唐突に、だが確実に。
変化は、訪れる。




Celebrate




どうやら渡邊先生が、お見合いをするらしい。


そんな噂が流れて数週間後。
彼は本当に、教頭の知り合いだかのお嬢さんと、お見合いをして。
その数カ月後には、そのお嬢さんと二人でジュエリーショップにいる所を生徒に目撃され。
次の日の職員室には、教頭に結婚式の仲人を頼むその人の姿が、あった。

あっと言う間の、出来事だった。
自分の気持ちを自覚するより早く、速く。彼の世界は、変わっていってしまった。

俺を、置いて。
俺なんか、関係ないとでも、言うかのように。


事実、俺のような一生徒が、彼の人生にあれこれ口出し出来ることなどないし。
小春に見せてもらった先生と婚約者のお嬢さん(式は3月に挙げるらしい、元テニス部の面々も呼んでくれるとのことだ)の写真。
幸せそうに微笑み合う、理想のカップルが、そこにはいた。

こっそりと頭の中だけで、先生の隣に立つ小柄な女性を、自分の姿に置き換えてみたりして。
それがあまりにも滑稽で、そしてあまりにも、似つかわしくなくて。


幸せなんて言葉、そこには全く当てはまらなくて。


きっと彼女の小さな身体は、先生の広い胸に、すっぽりと包まれてしまうのだろう。
きっと彼女の小さい手は、先生の大きな手に、ぎゅっと、握りしめられてしまうのだろう。

俺には、絶対に出来ないこと。
俺では、絶対に出来ないこと。
俺が欲しいと、望んだもの。
俺が欲しいと、望みたかったもの。


それを彼女は、全て手に入れてしまうのだ。
それを彼女が、全て手に入れてしまうのだ。


「…自覚した途端に、失恋確定っていうんも、滑稽ったいね」


届けられた招待状。
真っ白な封筒、綺麗な飾り文字、並ぶ二つの名前。


皮肉にもそれを受け取ったのは、俺の誕生日。
忘年会と称してテニス部の面々が、集まったその日。

先生と出会って、先生に恋した、一年が終わる日。



こんなもん、いらんよ。
いらんから、お願い。
せめてこん想いば、捨てさせんで。


まだ忘れられなか。
やけん、まだ先生への想いば、断ち切らせんで。


好きになってくださいなんて、言えない。
幸せそうに微笑む先生にそんなこと、言えるほど俺は、子どもじゃない。


もし、もし、ここで先生に好いとぉよって、伝えられたら、
ちょっとは状況が、変わったの、かな。



三月。
真っ白なタキシードに身を包み。
同じ色のドレスを纏う女性をエスコートするその姿は。

本当に、幸せそうだった。


膨らみきった俺の想いは、そのままぼとりと、落ちてしまう。
痛くなるほどまで、ずっと抱えていた想いが、落ちた瞬間。


一緒に涙が、零れ落ちた。



はらはらと涙を流す俺に先生は。
そんな喜んでくれて、おおきになって、


俺が大好きな笑顔で、言った。




そんなんじゃなか、そんなんじゃなかよ。
俺は先生の幸せなん、願ってなか。
俺抜きで幸せになることなん、願ってなか。


そんな言葉すら、俺は伝えられることなく。
いつの間にか涙を流していた(きっと彼のそれは、本当に嬉し涙なのだろうけれど)先生と。


一緒に、泣いた。



三月。

先生に出会って、丁度一年が経った。



そんな晴れた春の日の、出来事。





End.





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