答えは答えでしかないの。その答えを理解すること、それが大事なの。 理解したときにこそ本当に、その答えがもつ意味が、わかるから。 どうしてその答えを導き出すことができたんか、わかるから。 ねぇ、だからちゃんと考えて。 あなたがせなアカンことを。その答えを。 そしてちゃんと、考えて。実行して。 その意味にちゃんと、気付けるように。 16 Stop at nothing 「金太郎はん!どないしたん、そない世界の終わりみたいな顔して!」 学校からどうやって、そこに辿り着いたんかなん、覚えとらん。やけど一年近く通うとった道を間違えることもなく、気付けばワイは、小春が待っとる部屋へと、戻って来とった。 ワイの顔を見るなり、小春が悲鳴みたいな声を上げる。それに呼び寄せられるように、奥に居ったユウジも出て来て。 「…なんや?ヒカル君と、何かあったんか?」 ワイの頭に手を置くと、いつもは絶対せんようなゆっくりとした暖かい口調で、尋ねてきた。 その言葉に、その暖かさに。どっかで張り詰めとったワイの全ては、流れ出て。 「…ひかるが、ワイのこと忘れてまうんや…また、ワイのこと全部ぜんぶ、忘れてまうんやぁ!」 叫ぶとユウジを押し飛ばして、与えられとる部屋へと掛け込んだ。 また、光はワイのことを、忘れてまう。ワイのことを好きやと言うてくれた光が、居らんようになってまう。ワイのことを受け入れてくれた光が、消えてまう。 そう考えると、吐き気がした。 もう、頭ん中はごちゃごちゃで。 ただ、気持ち悪かった。 「…金太郎はん?開けるわよ」 それからどんくらい時間が経ったんやろ。ものすごく長かった気もするし、ほんの数分やった気もする。 控えめなノック音の後、ワイの返事も待たんと、ドアが開けられる。そっから明かりが差し込んで来て、その明かりがあんまりにも暖かい色をしとって。 また、気持ち悪くなった。 「…なぁ、ヒカル君が金太郎はんのこと忘れてまうて…一体、どうしたん?」 部屋の中には入って来んで、開けられたドアから明かりと一緒に、小春の声だけが聞こえて来る。 顔を見んでおってくれることが、ありがたかった。やって今、どないな顔しとるんか、わからんかったから。 そのまま、部屋の外でずっと、ワイの言葉を待ってくれとる小春と、一緒に居るんやろうユウジに、ワイは屋上であったことを、告げた。 声は擦れとって、話は的を射とらんで支離滅裂で、認めたない事実に途中、何度もワイの声は詰まってしもうたけど。それでも2人はずっと、聞いとってくれた。ワイの話を、ワイと光にあったことを、聞いて、くれた。 「…ひかる、ワイのことを好きやって言うてくれたんや…なんに、これ以上好きにならんようにて、ワイのこと忘れるて…!ワイ、ワイは!ワイはこないひかるんことが好きなんに!それなんに…」 一気に捲し立てたせいか、段々と息が苦しくなる。また気持ち悪くなってくる。 それと同時に段々と、光に対する疑問が湧いてきた。何で?何で?ワイのこと忘れてまう必要なん、どこにあるんや?ワイと一緒に居ったらアカンの?ワイが光のこと好きやっていうことも、信じてくれとらんかったの? 何で?何で?何で? 言葉は止め処なく、溢れていった。ホンマ、ちゃんと形になん、なっとらんのかもしれんけど。やけどワイは、それを発することを止めんかった。今止めてもうたら、壊れてまう気がしたから。 何分くらい、喋り続けたやろ。 何分くらい、叫び続けたやろ。 頭ん中にあったモンも、心ん中でつかえとったモンも、全部、吐き出した。もう出てくるんは、必死に呼吸を整えようとする、荒い息遣いだけ。 「…なぁ金太郎はん。金太郎はんは今、何がしたいん?」 ずっと黙っとった小春が、静かに言葉を紡ぐ。 ワイが、したいこと?したいことって、何や。ワイは、何がしたいんや? 頭ん中が、ぐるぐる回る、廻る。やけど出てくる顔は、一つだけ。 「金太郎はんは今、何がしたいん?どこにいたいん?」 そんなん、決まっとるやないか。 「……ひかるのそばに、いたい……ひかるとの思い出、なかったことになんしたない!ずっとひかるのそばに、いたいんや!」 せや。 ワイは光の傍に居りたい。 光と一緒に、居りたいんや。 せやんに何でワイは、こんなところで蹲っとる?こんなところで止まっとる? 何でワイは、こんなところに居るんや?ワイが行かなアカン場所は、一か所だけやろ? 「ならもう、せなアカンことは、わかっとるはずでしょ?」 ドアが開け放たれる。一気に光が差し込んでくる。真っ暗だった部屋はその光によって照らされ、道が開かれたように、明るくなる。 そこに、ひかるが居った気がした。 なんや、簡単なことや。光が手を離してしもうたんやったら、もう一遍、繋げばえぇ。一遍やったことやないか。一遍できたことやないか。 それをワイは、何で恐れとるんや? 「行ってこい、金太郎!ダメやったらもう一遍、はじめればえぇ。えらいことがあったら、俺らが居る。忘れんな、金太郎。お前は、一人やない!俺と小春が、ついとるんやからな!」 せや。もう一遍、はじめればえぇだけや。 今までのワイと光の様な関係や、のうなってまうかもしれん。それでも。 「ワイが欲しいんは、ひかるや…ワイのこと好いとってくれんでもえぇ。ワイのこと忘れてしもうとってもえぇ。ひかるが居れば、それでえぇんや…!」 小春とユウジの言葉に押されるように、ワイは玄関から飛び出した。 街ん中はすっかり暗うなってしもたけど、やけどワイは、走り続けた。 そん中に必ず、答えがあると信じて。 → |