「土方さんが爆発に巻き込まれて行方不明になりました!!」 山崎からそう連絡が入ったのは、丁度3時間程前だった。 その日江戸を離れて任務にあたっていた沖田は、電話で山崎の切羽詰まった声を聴いた瞬間、本当に心臓が止まったかと思った。 「てめぇら、悪ィけど後は頼んだぜ」 無理矢理に大方の用を片付け、後の処理は部下へと任せて一目散に江戸へと向かった。 因みに任務地から離れる際、お供します言った隊士達の言葉はさり気無くかわした。 それは副長の安否が不明という事態が外に漏れてはまずいからである。 万が一を考え他言はせず、屯所から急用で呼ばれたとの用件だけしか話さなかった。 何より沖田が土方を心配し血相を変えて行動を起こすなどという、周りから見たら非日常的なことを訝しがられるわけにはいかないのだ。 土方が望む沖田でいるには、今までと違う反応をして周りに何かしらを感付かれるようなことがあってはよろしくない。 彼とはあくまで犬猿の仲であると貫き通さねばらなかった。 (ほんっとに危なっかしいお人だ。マジで死んじまったら後追いして呪ってやらァ) 強ち冗談でもない悪態を心の内で吐きながら、沖田は最短のルートを使って爆破があったという場所を目指した。 部下たちの前での顔は平然を装っていた沖田だが、実際は心臓が口から飛び出そうだった。 ……惚れた相手の安否。 気にならないわけがなかった。 心配でたまらない。 そしてふと、多分今までならこんな風にはならないだろうなと他人ごとのように考えた。 想いを自覚するというのは、なかなかに厄介なものだったのだと改めて思う。 どうやら土方は巡回中に、小規模テロなるものに巻き込まれたらしい。 爆弾を仕掛けたとの声明があったのは、爆発の数分前。 丁度声明があった建物付近の巡回にあたっていた土方は、その知らせを聞くなり、自らの命を顧みず予告のあった建物内に残された者達の誘導にあたっていたそうだ。 彼の的確な指示で市民は皆無事だったらしい。 彼はと言えば、爆薬物の位置を割り出すべく処理班と建物内に残っていたとのこと。 その内にタイムオーバーになり爆破に巻き込まれたというわけだ。 そしてまぁ結論だけいうと、土方は生きていた。 行方不明になったと言いつつ、懸命な捜索ですぐに発見されたのだそうで。 どうやら危険な状態ながら息もあるらしい。 屯所に向かっている間に山崎からその連絡を受けた沖田は、安心したと同時に襲ってきた極度の疲労感に苦笑するしかなかった。 どれだけ神経を擦り減らしながら焦りまくっていたのだろうか。 らしくもない。 尤もそれだけ彼に惚れ込んでいるといえばそれまでなのだろう。 本当にあの野郎は、どこまで此方の純情を引っ掻き回してくれるんだか。 内心彼への入れ込みようにため息を吐きつつも、漸く得られた吉報に取り敢えずは歓喜した。 とはいえ完全に気を抜くことができたわけでもない。 いくら土方生存の報告を受けたとはいえ、所詮それは機械越しに伝えられる他人からの情報。 やはり自分の目で生きている彼を見なくては、絶対的な安堵にまでは至らないのが実際だった。 沖田は焦れる心を落ち着かせ、山崎に告げられた病院へと進路を変更した。 「へぇ、なるほどねィ」 移動中に打つ相槌の相手も山崎だ。 携帯から流れてくる様々な彼の情報、その内容は全て土方云々の話だった。 例えば結構な爆発だったにも拘わらず、幸いどこか体の部位が吹っ飛んでいるというような事態は免れたらしいことだとか。 それでも出血や外傷は酷いもので相当重症らしいことだとか。 なんだかどれも辛うじてどうこう、といった内容ばかりで、決していい情報とは言えなかった。 (まさか生きてたなんてフェイント掛けといて、ぽっくり逝っちまうんじゃないでしょうねぃ) そんな悪態を心の内で吐いてみても、事の次第を聞いている自分の手はふるふると震えていた。 ただただ、胸が潰れそうなほど心配だった。 「山崎ィ!」 「あ、沖田さん!」 沖田が病院に駆け付け山崎と合流した時には、包帯に巻かれ無数の管を体中から伸ばす土方がベッドで横になっていた。 先程まで集中治療室に入っていたのだと、山崎が説明し出した。 そしてどうやら一命は取り留めたが、意識が戻らないとのことも聞いた。 あぁ、生きていた。 もう意識なんて今は二の次である。 目の前にその姿がきちんとあることに、沖田はあまりの安心を感じて倒れ込んだ。 よかったと。 素直にそう思った。 膝から落ちた沖田に山崎は慌てていたが、疲れてるだけだと誤魔化すしかなかった。 誘拐されてみたり疲労で風邪を引いてぶっ倒れそうになってみたり、挙句は意識不明で生死を彷徨い出す。 本当にどこまで心配をかければ気が済むのだろうか。 全く困った上司である。 しかも彼が三途の川を渡り掛けるのはよくある話というのだから怖い。 土方に彼女や奥さんの類がいたのなら、心労で死んでしまうのではないだろうかと思う。 ただ過去の彼はその度にきちんと目を覚まし、三日後には周囲の反対を押し切って仕事に復帰したりする。 だから今回もそこまで大袈裟になる必要はなかった。 彼ならきっと生きてくれるという漠然とした確信が、沖田の中にはどっしりと居座ってもいる。 それでも心配でたまらない。 第一最初訊いたときは、爆破にあって行方不明という事態だった。 そんなの心配しない方がおかしい。 「ホント、無茶ばっかしやがって」 横たわる彼を、窓越しに見つめる。 もっと近くで見たいけれど、残念ながらそれは叶わない。 幕府の手が掛かったこの病院において、一般の病人は立ち入ることを許されない隔離された病室区域が存在しており、現在土方はそこで安静にしている状態だ。 ……立派な病室である。 真選組は幕府内でも毛嫌いされているが、その容姿と頭脳を高く評価する上の一部から気に入られている土方なので、無駄にいい設備が整う病室に移された次第である。 大き目の窓の存在によってその姿を確認することはできるものの、容態が容態なだけにまだ中に入り接触することは許されていなかった。 この距離感がもどかしい。 愛しい彼を、今すぐにでも抱きしめたいのに。 好きだと自覚してから、ひどく土方を大事だと思うようになっていた。 美しい、と頻繁に感じるようにも。 「土方さん……」 痛々しいけれど、眠る姿はどうやっても綺麗だ。 まるで人形のような美しさで、そのまま一生目を覚まさないんじゃないかと思うほどの儚さを感じる。 不意にそうしたらずっとこの手の内で愛でてあげるのにな、なんて幾分トチ狂ったことを考えたりもしたが、それはそれで困るものだと思い直す。 沖田と対等に喧嘩できるのも笑い合えるのも、彼しかできないこと。 彼がいて初めて、沖田は自分の存在を愛せる。 彼が構ってくれる自分には居場所があるのだと、彼が信頼してくれるこの自分にはきちんと価値があるのだと、そう思えるのである。 だからしっかり生きて貰わなくてはいけない。 「早いとこいつもの馬鹿面見せろよ土方さん」 沖田は結局その日、屯所に戻ることはなかった。 ::::::: 彼は一週間経った今も、目を覚まさなかった。 現在近藤は大忙しだ。 土方が肩代わりしてくれていた書類の処理に追われながら、同じく土方が出していた指示も全てこなさなくてはならなかった。 今までだって長期で土方がいなくなる時は、事前に近藤に細かな指示が飛んでいたから、急に土方がいなくなった現状はキツいだろう。現に土方でないとわからない案件も数多くある。 不意に以前半年の出張だと言って京に赴いたのはいいものの、結局近藤が泣き縋って一ヶ月足らずで土方が戻ってきたあの時のことが思い出された。 あれは色々と散々過ぎて、笑い話にさえならない。 本当に土方がいないと、この組はダメなのだ。 しかしどういうわけか、現在真選組はその中心人物を欠いたにも拘わらず、殆どの人間が平生通りであった。 何故か、答えは簡単だ。 万が一副長が動ける状態でないという現状が外に漏れることを考慮し、組には土方が長期休暇を取ったと報告しているからである。 苦し紛れの言い訳だったが、いつも碌に休まない土方のため、溜まりに溜まった有給を使い切るまでは屯所に近付けないことにした、と近藤から最もらしい説明があったので、大半の隊士たちは疑問を抱かなかったようだ。 尤もこの件を知っている連中は、仇を取るためにと必死に動いていた。 山崎がいい例だ。 沖田も本来なら土方がいない分、屯所を回してかねばならない立場。 けれど今は、ただ彼の傍にいたいと思った。 常に生死と隣合わせの自分達は、お互いの知らない所で命を落とすかもしれない。 お互いの最期を見届けることなんて、多分できないのだ。 そしてだからこそ、できる範囲でいいから生きている彼の傍にいたかった。 こうして静かな空間で時を共にできる時間だって、今後ないに違いないのだ。 「俺も大概だァ……」 布団を静かに捲り、中から見えた指先を優しくなぞる。 人の目を避けた場所にはなっているが、土方は一応一般の病室に移されていた。 漸く許された面会と久し振りの触れ合いに、沖田は頬を緩ませた。 ゆっくりと、細く白いそれを絡め取る。 それだけでこんなにも愛しいなんて。 「……すき、なんですぜ」 本当に、愛している。 だからこそ声が聴きたいし、いつもの仏頂面が見たいし、それからそれから……。 挙げだせばいくらだって出てくる欲求。人間は強欲だとはよくいったものだ。 最初は生きているだけで嬉しかったが、今はできることなら一刻も早く意識が戻って欲しいと思う。 これが欲張りで我儘だというならそれでいい。 彼が戻ってきてくれるなら、どんなレッテルを貼られたって構わない。 軽口を叩き合う日常が恋しかった。 不意に、例えばこれが逆の立場だったらどうなんだろうと考えた。 無音の中で土方の顔を見つめていると、どうにも色々なことが浮かんでくるもので。 さて沖田が一週間も目を覚まさなかったとしたら、彼はどうするんだろう。 一体どんな風に取り乱してくれる?一体どんな涙を流してくれるんだ。 そこまで考えて、なんだか惨めになった。 どうにもならないような気がして仕方ないのだ。 きっと彼は泣きもしないし、こうして傍にさえいてくれないんだろう。 沖田一人を特別視などするわけもない。 でもきっと時間ができれば面会に来て、沖田が目を覚ますことを祈ってくれるんだと思う。 彼はあまりにも優しいから、例え日頃自分の命を狙っている相手にも情があるに違いない。 ……だったら一生目を覚まさなければ、土方を縛り付けておけるんだろうか。 どんなに短くても、彼が沖田のことを考えてくれる時間が一生涯ある。 それは酷く魅力的だ。 「何考えてんだかねぃ」 自分は少々この男に惚れ込み過ぎているらしい。 沖田はくしゃりと自らの栗色に指を差し入れた。 第一屯所に帰るのも儘ならないまま、こんなところで土方の目覚めを待っている時点で自分らしくない。 山崎なんかには、既に疑問を抱かれていることだろう。 どちらにせよ、そろそろ沖田自身も動き出さねばならない時がきている。 「んじゃまぁ、行ってきますぜふくちょー」 静かに漆黒を撫で、沖田は立ち上がった。 先程山崎から、先日土方が負傷した小規模爆破テロの首謀者を割り出したとの情報が入った。 始末は早ければ早い方がいい。 余計な作戦などこの際いらない。 第一これは、ちょっとした嫉妬心の八つ当たりに行くだけなのだ。 どこぞの反幕府に陶酔した馬鹿が土方の時間を一週間にも渡って占拠するなど、妬ける話だから。 「待っててね」 ちょっとだけ、頑張ってくるとします。 :::::::::::: 「近藤さん、ポンコツ土方は相も変わらず目ェ覚ましませんぜ」 「そうか……」 屯所に戻って土方の近況を伝える沖田は、酷く楽しげに笑っていた。 いっそ不自然なほどに、にっこりと。 「まぁ久し振りにちっと暴れやす」 「ほどほどにな」 「へぇ」 頷いた沖田は、準備してきまさぁと自室へ向かっていった。 それを見ていた山崎は首を傾げる。 「今回の件、隊長は副長を相当心配してたように見えたんですが……気のせいでしたかね……」 「なんでそう思うんだ」 「いやぁ、今の様子見てると、そんなに思いつめた感じでもなかったので……」 「はは、違うぞザキ」 「え」 近藤がやけに真剣な顔で、沖田が消えて行った先を見つめていた。 沖田が訳もなく笑い、上機嫌な時。 決まって彼の中で大きな何かが膨らんでいるのだ。 「総悟のあの目は……本気の目だ」 ::::::::::::: それからまた数日が過ぎた。 このままこの男は目を覚まさないんじゃないかと、周りはいよいよ弱気になっていた。 沖田だけがただ「いつか目ェ覚ましやすよ」と近藤らを宥めながら平然とした顔で日常を過ごしている。 けれどそれは、単なる強がりのようなものだった。 彼は帰ってくる、と常に思っていなければ精神的にやられてしまいそうで、沖田は必死に彼を信じていたに過ぎない。 ……目を覚まさない原因を、頭が強く打たれているせいかもしれないと医師は言った。 このまま植物人間になることだってあるし、後遺症で身体が麻痺や不随になることだってあるらしい。もしかしたら記憶を失い、沖田たちのことを忘れてしまっていることだってあり得るのだそうだ。 きちんと意識付きで生きていてくれればそれでいいと思う反面、できれば前と変わらぬ沖田が愛する土方で戻ってきて欲しいとも思う。 18歳の少年には、聊か耐え難い重さの不安だった。 「今日はねぇ、」 「近藤さんときたらさぁ」 「そういや明日って」 それでも毎日毎日通って、土方に話しかけた。 恋人に話すみたいに、優しく優しく語りかけた。 驚くくらい穏やかな時間が流れていった。 今日だって沖田は仕事を終えるなり土方の病室を訪れていた。 さすがにいつまでも屯所をほったらかしにしておくわけにもいかず、沖田も一応は仕事に復帰している。 今日は山崎も共にいた。 「……くぁ」 ベッド横に設置された椅子に腰を下ろしてすぐ、急激な眠気に襲われた。 最近仕事が終わればここに通っているので、碌に寝てもいない。うとうとと、その場で微睡み始まる。 寝たら夢で土方に会えないだろうか、と本人を目の前にしているにも拘らずおかしなことを思った……その時だった。 服の袖を、誰かにくんっと引っ張られた。 はっとして目を見開くと、目の前の布団の中から出た白い手が、やんわりと沖田の服を握っていた。 「ひじ、かたさん……?」 「え、副長……っ!?」 開ききらない目。 それでも確かに彼の意思で動いている、手。 山崎が凄まじいスピードでナースコールしている間、沖田はただ言葉が出ない。 そして自分の瞳から意図せず毀れた一筋のそれを自覚するなり、また呆然とした。 ::::::::::: 担当医達が集まる。 山崎の連絡によって、土方のベッドは近藤達に囲まれた。 「心配かけたみてぇ、だな……こんどーさん」 「いいんだトシ!!よかった!!俺、あのまんまだったらどーすっかと……ッ」 「はは、相変わらずおおげさ、だな」 土方の意識は回復し、掠れつつもすぐに言葉を発することができるようになった。 「あれ……隊長?」 そこでふと気付いたのは、山崎だった。 土方の意識が戻ったことに気を取られていて、その存在を忘れていた。 「……たいちょ、て……そうごか?」 「えぇ、さっきまでそこにいたはずなんですけど……」 突然いなくなった沖田に、山崎は首を傾げていた。 ::::::::: 土方の病室から程近い、待合室。 夜ということもあり閑散としているそこに、一人の少年の姿があった。 (アンタが生きてるくれぇで泣くなんて……俺もそろそろやべぇなァ) くくくっと笑う口元とは対照的に、目からは止めどない透明が流れていった。 こんな格好悪いところ、彼には見せられない。 「よかった……ッ」 馬鹿みたいに、嬉しい、なんて。 大概末期らしい。 :::::::: 医者によると、奇跡的な生還だという。 それを聞いたとき、その奇跡を起こしたのは間違いなくこの愛故だろうなと、沖田は内心で恥ずかしいにも程があることを思い、勝手に一人でダメージを受けていた。 どこの厨二だ。 「おう、総悟」 横たわる土方の意識ははっきりしていて、声量も出るようになってきたようだ。 心配された後遺症もないらしい。 屯所の連中が一先ず去った頃、沖田は腫れぼったい目に舌打ちしつつも、土方の病室を訪れていた。 沖田が入った時、土方は上半身を起こして窓の外をぼんやり眺めていた。 「おれ、けっこう眠っちまってたらしいな」 「えぇまぁ……。10日ほど」 「そんなにか。屯所の連中には迷惑掛けちまったな」 「んなことはいいんですよ。今はとにかく自分の身ィ案じてくだせぇ」 「……おう」 彼とこうして普通に会話できることがこんなにも大事な時間なのだと、改めて自覚した。 沖田は定位置となっているベッド横の椅子に腰を下ろした。 「アンタの生命力は半端ねぇなぁ」 「うるせ。……そのよ、サンキューな」 「は?」 「今回の件の奴ら、お前が始末してくれたんだろ」 「……まぁ、一応ねぇ。アンタのためっつか、成敗が俺らの仕事ですからね」 「おう」 沖田が動いたことを、誰が言ったのだろう。 大方近藤あたりか。できればその事実は土方に知って欲しくなかった。 土方に有難うと言われることなど、自分は何もしてはいない。 全ては自己満足の範疇なのだ。それにあれは山崎の情報が的確だったからこその成功だ。 彼のお蔭で沖田はあっという間に敵陣を一掃することができた。 皆必死に彼のために動いていたのだ。 ただ沖田が一つ皆と違うのは、彼の仇を取ろうと思っていたわけではないということだろう。 ただ、個人的に許せなかった。 それだけだ。 「は……今回ばかりは死んだと思ったぜ」 「アンタが言うな。近藤さんらの寿命がどんだけ縮まったと思ってんでぃ。少しは自分の命大切にしなせぇ」 ククッと笑う土方を、沖田は小さく咎めた。 土方は自分の命に重きを置いていない。 近藤や仲間のためならば自分など二の次だ。 でも周囲はそんな土方の命が大事で大事で仕方ない。 今回の件でも、近藤は泣いてばかりいた。 「すまねぇ。自分が命落としたら近藤さんのことだって守れねぇってのは分かってんだ。でもあんまり自分の生に執着が持てねぇんだよ」 どこか切なげな彼に、沖田は小さく苦笑した。 ……わかっていたことだ。 どうやってもこれが彼なのだ。 誰よりも無茶する馬鹿野郎。 今更変えられるわけもない。 だったら彼の命は、この自分が生かしてやればいいのではないか。 一番守りたい近藤の命を彼が守ってくれるのならば、その彼は自分が守ってやるのだ。 「名案だァ」 「あ?」 「いいえ。まぁとにかく、無事でよかったでさ」 「あ?お前からそんな言葉が出るなんて……」 「っ―――――」 あぁ、駄目だった。 我慢していたけれど、どうも耐えられなかったらしい。 「総悟……」 もう出ないだろうってくらい絞り出してきたはずなのに、情けない。 元気に話す彼を見ていたら、もう限界だった。 今までどれだけ不安で押し潰されそうだったか、そんなの沖田本人もわからないくらいで。 「……っく、ぅ」 「…………大丈夫だよ総悟。俺は生きてる……」 土方の手が伸びてきて、沖田の髪を撫でる。 自分の体がぼろぼろなくせして、沖田を慰めるその手。 どこまでも優しくて、愛しい、人。 何も言わなくたって、全部察してくれる。 「はは……お前みてーな手の掛かる部下がいるんじゃ、そう簡単には死ねねぇなぁ……」 「……ったりめーだ。アンタの命は俺のもんだからね。俺が、殺すんだ……」 「言ってろ」 土方がやんわりと沖田の手先を掬い取った。 その壊れ物に触れる様な、大事なものに触れる様な手つきに、またぼろりと大粒のそれが毀れた。 「ちくしょ……アンタなんか、死ねばよかったんでぃ」 「クク……ひでぇな」 あぁ、馬鹿みたい。 こんな幼稚なやり取りに安心してるなんて。 アンタが生きてることが、こんなにも嬉しいなんて。 でもこの感情って、幸せっていうんだよね。 |