一緒に追いかけてきた夢も景色もみんな、宝物。






桜の下で逢いましょう。





今年の桜は、例年よりも早く花を開いたらしい。どっかの余所の県では、観測史上最速で開花したと、いつだかニュースで言っていた。

暖冬暖冬言っていたのに、蓋を開いてみれば例年以上の寒さに襲われたり。かと思ったら急に五月上旬の気候になったり。新型インフルエンザの流行で学級閉鎖になったり、その補講や言って、他のクラスよりも一時間長く授業したり。

そんな、慌ただしい冬は、いつの間にか終わっていた。
部活を引退して受験モードに入ってから、今日まであっと言う間だった。


私立次いで公立校の合格発表も終わり、春からは皆それぞれ、別の路を進んで行く。
一緒に馬鹿やりながら帰るのも、あと少し。あと少しだけ。



「…人生っちゅーもんは、別れの連続や言うけど。ホンマやな」



教室の窓から、学校の傍にある桜並木を眺めながらつぶやく。
その枝についた蕾たちが見えなくなっていくのは、自分の身体がずるずると机に向かって沈んで行くから。まるで今の、自分自身の気持ちみたいに。


「なんやねん。妙におセンチやん。何か変なモンでも、食ったんか?」

「食わんわ、失敬やな」



すっかり見えないようになってしまった桜の代わりに、一年間ずっと使っていた落書きだらけの机が目に入ってくる。テストの度に色々な形をした消しゴムに掻き消されては、また新しいモンを書いて。それを何度も、繰り返した机。来年は一体誰が使うのだろう。汚い机やなんて、文句言われなければいいが。

そんなことを思いながら。



「…ま。歩く路は変わってしもうても。俺らの絆は変わらへんやろ…って俺、今クサいこと言うたな」

「かなり、な…せやけどまぁ、その通りや。うん。その通り、なんやろうけど…」



前の席に座る白石の言葉に、頷く。
彼とこうやって話をするのも、あと少し。進学先が別れてしまった今となっては、あと少ししか時間はない。

白石だけではない。地元に帰るという石田に千歳は勿論のこと。自分よりも成績が遥かに良い小春は近畿圏で一番の名門校への進学が決まっているし、一氏はデザインに特化した学校へ進路を決めている。小石川もまた、自分とは違う学校に合格していた。


そう、誰一人としてテニス部レギュラー陣は、同じ高校へと進まない。皆でもう、テニスをやることもないだろう。

白石の言葉に…絆は消えないという言葉に頷きながらも、どこかそれを信じ切れていない自分もいた。会えなくなることによってそんな目に見えないもの、簡単になくなってしまうのではないか。会えたとしてももう今のように、笑い合うことも出来ないのではないだろうか。



「それに。いくら進路が違う言うても。会おう思えば、会えるんやから。会えば俺らやで?普通に笑うて話すことかて、出来るやろ。やからそない今生の別れ見たいな顔、今からしなさんな」



そう考えると、どんどんと沈んでいく気持ち、沈んでいく身体。それを見て仕方ない、とでも言いたげなため息をついてから白石が言った言葉。


それは本当に単純なことで。当たり前のことで。


だけど自分は、考えていなかったこと。それが当たり前だなんて、思えていなかった。信じられていなかったのだ…俺は、今までずっと一緒にいた仲間を、信じることが出来ていなかったのだ。


顔を上げれば。三年間ずっと一緒に戦ってきた相手が…白石が、そこにいた。その後ろには他の仲間たちも、いるようで。
皆、どんなに辛いときでも絶やさなかった笑顔を、浮かべていた。




「…卒業式の後、花見しよ。皆も誘うて。菓子とかジュースとか持ち寄ってさ。で、毎年の恒例行事にすんねん。来年は光、再来年は金ちゃんの卒業を、お祝いしたるんや」

「今年は俺らが、祝われるんやな」

「ま、そういうこっちゃ」



そんな笑顔に後押しされるようにして、ようやく言えた言葉。
ようやく出て来た笑顔。


窓から見える桜の大木についた蕾はまだ、固いかもしれないけれど。卒業式の頃には一つ二つは、花を開いているかもしれない。自分たちの門出を見守るように。花が咲き誇っているかもしれない。



「卒業しても、また会えるよな」

「当たり前やん…それに、毎年やるんやろ?花見。強制参加にしとけば、皆集まるわ」

「ん。せやんな、せやんな!」



そんな桜の下で、また逢いましょう。
きっと…絶対また、逢えるでしょう。



開け放たれた窓から、暖かい風が吹き込んでくる。
春はもう、そこまで来ている。それぞれの路を進む、新しい季節が。






End.






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