2009年一氏誕2009年小春誕の続きです。







「ユウジさん!お誕生日おめ「ぎゃー!!俺は何も聞いとらんからなぁ!!」




番組スタッフが用意してくれたケーキの存在を認めるなり俺は、思い切り顔を背けた。
次いで鳴らされようとするクラッカーを奪うと、ゴミ箱へぽーいと投げいれる。そんな俺の行動に、手にしたクラッカーを奪われたみなさんからは非難轟々だったけれど。



「うっさいわ!まだ小春からおめでとう言うてもらっとらんのに、他の奴から祝われてたまるかい!」



俺にだって、言い分はあるんだ。自己中心的で自分勝手な理由だってことくらいはわかっている。だけど、どうしても譲れない理由が。





未来のために





去年の彼の誕生日から同居(同棲というと、怒る)を続いている小春は。4日前から研究所に、カンヅメ状態だった。何でも、部下の女の子がミスった尻拭いをしているらしい。
そんなこと、小春がしなくてもいいのに。そう思った俺は正直にそれを言葉にした。だけど小春は。


「そんなんアカンでしょ。あそこの責任者はうちなんやから。ちゃんと最後まで、責任もたなね…大丈夫、ユウ君の誕生日はちゃんと、一緒に過ごすから」


そう言うと、いつものように行ってきますと笑って、そして研究所へと出掛けて行った。小春のそんな男前なところも大好きな俺は、それ以上何も言うことはなかった。


それから4日。時間にすると約100時間。

小春からは、何の音沙汰もなかった。電話をしてもすぐ留守電に繋がり、メールを送っても返事は来ない。
せめて今日くらいは。そう思っていた。だけど、日付が変わった瞬間も、そして一日の半分以上が終わってしまった今になっても。小春からの連絡は何もない。まぁ、小春以外の人間空の連絡を遮断したくて、俺の携帯はずっと電源を落とされたままなのだけれども。だってそうだろう。うっかりメールでも開いてしまったら、そこに俺の誕生日を祝う言葉なんかが、書かれていたら…



「そんなん、絶対嫌や!俺は小春に、いっちゃん最初に祝ってもらうんやぁ!!」



スタジオ帰りの車の中、まるでガキのようだと、一番付き合いの長いマネージャーは笑った。そんなにこはるさんが好きですかと、笑いながら言うこいつには、大体のことは話してある。


ただ、小春の性別は言ってないけれど。


「あったり前やろ。俺にとって、小春は総てや」

なら、もう少し急ぎましょうか。そう言葉を発すると同時にマネージャーは、アクセルを踏み込む力を増した。




マンションの前まで送ってもらうと、きっと彼がいるであろう部屋へと急ぐ。
辿り着いた部屋。ドアノブに手を掛ける。ひんやりとした感触が、エントランスからここまで走ってきて暖まった身体を駆けた。がちゃがちゃと音を立てながら、何度かそれを捻ってみるけれど。それはそれ以上の動きをせずに、ドアを開けようとはしてくれない。あぁ、鍵が掛かっているんだ。


まだ小春は、帰って来てないんだ。


バッグから出した鍵で乱暴にドアを開ける。分かってはいたが真っ暗な空間が俺を迎えて、それに浸食されるかのように、俺の気分までも暗いものになる。
あぁ、まだ仕事終わらないんだ。小春、大変だな。こんな時間まで、もう4日以上経っているのに。俺、ミスった部下に会うことがあったら、酷いことを言ってしまいそう。そんな、彼の不在の原因を作った相手に対する暴言よりも先に、出た言葉があった。



「こはるのうそつき…」



誕生日、一緒に過ごしてくれるって言ったのに。小春から一番最初に、おめでとうって言って欲しかったのに。離れていた時間、一緒に過ごせなかった誕生日の分も、小春に祝ってもらいたかったのに。


ぶつぶつと言いながら内鍵を掛けて。靴を投げるように脱いで一歩、踏み出した時だった。





「ねぇユウ君。うちのこと、どれくらい好き?」



どこからか、天から降ってきたかのような声が響く。暗い中手探りで俺は、その声のした方へと進む。



「ねぇユウ君。うちのこと、どれくらい好きなん?」

「そんなん、決まっとるやろ。この世界でいっちゃん好き。宇宙でいっちゃん好き。小春ん為なら死ねるし、小春の願いやったら、何でも叶えたる。そんくらい、好き」



あれ、このやりとり、どっかで聞いたことがあるような気がする。電気を点けるという単純な作業すら億劫になったように。俺はそのまま手探りで、暗闇を進む。


そして辿り着いたリビング。




「ほんならうちのお願い、叶えてくれる?」



真っ暗な中、窓からカーテンの隙間を縫って差し込む光だけが小春がそこにいると、影を作ってくれていた。そっちに向かって一歩、また一歩近づきながら。段々と闇に馴れた目が、彼の姿を鮮明にしていく。小春は何かを言おうと口を開けて、だけどそれを躊躇うように口を閉じて。そんなことを、繰り返しているようだった。



「…ずっと一緒にいて」



手を伸ばせば彼に届く。それくらの距離で俺が止まった瞬間。やっと紡がれた声。
それは消えてしまいそうな、か細い声。だけど俺の耳には、何よりも小春の声には反応をする俺の耳には、しっかりと届いた声。



「当たり前やろ!寧ろ、俺のお願いやっちゅーねん」

「ずっと、ずっとずーっと、やで?」

「いる、ずっとずーっと、小春と一緒にいる」



その小さな、そんなわざわざ言葉にしなくても、小春さえ望んでくれれば叶うことに対して。俺は必死に言葉を重ねた。どことなく不安そうな顔をしている小春が、ちゃんとわかってくれるように。
そうしている内に、ふと思った。


あぁ、あの時も本当は、小春はこう言いたかったんじゃないか。と。


そう思ってしまうのは、俺の勝手なエゴかもしれない。願望なのかもしれない。だけど。




「俺…小春のことも、俺のことも、好きやから…やからな、二人共幸せやないと、嫌やねん」

「やから、ずっと一緒にいよ。離れてた分もずっと、ずーっと一緒に、いような」



初めて抱き締めた彼の身体は、俺のものとそう大きさも変わらないし。ひょっとしたら俺のものよりも、逞しい気もしたけれど。
俺の言葉にこくんと頷いた小春のことが、やっぱり俺は大好きだ。そう実感できた瞬間だった。
きっと俺、小春に出会うために産まれてきたんやで。そう言うと小春はアホって言って、少し笑った。






「あぁ、言い忘れとったけど…ユウ君、お誕生日おめでとう」

「おおきに!小春がおめでとう言うてくれたん、一番やで!」

「え…ユウ君、そない友達少なかったん…ご、ごめん、ユウ君のことやからもう、とっくに大勢からおめでとう言うてもらっとる思うとったわ…」

「へ?ちゃ、ちゃうで小春!別に俺、友達少ないわけやなくて、小春に一番におめでとうて言わたくてそれで…」

「えぇの!そない必死に弁明せんでも…例え友達おらんでも、うちはユウ君と一緒に、いる、から…」

「ちょお!そう言いながら目ぇ逸らさんでや小春ぅ!!」







Happy Birthday Yuji!!




End.





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