※1年後設定でお願いします。





これが僕からのプレゼント。
僕から君への、一番の贈り物。



Run Around



何となくやけど、気付いとった。自分が光の重荷になっとることに。
せやけど年下ってことを、周りよりも幼いってことを、盾にして。気付かないフリをしとっただけ。
光の苦しみを、見えんフリしとっただけ。
やって光がそれを隠そうとするんやもん。何もないみたいに振舞うんやもん。
そんなん、ただの言い訳やって、わかっとるけど。

甘えてた、当たり前だと思ってた。
光が傍にいてくれることは。
光が自分のことを一番に考えてくれることは。
当たり前のことだと、思っていた。

そないなワイ自身が、今はめっちゃムカつく。
あん時もそないな風に思ってんかったら、
光はまだ、傍にいてくれたんかも、しれへんのに。



「…自分、頑張り過ぎちゃうん?もうちょい、俺んこと頼っても、えぇんやで?否、寧ろ頼れや。別に、頼ることは弱いっちゅーことでも、悪いことでも、ないんやし」

全国大会の後。
引退したのにも関わらずに律儀に後輩指導に来ていたあいつの。自然に出た言葉。何気なく発せられたものなのか、それともよっぽど光が参っているように見えたのか、光のためを想って言った言葉なのかは、分からないけれども。
それをごく自然に、当たり前のことのように言ってしまえることはやはり、あいつの方が年上だったからなのだろうか。それとも只単に、自分が幼すぎたからなのだろうか。

なんであん時、ワイのことも頼ってって、言えんかったんやろ。
あん時、光ん顔がすっと明るくなったんを。光が纏っとる空気がふっと軽くなったんを。
ワイは間近で、見てたんに。感じてたんに。



それからどんどんと、光の気持ちが自分から離れていくことが、わかった。一番傍で見ていたからこそ、どんなに上手に隠そうとしても、わかってしまった。

どれだけ強く抱きしめても。どれだけ気持ちを伝えても。どれだけ激しく求めても。
もう彼の気持ちがこちらに向いていないことは。
彼を助けてくれる、彼を守ってくれる人の方へと向かっていっていることは。あいつに、自分じゃない人間に奪われてしまったことは。
止められなかった。変えられなかった。


なぁ、ワイは何か、光にしてやること、出来たんかな。
ただワガママ言うて、困らせとっただけやったんかな。
こんなこと言うたら、怒られるかもしれへんけど。
何だかんだ言うて、最後にはしゃーないなって、困ったように笑う光んことが、めっちゃ好きやねん。そんな風にワイのこと、受け入れてくれとった光が、好きやねん。




「知っとるで、光」


卒業して四か月が経った今でも暇を見つけては自分達の様子を見に来るあいつに、思わずぶつけてしまった言葉。自分の方がお前よりも光のことが好きだと言うはずだったのに。それなのに目の前に座るこいつはただ、ワイを静かに諭すように、言葉を紡ぐ。ただ感情のままに言葉を投げつけた、自分とは違って。

「知っとったから光、そんままでいよう思うたんやって。金ちゃんに嫌われんように、金ちゃんが嫌な思いせんようにて、頑張っとったんやで」

何でワイにじゃなく、こいつにそないこと、言うてるん?一瞬怒りに似た疑問が湧き上がった。

けど、だけど。それ以上にただ、そこまで彼を追い詰めてしまっていた自分が、そこまで彼に押し付けてしまっていた自分が、そしてそれを当り前だと思ってしまっていた自分が、


情けなかった。


そんまま倒れるように膝をついたワイに、あいつは手を差し伸べる。
それが何を意味するかなん、ワイにだってわかった。その手を取ってしまうことが何を意味するかなん、ワイにだってわかった。


選手交代や。後は任せとき。


静かに、そして穏やかにワイを見降ろす目は、そう言っとった。

その手をワイは、払い除けることしか、出来んかった。
最後くらい、自分でケリつけなあかんて。
最後くらい、光んこと考えなあかんて。
やってワイは光んこと、好きやから。大好きやから。


そう思うてワイは、部室を飛び出した。



「ひかるー!」
「っと、何やねん急に…」
「別にーひっつきたかっただけや!」

一人コートに残り備品の確認をしていた光の背中に、思いきり飛びつく。昔はもっと怒鳴られていたはずなんに、いつからか光は、ワイのそういった行動に一々、声を立てなくなっていた。

なぁ、それはワイのため?ワイが怒鳴られる度に、嫌そうな顔、しとったせい?

「全く…しゃーないな、金太郎は」

そう言って見せてくれた笑顔は、ワイがいっちゃん好きな顔やったはずなんに。
夕日を浴びとるせいか、いつもより儚く見えて。そしてどっか、疲れとるようにも、悲しんどるようにも、見えて。


「…光、今日までおおきにな」


そんな顔を見ないように、彼の背中に顔を埋めて話す。
何のことだと振り向こうとする光の肩を掴み、そのままの姿勢を保つ。今その顔を見てしまったら、決心が鈍ってしまいそうだから。


「やって今日、光の誕生日やん」


ずっと悩んでいた。何をあげようかと。光が一番喜んでくれるものは何かと。
ずっとずっと、悩んでいた。
答えなんて、とっくに見つかっていたのに。


「やから、今までおおきに…ばいばい」


大好きな君に、自由をあげる。


いつの間にか自分よりも小さくなってしまった、その身体を突き飛ばすように遠ざけると、振り返らずに走り出す。
途中、部室からこちらに…光の方へと向かって走って来たあいつとすれ違ったけど。
これは選手交代なんかやない。交代なんかやないって、必死に自分に言い聞かせる。

部室に飛び込む前、元来た方を一瞬振り返った。光の横にはあいつが立っとったけど、せやけど光は真っ直ぐに、ワイの方を見とって。

最後に合った光ん目は、
もっとお前んこと、頼りたかったって。
もっとお前に俺んこと、分かって欲しかったって。
言っとった。


そんな声にならない光の本音に耐えられんようになって、
思いきり部室のドアを、閉めた。



好きになったことも、自分からばいばいって言うたことも、後悔しとらん。こないな風に終わってしもうたことも、悔やんだりせん。
せやけどもし、もし光が許してくれるんやったら。また隣に立って、一緒に笑ってもえぇ?
今度はちゃんと、光の心からの笑顔を、見たいねん。

もう一度ちゃんと、ホンマに笑うとるところ、見たいねん。




あぁ、そう言えばおめでとうって、言えへんかったって。
思い出したんは家帰る途中。
いつもは二人で帰っていた道を、一人で歩いている途中だった。


隣へと手を伸ばしても、掴める腕はない。一歩左に寄っても、ぶつかる身体はない。
一人で帰る道は、とても広くて。広すぎて。



「…誕生日、おめでとう」



小さく呟いた言葉は、誰にも届かない。
届けるべき相手ももう、隣にいない。




End.





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