「健坊〜ハッピーバースディ〜Vv」

「これ、俺と小春からや。まぁ、もらってくれや」


そう言い、小春とユウジから差し出されたものは。


「…セロリ?」


青々と葉の茂った、セロリでした。




セロリ




セロリ。
せり科の植物で、オランダミツバや清正人参なんて、呼び名もあるんだって。小春がセロリの束を差し出しながら、笑顔で教えてくれた。

そんなセロリを、幾重にも重ねられた黄色と緑の不織布で包み、根元はベロア地の真っ赤なリボンを巻いて。目が覚めるようなピンクの封筒が葉の間から、見え隠れしている。

彼らの言葉が正しいのなら。これは間違うことなく、俺への誕生日プレゼントであって。


「お、おおきにな」


嬉しいて声も出んのか?とユウジに言われてようやく、絞り出した言葉。それに満足そうに笑って。もう一度大きな声でおめでとうの言葉をくれてから。
肩を組んで自分たちの教室へと戻って行く小春とユウジを見送る俺の頭の中は。ハテナマークでいっぱいだった。



「ほれ、小石川。誕生日おめでとさん」

「ワシと謙也はんからや。受け取って欲しい」


次の休み時間、揃ってやって来た謙也と銀から渡されたのも、やっぱりセロリ。


「いつも頑張っとる小石川君に、オサムちゃんから、ばーすでーぷれぜんとやで!」

「俺からもあっとよ。はい、小石川。いつもありがとう」


昼休みに呼び出された部室。そこで隣同士に並んで飯を食っていた千歳とオサムちゃんから、それぞれ差し出されたのも、やっぱりセロリ。


「小石川せんぱーい。お誕生日、おめでとうっすわ」

「ほい!これ、ワイとひかるからや!」


放課後、部活のことで聞きたいことがあると向かったテニスコート。そこにいたのはラケットじゃなく俺へのプレゼントを持った財前と金ちゃんで。


「また、セロリか…」


そのプレゼントは、やっぱりセロリでした。




「なぁ…なんでセロリなん?俺への嫌がらせか?」


本日五つ目のセロリの花束?に、思わずそう、呟いてしまった。両手に華ならぬ、両手にセロリだ、これじゃあ。


「…どないしたんっすか?小石川先輩…誕生日やないんすか?嬉しないんすか?」


にこにこと笑った金ちゃんが差し出している後輩たちからのセロリ…じゃない、プレゼントを受け取らずに、がっくしと肩を落とした俺を見た財前が、心配でもしてくれたのだろう、俺の顔を覗きこんでくる。
金ちゃんもそんな財前に釣られるように笑顔をひっこめて、セロリを下げると俺の表情を、覗きこんできた。


「あぁ…嬉しいよ。おおきにな…ただ……」


そんな後輩たちを安心させるように、俺なりにだけど優しい笑顔をつくってみせて。まだ俺より小さな二つの頭を、軽く撫でてやる。それから先の言葉は、形にしたらいけない気がして。

ごくりと、唾と一緒に喉の奥へと飲み込んでしまった。


だが、目の前にいる後輩たちはそんな小さなことでも、見逃してくれなかったようで。


「ただ、なんすか?言うてください」

「せやで!ワイ、けんじろーが元気ないん、いやや!」


頭を撫でている手を払い除けることはせず、そのままの体勢で。大きな目だけをこちらに、向けて来る。
その目は絶対に逃がしはしないぞって、言っているようで。どうして教えてくれないんだって、拗ねているようにも見えて。



「…しゃーないな。ホンマのこと言うわ」



その目に負けた俺がそう言うと、財前と金ちゃんは互いの顔を見合わせてから、笑った。











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