。ちょっと息を整えて得意気に彼彼。白石は言う。
そうなんです、本編でも番外編でもちっとも触れていませんでしたが。彼彼。って小石川の片想いストーリーだったんですよ。まぁ、恋人同士以上に熱いことやっていましたけど。と、ここでちょろっと言い訳でした。

さてさて、そんなことどうでもいい千歳は、一度引き離されたくらいではめげたりしないで。彼彼。の白石と小石川にぐいぐいと近付き。この世界の自分は、自分と彼はどんな風なのか、どんなにラブラブなのかを、根ほり葉ほり聞こうとする。
だがしかし、二人から出て来るのは嫌そうな表情とため息ばかり。そりゃそうだ、この彼彼。の中でこの二人含めて登場人物たちは、どれだけ千歳の惚気を聞かされていることか。

それでも、せっかく他の世界からやってきた友人とそっくりな千歳のために、小石川はぽつりぽつりと、すっかり覚えてしまった二人の馴れ染めであったり、今の状況であったりを聞かせてやって。それを聞く度に千歳の顔は、柔らかくなっていって。



「やけど、自分かて頑張らな。いくら話聞いたからって、それで満足なん、するんやないで」



すっかり満足して、立ちあがると。また眩しい光。
それと同時に聞こえた白石の声に、わかっている、そんなことわかっていると、言い返そうとしたが。


やはり言葉は声になることもなく。光の中へ、自分自身と一緒に吸い込まれて行ってしまった。









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