V.

「近年、この国は……どうも覇気がないでしょう……不況のあおりを受けたり……それで自殺なども増えたり……まあ、原因はいろいろありますが……」
「……ああ、はい」

 やや真面目な顔で、霞凪は首肯した。これは完全な誤魔化しではなく、ある程度は実感のこもったものだ。霞凪の住んでいた国でもそんな様子だった。首相がころころ変わったり、どこかの国との関係が悪化したり、一概にとは言えないもののそういった事柄を思い返すとやはり覇気がない、という言葉には共感してしまう。

「……そういう雰囲気が、やはり市井に現れると……寂しくなりますね……」

 言いながら、女店主がある一点を見て微かに眉をひそめる。つられてそちらを見てみると、そこには数人の少年たちの姿があった。
 こぢんまりとした店、おそらくはコンビニのような店だろうか。その駐車場で、何人かが一人を囲んでいた。仲が良い雰囲気ではない。囲んでいる側の一人が、囲まれている少年を二、三回蹴ると、被害者の少年は弱々しい手つきで何かを差し出した。ひったくるようにそれを取った、囲んでいる方の少年たちは、それをいじくって何かを取りだした。
 ――札だ。何円札かははっきりとは見えなかったが、つまりあれはカツアゲだ。

「――っ」

 動こうとした霞凪を、さっと女店主が手で制する。

「大丈夫ですよ……お店の方が、電話をかけていました……じきに警察が、来るでしょう……」

 そんな、なんの確証もないのに、と霞凪は反論しようとする。だが、どこからか遠いサイレンの音が聞こえてきた。双角に蓮祇の家に行く道中乗せられたから知っている、霞凪の世界と同じ、あの車のサイレンが。
 心残りを感じつつも、その場を去りながら霞凪は呟いた。

「……多いんですか、ああいうの」
「近頃……増えてきましたかね……」

 顔をくもらせて、女店主は軽くため息をつく。そして、その暗い話題を打ち切るかのように、先程の話を再開した。

「まあ、そういった中で……青蔭海璃のパフォーマンスというのは……一種の活気にもなっているわけです……特に、その正体が謎、というのが……人々の想像欲をかきたてる、ようですね……」
「つまりは、みんなを楽しませるために、あえて登録せずに謎の人物のままで居続けている、と……?」
「あくまで、それこそ想像にしか……すぎませんけどね……」
「…………」

 しばらく黙りこんで、霞凪は考えこむ。結局、明確な結論は出せなかったのだが。

「……悪い人じゃなかったら、いいなぁ」

 ぽつりと漏らした霞凪に、女店主は微笑を浮かべた。

「そう、ですね……」

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