気持ちが大事だっていうけれど。モノより思い出って言うけれど。
でもちゃんと、形に残るものを、渡したい日。




サンライズ




「小春ぅ!何か欲しいもん、あるか?」
「そうねぇ…ジャニコンのチケットかしら」
「じゃに?」
「ジャニ○ズのコンサートのことよ。うち今な、台風の松沼俊クンがめ〜っちゃ好きやねん。あの男らしいて太い眉毛、たまらんわぁ〜…せやけど、なかなかチケット取れんでな。それが一番欲しいわぁ」
「う、浮気かぁ!?…やけど、参考意見として、メモっとくわ」


そう言うと、いつもはネタを書くのに使っているノートにシャーペンを走らせて。他にはないん?と、首を傾げてみせる。
そう目を輝かせて聞いておきながらも、別に全然興味ないんですよーとでも言うような、明日の天気でも尋ねるような。そんな口調をするもんだから。

シラを切ろうとするユウ君に、ちょっといじわる。


「そうねぇ、色々あるけど…ちゅーかユウ君、何でそないなこと、聞くん?」
「へ?そ、それはなぁ…その、あれや、あの…」


途端に歯切れが悪くなり、いつもだったら真っ直ぐこちらに向けられる目が、宙を泳ぐ。


本当はわかっている。ユウ君がもうすぐ訪れるうちの誕生日のために、リサーチをしているってことを。
最初のうちは銀さんや健坊から、遠まわしに聞き出そうとしていたってことも。餌(たこ焼途ぜんざい)で釣った後輩たちをも使おうとしていたことも。それでもいい手が見つからなくて(まぁうちが誤魔化したんだけど)、結局直球勝負に出て来たってことも。みーんなわかっている。だってユウ君、わかりやすいんだもの。



「ねぇ、何で?」



誤魔化そうと必死に言いわけを考えるユウ君に、もう一度、問うてやれば。



「べっ!別に!!ただのきょーみや、ただの!!」



と。
顔を真っ赤にして。普段は絶対うちには上げないような大声を上げて、ムキになって。チャイムが鳴った途端、脱兎の如くうちの席から離れて行く。普段ならチャイムが鳴ろうが先生が教室に入ってこようが、そんなことお構いなしで。うちの傍から離れようとはしないのに。

あっという間に自分の席に着いてしまったユウ君の背中に、思わず笑いが込み上げて来る。
そんなにうちが欲しいもの、気になるのかしらね。別に、一番欲しいものじゃなくてもいいのに。そうやってうちの為に一生懸命になってくれているだけでも、十分なのに。それだけで、満足なのに。



でも、そんなこと言ってあげない。

だって、うちの為に一生懸命になっているユウ君を見るのは、とっても楽しいんだもの。嬉しいっていうよりも、楽しいんだもの。


うちがこんなことを思っているだなんて、ちっとも知らないユウ君は。
授業中も広げっぱなしのネタ帳を見て、首を傾げたり頭を掻いてみたり。教室の後ろの方に座っているうちからは、丸見え。授業くらい、集中して受けなきゃだめじゃない。ただでさえ、苦手な数学の時間だっていうのに。もう、受験生の自覚あるのかしらね。


そんなことを思いながら。きっと目の前の数式じゃなくて、うちへのプレゼントのことで頭を悩ませているのであろうユウ君の背中を眺めながら。


数日後に訪れる誕生日が待ち遠しくて、堪らなかった。








そして迎えた、11月9日。わたくし、金色小春15歳の誕生日当日。



「小春ぅ!めっちゃ考えた結果、小春の傍に俺が居るっちゅーことが一番のプレゼントやって思うてん!遠くの松俊よりも、近くのユウジやで!っちゅーことで!俺がプレゼントやぁああ!!」
「ってぇ!いるかボケぇ!!?」



当日もしっかり、楽しませていただきました。
身体も結構、動かせたし、周りの笑いもしっかりとれたしね……ユウ君が半分以上(っていうかほぼ100%?)本気だったことを、除いては。




そんな15回目の誕生日。
大切な仲間と、目一杯笑って騒いだ思い出が増えた、大切な一日。





End.






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