V.

 そんな霞凪の動揺をよそに、妖怪は再び襲って来る。反射的に霞凪はくるりと後ろを向き、自らの人生の中でも最速と思われるスピードで、来た道をたどって逃げ出した。

「〜〜〜〜あり得ねえッ!! いやあれは多分ホログラムだ、立体映像だ、いやそれにしてもリアルすぎだってあれ嘘ッッッ!?」

 混乱でおかしな言動になりつつも、ひたすら逃げる。入り口までの距離はそれ程なかったのだが、そちらの方には小学生を待たせてあるので、咄嗟に入り口とは別の方向に逃げ先を変えた。年上として、年下を危険な目に合わせる事はなんとしてでも避けなければならなかった。
 だが、霞凪の事情とはお構い無く、妖怪はスピードが上がって来ている。更に、霞凪は墓石などをよけながら逃げているが、妖怪は障害物も全て破壊しながら突撃しているのだ。
 自然と、霞凪と妖怪の差は狭まりつつあった。

「……っく、ああ、畜生ッ!」

 思わず、霞凪の口から悪態が迸る。駆けていく先に見えたのは――行き止まり。
 高さ二メートル弱の塀、普段ならよじ登る事も不可能ではない。だが、今全力疾走している霞凪の体力は限界に近く、疲弊した体では到底困難だった。
 だが、塀を越えないことには逃げられない。
 意を決して塀に手をかけたその時、
 霞凪の視界が、不意に何も見えない闇へと包まれた。
 ん? 妖怪は? と一瞬不思議に思ったが、すぐに霞凪は何が起こったのかを理解してしまう。

「……ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」


 叫び声は、墓地には響かなかった。

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