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しばらく歩くと、活気盛んな大通りから、閑静な住宅街に出た。その中のある一軒の家の前で、蓮祇は足を止める。
玄関の横の壁面に手を伸ばし、インターホンを鳴らした。……無言。
返って来ない返答に、蓮祇はため息をついた。
「あの野郎……俺に居留守使っても無駄だってのにな……」
「……それ、ご自分に言ってます?」
呆れた顔で見やる霞凪に、蓮祇は不思議そうな顔をする。
……自覚が無いらしかった。
仕方なく、霞凪は別の台詞を選ぶ。
「ここに住んでる人、蓮祇さんのご友人なんですね」
「……なんでおまえが知ってんだ」
──いや、だって。
類は友を呼ぶから、とは、あえて霞凪は言わなかった。
蓮祇はインターホンをピンポンピンポンと連打するが、やはり応答はない。それだけ連続で鳴らして失礼に当たらないのだろうか、と霞凪は一瞬心配したが、先程の蓮祇の口調から察するに気心知れた相手なのだろう、と察し、言葉にする事はなかった。相手が家にいる時間帯まで把握しているという事も鑑みると、おそらく間違ってはいないはずだ。少なくとも、玄関を蹴倒す行為には及ばないだろう。
「しゃーねェな……」
しばらく続けたインターホンの連打を止め、面倒くさそうにそう呟くと、蓮祇は一歩後ろに下がる。おい、やっぱり居留守相手にはドアを蹴破るのがこの世界の常識なのか!? と霞凪はひやっとしたが、蓮祇は足を上げることはなく、代わりに片手をメガホンのように口の横に添え、すっと息を吸った。
「おーい、なーなーしーはー……」
「ぁぁぁぁああああああっっっ!!」
叫び声を伴いながら、ばん! とドアが開いた。中から飛び出して来た人物は、そのままの勢いで蓮祇の胸ぐらを掴み、小声で激しく蓮祇をなじる。
「てめえ公衆の面前でそっち呼ぶなって何度言ったらわかるんだよ!! そんなに俺を破滅させたいってか!?」
「出て来ないおまえが悪いんだろ」
胸ぐらを掴まれながらも平然と言う蓮祇に、相手……蓮祇と同年代くらいの、右目が長い前髪で覆われている白い髪の青年は、蓮祇から手を離してがっくりと肩を落とし、先程の蓮祇よりも更に深いため息をついた。
「そりゃおまえの顔見て、玄関開ける気なんて起こるはずもねーだろ……!?」
「俺の知った事じゃねェな。というか、普段は普通に開けてるだろうが」
「ああ普段はな……だがこの間の仕事で当分おまえに会う気が失せた! いつになったら厄介事持ち込むのやめてくれんだよこの疫病神が!」
やはり、類は友を呼ぶものらしい。
重石でも乗っているかのようにうなだれている、白髪の青年の落胆ぶりを見ながら、霞凪はそう思った。
……ただしその考えは、霞凪自身も疫病神と決定づけてしまうわけだが。
「別に、今回は情報を引き出しに来ただけだ。おまえを使う程の相手でもなさそうだしな」
なんでもないかのように軽く言う蓮祇に、青年は観念したように頷いた。
「……わかったよ、さっさと入れこの野郎。言っとくが、料金はがっつりもらうからな」
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