※未来設定で、財前くんと元彼のはなし。
財前がちょっと、かわいそう。






毎日のように眺めていた字で、俺の名前が書かれた真っ白な封筒が届いたのは、あの人と別れてから数か月後のこと。


よくもまぁ別れた、所謂“恋人”っちゅー間柄だった人間にこんなもの送れるよなって、相手の神経の図太さを疑ったが。それに列席しますと返事を返した俺も、相当神経が図太いのか。それともとっくにどこかが、可笑しくなってしまっているのか…まぁ、同性と付き合っていた、という時点でどこかが可笑しいなんてこと、分かっていたのだけれども。





ウェディング・ベル





男同士だとか、価値観の違いだとか、些細な行き違いから始まったほつれは段々と大きくなって。いつの間にかそれは塞ぐことも覆い隠すことも、出来なくなっていた。
終わりにしようと言ったあの人の身体からは、女物のきっつい香水が香っていた。えぇですよって頷いた俺も、彼じゃないオンナの匂いを纏わせていたのだから、お互い様だろう。




ゆっくりと、バージンロード(この名前、何度聞いても笑える)を通る、真っ白なドレスに身を包んだ“お嫁さん”の顔は、ヴェールに隠されてよく見えなかったけれども。それでも彼が選んだ人なんだから。そこそこ美人なんだろうな。寧ろそうじゃなかったら、腹が立つな。そんなことをぼんやり考えながら。ゆっくりとあの人の元へと歩いて行く“お嫁さん”を、ぱちぱちと拍手をしながら見送った。

神父サマの柔らかな通る声とパイプオルガンの音。大きな十字架の下に立つ彼とその相手。両方真っ白な服に身を包んで。まるで自分達は、穢れてないと言うみたい。あぁ、態とらしい。

両手でしっかりと耳をふさいで、思いきり力を込めて目を閉じて。それでも周りの歓声やら傍にいる先輩たちの大きすぎるリアクションに、何が起こっているかなんか、容易に想像出来てしまう。本当に、こんな時は自分の想像力と記憶力を、呪う。


だってあの人がはにかむように笑う表情だとか、少し真面目な顔をして頷く仕草だとか、全部全部、覚えているのだから。


その手を取り一瞬躊躇ってからゆっくりと、“お嫁さん”の指にリングを通しているんだろうな、とか。両肩に手を置いて、目が合ったら安心させるように微笑んでからゆっくりと、顔を近付けているんだろうな、とか。

だって全部全部、俺が今までされていたことだから。


全部全部、俺の腕の中にあったものなのだから。




多分、式が終わったのだろう。
“お嫁さん”の手を取ってゆっくりと、彼が祭壇から下りて来る。祝福の拍手に包まれながらゆっくりと、通路を列席者と会話を交わしながら二人並んで歩いて。

俺の横を通った時、目が合った。その目にはしっかりと俺が映し出されていたはずなのに。
俺の目にきっと、過去のことを思い出したはずだというのに。


彼は何事もなかったように。そう、俺となんて何もなかったと言いたいかのように。



「来てくれて、ありがとな」



綺麗に微笑むと、中学からの後輩やねんと、ヴェールを上げて幸せそうにうっすらと綺麗な涙を浮かべながら微笑む顔を(やっぱり美人やった)晒している“お嫁さん”に、俺のことを紹介なんか、しやがって。



「…おめでとうございます。とても素敵な人ですね」



俺だってあんたとなんて、何もなかったって言うような顔をしてやって。この人に見せたことがないくらい、この人に負けないくらい、綺麗に綺麗に微笑んでやった。

一瞬だけど、あの時の彼と同じ香りを纏った“お嫁さん”の顔に朱が走ったのを見て、思わず鼻で笑いたくなった。



「どうぞ、末永くお幸せに」



その顔に浮かぶのが、悲しみの涙にならないといいですね。

その一言はぐっと飲み込んで。“お祝いの言葉”って奴だけを。顔には笑顔を張り付けたままで、吐き捨ててやった。





煩いくらいに鐘の音が鳴り響く教会を、用があるからと言い、引きとめる先輩たちを残し一人後にする。
歩いて来た方向では歓声が上がっているから、ブーケトスでもしているんだろうな、なんて。自分の中にある“結婚式”という、自分にも彼にも縁遠いとばかり思っていた行事の記憶から、想像する。

きっと今頃彼は、幸せそうに微笑んでいるのだろう。隣に立つ“お嫁さん”のことを、抱きよせながら。

そんな姿を想像してしまったら、無性に腹が立ってきて。湧き上がる苛々は、抑えることが出来なくて。



「くたばっちまえ!」



空に叫んだ途端、涙が零れて来た。


あぁ、何だかんだ言って俺、あの人のことまだ好きだったみたいだ。あんなにあっさり終わったのに、結構本気だったみたいだ。


別に結婚したいなんて、思っていなかったけれども。堂々と誰かに紹介なんて、されたくもなかったけれども。

だけどこんなにも、胸が苦しい。溢れ出る涙は、当分止まりそうにない。
暫くその場で空を見上げて。重力に任せて零れる涙は、そのままにして。



どうかあの人も、少しは苦しみますように。
アーメン!



それがようやく止まった頃。信仰も持たない癖に、胸の前で大きく十字を切って。
まだ祝福の鐘が鳴りやまない教会に向かって祈った。こんな願いを神サマっちゅー奴が叶えてくれるなんて、思わないけれども。祈ることくらいは、許してくれるだろうから。



穏やかに微笑んでいるであろう、かつての最愛の人へ。

さよなら、お元気で、それからお幸せに。
でも俺よりは、幸せになんかならないでくださいでね。






End.






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