最近俺は、学校に行くのが憂鬱です。

別に、勉強が嫌というわけではありません(得意でもないけど)。友達がいないわけでもありません(寧ろ多い方だと思う)。部活だって楽しみです(テニス好きやし)。


ただ、1人の友人と1人の後輩が、ちょーっと鬱陶しいだけで…




RALLY




「「あ」」


ばったりと、廊下で光と出くわした。
途端慌てたように逸らされる顔。

なんやねん、この態度。俺、一応先輩やねんけど。
最初の頃こそ、そう思っていた。だけどまぁ、それにももう馴れた。


だって。


「ざいぜーん。なに謙也の顔なん、見詰めとるん?」


すぐ後ろから、聞き覚えがあるどころか毎日のように聞いている声が、耳に入ってきたから。

振り向かなくても分かる、そこに立っている人物がつい先日、光が積年の(っちゅー程長いモンでもないだろうけど)想いを実らせ、晴れて恋人同士になった、一応俺の友達の白石だってことくらい。

そんな白石は、俺のほうなんてちらりとも見ず。まっすぐに光の方へと歩いていく。
すると、今時ドラマでも少女漫画でもやらんような、拳で光のデコをこつんと、軽く叩くと。


「もう、謙也のことなんて見たらアカンやろー」


にこやかに、ホンマこの場に女子がいたらきゃーきゃー黄色い悲鳴が湧きあがるようなスマイルをかました。
勿論、それは光限定仕様なんだが。そして残念ながら、この場にいるのは俺と光と、白石本人だけだ。

そんな白石に対して光も、てへっとでも言うように肩を竦めてから。


「ごめんなさーい。やって謙也クンが勝手に視界に入ってくるんやもーん」


甘えるような声色に上目遣い(勿論、白石限定仕様)という、謝っているとは到底思えない態度で白石にぴたっとくっつく。
そんな光の態度に、満足したように微笑むと。


「ほうかーなら仕方ないなぁ…謙也、すぐ消えろ今消えろ完全に消えろ」
「無茶言うなし!!」


白石はまるでゴミでも見るような目を俺に向けると、とんでもない台詞を吐きやがった。

察しのえぇ読者さんならもうお気付きだろう。俺が学校に行くのが憂鬱である理由を。



そうです。
俺、忍足謙也は学校に来てこの2人に会うことが、憂鬱で憂鬱で仕方ないのです。




「…もう、ホンマあの2人、嫌!」
「謙也はん…落ち着きなはれ…」
「そうっちゃ。今が一番楽しかばってん、周りが見えんように、なっちょるだけっちゃ」
「せやけどぉ!!」


結局あの後、しっしと追い払われた俺は涙を浮かべながら、自慢の俊足を生かして部室へと向かった。
そこでたまたま将棋を指していた(最近のブームらしい)銀と千歳に、泣きつく。

あの2人が上手いこと行って、光のことずっと応援していた俺としては、本当に嬉しかった。光のことはかわえぇ後輩やと思っていたし、白石だって大事な友達だと思っていたから。その2人が幸せになってくれるなんて、そんな嬉しいことはないって、思っていた。

だけどそれは、自分に被害が及ぼされるだなんて、思っていなかったからであって。


「…ホンマ、少しでもどっちかと口きけばもう片方から睨まれるし!ちょっと触りでもしたら、ハエ叩くみたいに手ぇぶたれるし!そのくせ自分らの方から惚気聞かせてくるし!俺、どうしたらえぇんやぁ!!」


わーっと叫ぶと、銀と千歳が優しく頭を撫でてくれた。お前ら2人とも、俺の心のオアシスや!!



将棋を指していた手を止めて、2人して俺の愚痴を聞いてくれる。
時折頷いて俺の気持ちに同調してくれることが、とてもありがたかった。 

きっと俺が、どんなに憂鬱になりながらも学校に来られているのは。こうやって、俺の話を聞いて、俺の気持ちをわかってくれる友達がいるからだろう。
白石たちとは違って、俺のことをちゃんと考えてくれる友達がいるから。


だから俺は、こうやって学校に来られるんだ。



そう言うと千歳と銀は顔を見合わせて、少し困ったような顔をした。俺、何か悪いことでも言ってしまったんだろうか。
そう思っていたら、銀がゆっくりと諭すような口調で、言葉を紡ぐ。



「せやけど謙也はんは、ホンマに2人のことが、嫌いなわけとは、違うのやろ?」


別に、白石たちのことを友達じゃないって思っているわけでもないし、本心から嫌いになれない。
それ以上に2人のいいところを、俺はいっぱい知っているから。



「…せやねんなぁ…どないなことされても、嫌いになれんのやわ」



銀の言葉に頷くと、溜息と一緒に言葉を吐きだした。


あぁ本当に、嫌いになれてしまえば一々邪見にされても傷つかないだろうに。嫌いになってしまえば別に、あいつらが何していても気にならないだろうに。


やっぱり何だかんだ言って、俺はあの2人のことが、結構好きなんだ。




「なんやねん自分ら。こないな場所で、何しとるん?」
「部室を私物化しないで欲しいっすわー」


銀たちのおかげで元気になってきて。また将棋を指し始めた2人の対局を眺めていた俺の元に。
また白石たちが、現れて。


「ほれ!さっさと出て行きぃ。今から俺らがここ、使うんやから」
「ぶちょーと俺の、邪魔しないで欲しいっすわー」


まだ対局途中の将棋盤を持ち上げて外に出してしまうと、俺たち3人のこともまるでゴミを捨てるかのように、部室の外へと追い出した。憐れ、先に放り出された将棋盤の上では、駒の並びが滅茶苦茶になってしまっている。

傍若無人って、こういうこと言うんだろうな。テストで意味を書けっていう問題が出たら、間違いなく「白石と光のようなこと」って、書いてやるのに。

そう思い、いい加減文句の一つでも付けてやろうと振り向いた部室の扉。


その隙間からちらりと、本当に幸せそうな顔して微笑み合う白石と光の顔が、垣間見えてしまったもんだから。



「…あぎゃん顔ばされてしもたら、怒る気もなくなっとや」
「せやな。2人が幸せやったら、それでえぇわ…なぁ、謙也はん」




「ん…まぁ、今日ばっかりは、大目に見てやるっちゅー話や」




一回ため息をついて。
それと一緒にイライラも吐き出してしまうと。


俺の後ろで優しい笑みを浮かべていた千歳と銀に負けないくらいの笑顔を、俺も浮かべてやった。




扉の向こう、部室の中からは普段は聞けないような白石と光の、歳相応な笑い声が響いて来た。






End.






Thanks 30000HIT



「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -