俺の知らない真白いシャツを着て、幸せそうに微笑み合う。
そんな笑顔も、俺は知らない。




Star Dust




「…ん?オサムちゃん?」


部活もない休日。特に誰とも約束がなく、オサムちゃんとも仕事があるからという理由で、会うことが出来ない日。せっかく部屋に行くチャンスだったのにと、少し残念にも思ったが、仕方のないことだと、諦めた。
そんなつまらないことでオサムちゃんのことを、困らせたくなかったから。

そんな日、何をするでもなく部屋で無為な時間を過ごすよりも有意義であろうと、眩しいくらいの太陽に誘われて街へと出た。何をするでもなく目的もなく歩き廻る。見上げた空の変化に心躍らせながら。通り過ぎたショーウインドウのディスプレイを思い出しながら。すれ違うカップルの笑顔に、繋がれた手に、ちょっと嫉妬しながら。

彼らの様に日の下を笑顔で、手を取りとってなど歩けないと、理解しているというのに。納得しているというのに。それでもと、望んでしまう自分がいた。


そんなこと、決して口に出来ないけれども。


ただ、小さな部屋の片隅で。ただ、隣り合って座るだけでも、幸せだから。普通の幸せなんて望めないって、わかっているから。



そんな相手、俺が一番好きな人物…オサムちゃんが、巨大な交差点の向こう…人混みの中にいる。誰かと一緒なのか、時折隣に視線を向けて笑顔を向けながら。


その笑顔は、とても柔らかくて。とても慈しみに満ちていて。
そんな笑顔、俺は向けられたことも、見たことすらもなくて。


隣にいる人物は、女性にしては長身で。だけどオサムちゃんよりは身長は低く、伸ばされた互いの手はしっかりと、握られていて。そして互いに揃いなのか、真白いシャツを、着ていて。

何度も彼の部屋を訪れているが、何度も彼の服を片付けようとクローゼットを開けているが、
あんなシャツ、見たことがなかった。



信号が変わる。止まっていた人々が一斉に動き出す。

オサムちゃんとその女性も一緒に、こちらに向かって歩いてくる。その手はしっかりと握られたまま、互いに笑顔を向けながら。真っ直ぐこちらに歩いてくる。



俺は動けずに、立ち尽くすことしかできなかった。
俺は動けずに、すぐ横を通り過ぎる彼らをただ見ていた。
そんな俺に気付かずに、オサムちゃんは見たことのない笑顔を浮かべたまま。遠ざかって行った。その姿を、ずっと俺は見送る。ただ立ち尽くして見送る。


ふと、オサムちゃんが何か思いたったかのように、後ろを振り向いて、そして…









「…千歳、千歳!ちとせぇ!!」




「……え?」




「ようやく目ぇ覚めたか。自分、めっちゃうなされとったで?」

「え?え?俺、どぎゃんして?」


目の前には、心配そうな表情を浮かべながらも、どこかほっとしたような顔をしたオサムちゃんがいた。
オサムちゃんはそのまま手を伸ばし、俺の頭を撫でた。その感触は、いつもとちっとも変らない。


「なーにアホなこと言うてんねん。自分が昨日、泊らせろ言うたんやろ?」


よく見てみると、目の前の彼は上半身何も纏っていない状態で。自分の身体を見降ろせば、一糸纏わずにただシーツにくるまっているだけの状態で。その光景だけに、昨夜のことが思い出されてしまって。

一気に顔に熱が集まる。

そんな俺を見てオサムちゃんは、幸せそうに笑った。




「さて、今日はいい天気やさかい。どっか出るか?」

「え、ばってん誰かに見られたりしたら、大変っと?」

「そん時は部活の買い出しに借り出したー言えばいけるやろ。大丈夫だいじょーぶ」


スウェットを身に着けシャワーを浴びてからの遅めの朝食を終えぼんやりしていると。窓から外を眺めたオサムちゃんの一言。それに俺は過剰に反応してしまったが、彼は笑顔を変えずに、楽しそうに言葉を紡ぐ。
その音がとても、心地よくて。


「ん。よかよ。オサムちゃんが行きたかとこ、一緒に行こう」



気が付けば頷いていた。


するとすぐにオサムちゃんはクローゼットを開いて、服の物色を始める。どうせいつもとそんなに変わらない、柄物や色物のシャツばかりが並んでいるというのに。そんな中にも彼のこだわりというものがあるらしく。
嬉しそうにシャツを出しては引っ込めてを繰り返す彼を眺めながら、食器を片付けようと立ちあがった、その時。




「…オサムちゃん、それ…」





色取り取りのシャツやらネクタイやらの中に囲まれた、一枚の真っ白なシャツ。




それは一度も見たことがないもので、だけどどこか、見え覚えのあるものであった。





End.






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