「ケケケ!情けねぇったらありゃしねぇ」
「うるせぇほっとけ!!」

地下室に閉じ込められた昨日。
山崎によって日が落ちる前には救出された。
救済組はすぐに来たのだが、外からロックを解くのに思ったより手古摺り、案外脱出に手間取った。
最初入るのは簡単だったのに、なかなか厄介な装置をつけてくれていたらしい。
因みに土方の作戦と隊士達の頑張りで、今回の捕縛任務自体は無事に成功を収めていたし、アジトも無事に幕府の手で処理された。
だが寒い地下室に閉じ込められた土方は、見事に風邪を引くハメとなった。
後半上着のなかった沖田はピンピンしているのにも関わらず、だ。

ふらふらしながらも隊服を着込んで職務を遂行しようとする土方を、沖田は副長室に引っ張って行き思い切りはっ倒した。
彼が体調不良なのだということは、その姿を見てすぐにわかった。
彼は割合そういうのを隠すのが上手い人間であったが、今回ばかりは相当重症だったと見えて、モロにその具合の悪さが見て取れた。
睡眠不足な上過度な労働、更には大して取らない食事。
極めつけに先日の極寒とあっては、さすがの土方も持たなくて当たり前だ。
現在副長室に寝かされた土方の額の上には、びちょびちょのタオルが置いてあった。
隣にはニヤけ顔の沖田である。

「もうお前職務に戻れ馬鹿」
「無理でさ。目の前に虐め甲斐のある標的がいるっつーのに、なんで仕事しなきゃなんねーんでぃ」
「おかしいだろそれ!!なんだその言い分!!!っ、げほ、」
「ほらほら、静かにしてなせぇ」

騒いだ途端咳込んだ土方に溜息を着く。
風邪とはいっても今までの疲労も要因になっているのだから、明日からのためにもしっかり休んでもらわなくては困る。

「……別に何もしやせんぜ。今日くれぇゆっくり休みなせぇ」

沖田はタオルを横にある桶にぶっこみ、その額に手を当てた。
この分ではまだ当分熱は下がらないだろう。
取り敢えず無理矢理に何かを食べさせ、薬を胃に溶かしてやらねばならない。

「……落ち着くな」
「は?」

唐突に発せられた一言に、沖田は怪訝な顔をした。

「お前の手、きもちぃな」

続け様にそう言って目を閉じる土方は、どこまでも穏やかな表情をしている。
あまり人前で気を許さない土方が見せる、その素顔。
沖田はカッと自分の頬に熱が走るのを感じた。
こんなちっぽけな手で、安心を感じてくれて。

そんな、無防備にして。

「……喰っちまいますぜ」
「あ?」
「なんでもないです」

思わず出た言葉に、沖田は溜息を吐くしかなかった。
なんだか昨日からおかしい。
土方の言動にいちいち動揺して、有り得ないことを口走ったりしてしまう。
なんだ、喰っちまうって。
そりゃあ確かに熱が故に上気した頬や半開きの唇は色っぽい。これはもう否定しない。
こんなんだから度々面白半分で沖田がついていった接待の席でも、彼は上官の親父たちに気に入られたりしているんだと思う。
男たちに過剰なスキンシップをされて顔を歪めている土方を、沖田は最近のじじぃは物好きだと思いながら割合よく見掛けていた。

(俺ァどうかしちまったのかねィ……)

沖田は土方の額から手を離し、桶に浸していたタオルを絞る。

今なら上官の男たちの気持ちもわかってしまうような気がするから恐ろしい。
変なものでも食べたのか。
愛しさ余って憎さ100倍、とはよくいったもので、もしかしたら憎さ余って愛しさ100倍にでもなったのではないかと思う。

ふと笑顔を向けられる時。
全力で怒鳴って追いかけ回してくれる時。
背中を預けて戦ってくれる時。

過去には気にも留めなかったそれらが、今思い出してみるとどうしてこうも愛しく想えてしまうのだろう。
自分のことながら全く持って理解不能だ。
でも彼を思う度生まれていた苛立つような感情は、もしかしたら根底の感情を押し込めるためのもどかしさだったのかもしれない。
彼を嫌いだと思い込んで勘違いしていただけで、本当は気にかかって仕方なかったの、かも。
でもそんなの認めたくないし、そんなことで悩むのも癪に障る。

「……死んでしまえ」
「は?」
「死ねよ土方ぁ」
「あぁぁ!?」

本当にいっそのこと、目の前からいなくなってくれたらいいのに。
でもそれで一番悲しむのは、きっとこの自分。





あぁ、

なんて矛盾。







なんて、厄介。


















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