彼と彼らの日常。02





「俺は絶対に認めへんからな!自分みたいなんが、小石川ん隣におるなんて」



一瞬こいつは馬鹿かと思った。



「言うとくけどな!小石川は俺んやからな!」



このいかにも馬鹿っぽい(だが一応ここは進学校だ、そこまで馬鹿ではないのだろうが)金髪は、一体何を言っているのか。


俺には到底、理解出来なかった。





忍足謙也の野望




連休が明けて。お互いに自分に嘘をつくことをやめようと決めて。少しずつだが俺も小石川も、“自然”な姿で過ごす時間が増えた。


周りの反応と言えば、まだまだ馴れてくれないのか。小石川が大口開けて欠伸かましていれば見なかったふりをし、俺がくだらんギャグを言うたら聞かなかったふりをする。そんな感じ。正直、ツッコミ待ちだったりするのだが(小石川は恐ろしいほど、笑いに疎い)。
周りが俺たちに馴れる前に、俺たちの方がそんな周りに馴れた。


そんな日々の中で最近、良く見る光景がある。



「なぁなぁ、またあの二人、一緒におるで」

「ホンマやわ〜小石川君も忍足君もやっぱり、かっこえぇわねぇ〜」



女子の熱っぽい声に視線を動かせば、小石川の隣に当然のような顔をして立っている、金髪の男が一人。

B組の忍足謙也。ここのところ毎日休み時間の度に小石川のところにやってくる。因みにここA組。忍足のクラスではありませーん。

この忍足謙也という男。金髪でいかにもチャラい外見(だが顔の造形は整っている)で表情もコロコロ変わる(その殆どがアホ面)、小石川とはまるっきり正反対のタイプ。そんなイケメン(らしい)二人が必要以上に一緒にいれば。



「ホンマ、目の保養やわ〜」

「ね。白石君もえぇけど、忍足君との絡みのんが、新鮮っちゅーかぁ、絵になるっちゅーかぁ…」

「どないな話しとるんやろ…想像も出来へんわぁ〜」



また俺が下に見られとるっちゅーねん!あー腹立つ!



小石川と一緒にいる時間が増えるに従って、周りから比べられることも前にも増して増えたのであったが。俺の方が文系科目の成績はいいとか、球技は上手いとか、字は綺麗とか、色々と俺の方が勝っている部分も見えてきて。何よりいつでも本音で話せる相手になっている小石川に対して、以前のように敵対心を抱くことはなくなっていた。

だがしかし!忍足謙也に対しては違う、断じて違う。俺はこんなチャラい男と比べて劣るような存在じゃない!断言する!

だが、何となくだが、忍足が小石川と一緒にいると、近寄り難いオーラが発せられてると言うか何と言うか…で。



「お、チャイムや。そんならまたな、小石川」

「おー」


こうして今日も、チャイムが鳴って忍足が軽い足取りで周りの女子に笑顔を振りまきながら退室していくのを、ただ眺めていることしか、出来ないのだった。



くそ、小石川の友達は俺やど俺!なのになんで自分のんが、そない親しげなんやねん!あームカつく!



そんな日が何日か続いて。
昼休み。どうせ小石川は忍足と一緒に食べるのだろうと、一人で購買へと向かう途中。急に手を掴まれた。

その先にいたのは忍足謙也で。そのまま引き摺るように人気のない所に連れて行かれる。俺はただ状況が飲み込めずに、されるがままになってしまっていて。



「なんや自分!俺の身体目当てやったんか!?それで小石川に近づいたんか!?」



完全に周りに人がいない特別棟の一角に辿り着いたとき、俺の思考が導き出した答えがそれだった。


「ドアホウ!んな訳あるかい!!」



そんな俺の言葉に対して渾身のツッコミが入る。思いきり繰り出された手は見事俺の腹にクリティカルヒット、ぶっちゃけなくても痛い。


「…ホンマ。なんで自分みたいに顔しか取り柄ないようなドアホウが、小石川ん傍におるんや?」


半分涙目になりながら腹をさすっている俺に向かい、忍足は冷ややかな視線と共にそれ以上に冷たい言葉を、投げつけた。


ちょっと待て、誰が顔しか取り柄がないだって?それはお前の方だろう?


そう言ってやりたいが、地味に痛む腹が、上手く取り込めない空気が、それを許してくれない。
そんな俺に、忍足は口角を持ち上げて見せたことのないような、底意地の悪そうな笑みを浮かべ。



「なんや?ホンマのこと言われて、言葉もないってか?」



けらけらと、声を上げた。ぶっちゃけんでも、めっちゃムカつく。ムカつくので。



「そりゃ自分の方やろこのチャラ男め!自分の方こそ、小石川に近づくなやボケ!」



思いきり、蹴飛ばして転がせてやりました。



無様にも床とお友達になっている忍足に、先ほど彼が自分にくれたもの以上に冷ややかな目を向けてやる。哀れ忍足は俺より遥か低い位置から悔しそうに俺を見上げることしか出来ずにいる。


……勝った。


その時の俺は勝利に打ちひしがれていた。やっぱり誰かよりも優位に立つって、気持ちいい。



「お、俺は認めへんからな!」

「何や?負け犬の遠吠えか?」



勝利の余韻に完全に浸っている俺を呼び戻したのは、いつの間にか立ちあがっていた忍足で。だが今の俺は何を言われても動じない。だって俺の方がこいつよりも優位に立っているのだから。こんな程度では動じない。
つもりだったのだが。







「俺は絶対に認めへんからな!自分みたいなんが、小石川ん隣におるなんて…言うとくけどな!小石川は俺んやからな!」












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