「はーい注目!今年の文化祭、俺ら男子テニス部は大方の予想通りの展開やけど、女装喫茶☆やるで!これ、もう決定やから、文句なしやで!!」

それは、他人の主義主張なんてお構いなしに自分の中のマイルールだけで生きる男、白石蔵ノ介の一言からはじまった。



だって君が、好きだから!



「ちゅーわけで、衣装決めたいんやけど。希望ある人ー早いモン勝ちやでー」
「はいはーい!!」

唐突過ぎる展開にも全く動じることもなく。四天宝寺男子テニス部面々は、白石の言葉に真剣になって、自分の衣装を考えはじめる。
どうしたらウケるだろうか…それが大半の脳内を締めている言葉だった。

そんな中。
ホワイトボードの前、腕を組み立った白石の言葉に元気よく手が挙がる。
ほな小春と、持っていた指し棒を向けてやると、ご指名ありがとうございます!と笑顔を向けた小春は。


「うち、メイド服がえぇわぁ〜ふりっふりのレースが仰山ついたの」
「小春がメイドやったら、俺もメイドやぁ!!」


それに続けとばかりに立ち上がった一氏共々、めでたく衣装が決定。ホワイトボードには小石川が綺麗な字で、『小春とユウジ→メイドさん』と書き込んだ。
その文字に小春は砂でも吐きそうな、一氏は天にも舞いあがりかねない表情をしていたが、さくっと無視して。

「ほな、他の希望も聞くでーほれ、さっさと決めやー」

作戦会議は、続けられた。


それから次々に手が挙がり、さくさくと衣装が決まっていく。
因みに、白石→スケバン、小石川→OL(秘書風)、謙也→ナース、石田→巫子、千歳→さつきちゃん、金太郎→めいちゃん、オサム→おかあさん、と言う感じ。決して先日の金曜○ードショーがト○ロだったからのチョイスではない、千歳の趣味だ趣味。

大体の衣装が決まったとこで、部室の隅っこ。俺には関係ありませーんと顔に書いて、手にした携帯電話をかちかちいじっている財前の方へと、白石は歩み寄り、そして。


「ざーいぜん!会議にはちゃんと参加しなさい!ってうっさ!自分、こないデカイ音聞いとったら、耳アカンようになってまうで」


両耳にしっかり嵌めこまれていたイヤホンを引き抜く。
途端そこから溢れだした大音量の耳を音楽に、白石は思わず顔を顰めると小言を零した。
そんな部長に口にはしないが、身体全体で「うざい」とオーラを発した財前であったが、そのまま輪の中心へと連れていかれ、そして。


「…で、財前は何がえぇの?バ○ガール?お立ち台ギャル?…と、両方とも貧相な身体目立つから、やめといた方がえぇわな…あぁ、アンパンでも詰めたらえぇんか。それとも巨大白玉のんがえぇか?」
「余計なお世話っすわ!ちゅーか、古いっすわ!…俺、フツーの格好がえぇです。女装とか、したないし」
「何言うとるんや!自分、笑いを取るんに身体張らんで、どうすんねん!」


ばん!と、それぞれの衣装や当日のスケジュールが書かれたホワイトボードを叩き示される。
その音に今度は財前が顔を顰め、更に続けられた不躾な言葉に噛みつこうとするが、白石があまりに真剣な顔をしていたので、それ以上何も言えなくなってしまい。


「…別に、何でもえぇっすわ。どうせ着なアカンのでしょ?なら、何着ても同じや」


投げやりに、本当どうにでもなれ!というように、言葉を放った。
もう本当、何でもいい。これまでの流れからして、変なモンを要求されることはないだろう。そう、タカをくくっていた。


「ほんなら財前は一般公募っちゅーことで。財前に似合う思う衣装ある人、手ぇ挙げてー」


部長様の言葉にはいはーいと、自分たちの衣装を決めた時よりも楽しげな目をした部員たちが、手を挙げる。
その様子に自分の判断が間違いだったのではないかと思いながらも、両肩をしっかり白石によって押さえられている為逃げることも出来ない財前は。

これから起こるであろう事態に対して、どうなってもいつもの台詞が言えるようにと、心を落ち着かせた。



「ほな、まず千歳!」
「はーい!一緒にジブればよかよ!んっと…余っている女性キャラ…ばあちゃん?」
「嫌や!!ばあちゃんなんて、死んでもいやや!」
「…ちゅーか普通に考えて、おもろないやろ。却下やな」
「残念ばい。せっかく光くんに「おばあちゃん!めいがいなかぁ!」って、抱きつける思うちょったのに」
「はーい!絶対却下!!次行くで、次ぃ!!」


千歳、脱落。



「次は小春や。いっちょ決めたってや」
「うーん…そうねぇ…あ!うちらがメイドやから、財前ちゃんはお嬢様Vvなんてどう?ツインテールにぬいぐるみ持って…」
「あかーん!」
「…な、何で俺より先に、ユウジ先輩が怒鳴るんすか?」
「やってそないな設定になったら、俺らが財前に敬語使わなアカンのやろ?そんなん、嫌やし!それに」
「それに?」




「俺と小春の邪魔は、誰にもさせんわ!!」




「……あの、うん、なんかごめんね、財前ちゃん」
「いや、えぇっすわ、その、慣れてますから…」
「人の話聞けやぁ!!」
「これも、没っと」


小春&一氏、脱落。





「金ちゃんは?幼馴染的に、どない格好が似合う思う?」
「…ワイなぁ、ひかるやったら絶対似合う思う格好、あんねんけど」
「何や?金ちゃん。言うてみ?」


「女テニのスコート(キパッ)」
「帰れ(キパッ)」


「…まぁ、誰が財前に貸すかで女テニも揉めるやろし。やめといた方が、無難やなぁ」
「えー…まぁ別にえぇけど。今度無理矢理着せたるから」
「ホンマやめんと、縁切ったるからな…」


金太郎、脱落。



「銀は?何がえぇ?」
「む…せやなぁ…浴衣なん、どうやろか」
「浴衣かぁ…確か姉ちゃんのがあるし。借りられんことはないなぁ…」

「…浴衣にはうなじやろ、うなじ。うなじ見せんかったら浴衣の魅力半減やろ」

「…小石川?」

「うなじ見せん浴衣なん、浴衣やないわ。なんやねん最近は。ショートやのボブやのが流行りよってからに。ロングやろロング!ロングヘアによって普段隠されとるうなじが晒されるっちゅーんが、浴衣の醍醐味やろが!そもそもなぁ、ロングヘアの何がえぇて……」

「…ふ、副部長?」

「……へ?お、俺何か言うてたか?」
「……人の性癖はそれぞれやさかい…何も、言うまい…」
「浴衣、却下ぁ!!」
「ちょ、俺ホンマ何言うた!?え、口に出てたんか!?どっからどこまで!?」
「うっさい黙れ変態がぁ!!口に出せんようなこと、考えるんやないわぁ!!」
「副部長…酷いっすわー」
「ちょちょちょお!誰か、ホンマ俺何言うたんか教えてやぁ!!」


石田&小石川、脱落。



「…一応オッサンにも聞いといたるわ」
「一応いらんし!…せやなぁ、白石がスケバンやったら、財前は優等生なんどうや?スカート丈は校則通り、靴下は白。髪型はもちろんおさげで、眼鏡掛けってもかわえぇやろな。そうすることで、白石との対比が目立つし。セットでおいしいんやないんか?」
「ふーん…まぁ、オッサンにしてはまともな意見やな」
「せやろせやろ!まぁ、俺かて考えとるんやで?はーはははは!」

「……オサム先生、ポケットから、何や落ちましたけど…ってぇ!何やねんこれぇ!!」
「ちょ!そ、それはアカン!返せ財前!」
「どれ、見せてみなさい財前……オッサン、さいてーやな」
「不潔っすわ!これの影響やろ優等生とかぁ!こんの変態っ!!」
「ち、違う!これはあくまでも元ネタっちゅーだけで、俺はその横の…」
「もっと最低やぁ!オッサン、出入り禁止ぃ!!!」


オサム、脱落。(何が落ちたのかは、ご想像にお任せします・笑)



「そういや謙也、さっきから黙っとるけど。自分、何かいいアイデアないんか?」


ほぼ全員が脱落したため、サバイバルよろしく再び自分の主張を繰り返しはじめた面々の中。
一人、先ほどまでの財前のように部室の隅に座って事の成り行きを眺めていた謙也に、今気付いたといったように声を掛けた。


「…ん?俺?…せやなぁ。光やったら何着ても似合う思うねんけど…」

うーん、と。真面目に考える。
こんな真面目な素振りを滅多に見せない彼だけに、それまでわーわー言っていた他の面々も自分の主張をぴたりと止めて、頭を抱える謙也の方をじっと、見ていた。

そしてようやく、謙也が出した答え。


「いつもの光が、一番かわえぇっちゅー話や」


何の計算もなしに作られた笑顔は、その言葉が忍足の本心から出来ていることを何より雄弁に、物語る。
あぁ、こいつ本気で言っているな。こんな言葉聞かされたら財前「キモいすわー寒いすわー」のオンパレードだろうに…

と、誰もが思っていた時のことだった。



「け、謙也クンのくせに!」
「え?何?俺、変なこと言うた?本音やねんけど」
「…やから嫌いになれんっすわ!もう!!」
「はははーそりゃよかったわ。俺も好きやでー」
「すっ!!お、すっ!」
「お酢?あぁ、お酢は身体にえぇねんでー夏バテせんように、ちゃんと気ぃつけてな」
「うぅ…」


すっかり大人しくなってしまった財前に、誰もが唖然とする。
おいお前、キャラじゃないだろ。そう、ツッコみたい気持ちを押さえながらも、並んで何やら話を始めた二人を、見守るのであった。


「あらあら…財前ちゃんったら、顔真っ赤にしちゃって。かーわい」
「浮気か!」
「…まぁ、今日だけは謙也に花持たせたるわ」
「うなじは、アカンのか?」
「…頼むからそれ、PTAとか他の先生には、絶対に見せんでな、俺のクビが…」
「うっさい黙れ!それより、財前の衣装決まっとらんやーん!」
「おばあちゃんがダメなら、ききちゃんがよかー光くん、絶対似合うとよー」
「あぁ…確かに。そうかもしれんのぅ」


「光、ききやってーよかったやん。きっと可愛えって皆褒めてくれるで?」
「べ、別に、誰彼構わず可愛え言われても、嬉しないですもん」
「へー…俺にだったら?嬉しないの?」
「う…」
「う?」



「う…自惚れんなドアホウ!!!」



すっかり緩んだ顔に、綺麗な右フックが決まった頃。


今年度から衛生面の関係で飲食系の出店が禁止になったことを知らせる生徒会からの使者が訪れ。謙也の悲鳴は白石たちの絶叫によって見事に掻き消されたのだった。




End.






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