].

 と、そこで蓮祇が「──それはともかく」と話を元に戻した。

「こっちでの逗留先をどうするかっつー話だろ。孤児院って手もあるが、いつ元の世界に戻るかもわからんなら、うっかり引き取られれば面倒な事にもなりかねんしな」
「異世界から来たって言っても信じてもらえるかわからないし、幻術師のお墨付きって事で信じてもらえても、異端扱いされたり見世物みたくなってしまったら可哀想だしね。隠し通すにしても、ふとした拍子でボロが出かねないし」
「それはほんとに思います……」

 ただでさえ、知らなかったとはいえここで散々ボロを出しているのだ。どこまでが常識でどこまでがそうでないか、一朝一夕に区別がつくものではないだろうし、そうするとやはり、異世界人ということを隠すのは困難だろう。

「……となると、条件はかなり限られてくるな。異世界人なのを、少なくとも逗留先では隠さずにいられること。その上でそれを疑わず、面白半分に扱わず、なおかつこの世界のことを教えてやれること。……なかなかあてが見つかりそうにないな」

 淡々と述べる蓮祇に、「……やっぱりそうですかね」と霞凪はため息をつく。だが、双角だけは違った。

「一つ、あてがないことはないわ」
「……ほ、ほんとですかっ!?」

 がばりと顔を上げてくいついた霞凪に、ええ、と双角は頷く。そして、つい、と下を指差した。

「ここ」
「……………は?」

 数秒置いて、蓮祇が訝しげな声を上げる。だが、双角はこともなげに言葉を続けた。

「異世界人って判断した当人なら、当然信じないなんてことはないしね。面白半分に扱う人間じゃないのは私が保障するわ。あと、男一人住まいだけどロリコンってことはないし、気軽に女の子に手出しするような奴じゃないのも安心してくれていいわよ。まあ万が一があれば、私が直接殺しに来るからいつでも言ってね」
「は……はい……」

 立て板に水な双角の弁論に思わず頷いてしまった霞凪だが、本当にいいのかこれで、と内心で冷や汗が流れる。勿論、いいはずがなかった。

「あのな、俺の了承はなしか? ここは俺の家だぞ」

 不満もあらわに蓮祇が双角に抗議する。だが、双角はあっさりと一蹴した。

「あんたの了承とか知らないわよ。それともなに? 他にいい案でもあるの?」
「……一応世間体ってもんを考えろ。おまえが保障しようが、周りはそう思っちゃくれねェぞ」
「親戚ってことにでもしたらいいじゃない。だいたいあんたがいつまでも独り身だからそんなことになるのよ」

 双角の反駁に、僅かにだが蓮祇が鼻白む。そのまま、部屋に沈黙が下りた。
 ――やべ、どうしよ。なんか気まずい雰囲気なんだけど。
 霞凪は落ち着かない気分で、蓮祇と双角をそれぞれ窺い見るが、どちらかが話を再開させるような素振りはない。
 なにかこの空気の打開策はないのか、と考え、考えた結果、思わず霞凪はこんなことを口走っていた。

「あ、あの……良ければこのまま男の振りしてても大丈夫ですけど……」

 二人の視線が集中し、しどろもどろになりながらも霞凪はなんとか続ける。

「えっと、ですね……まあ、男だったら別に蓮祇さんが変な噂とか立てられることもないですし、どうせ戸籍もないんで、言うだけならタダですし……あの、服もこの着てる一着だけですし、元いた世界ではズボンとか普通だったんで……性格も、男寄りな自信はありますし……ハイ……」

 だんだんと言葉が尻すぼみになっていく。だめかなー、と心が折れそうになって来た時、ようやく双角が口を開いた。

「……ここまで気を使わせといて、まだ無理とかなんとか言うための言い訳考えてんじゃないでしょうね」

 双角に睨まれ、蓮祇も渋々といったように答える。

「あてがないか、考えてただけだ。……だが、まあ実際、他を当たれそうにもねェし、見つかるまではここに置いといてもいい」
「ほ、本当ですか……っ!? ありがとうございます!!」
「……どうせ断ったところでうるさいだけだしな……」

 顔を輝かせる霞凪とは対照的に、蓮祇の表情には疲労感が濃く滲んでいる。そんな蓮祇には申し訳ないのだが、霞凪はひとまずの逗留先が決まったことに大きく安堵していた。顔を合わせてから半日にも満たないが、双角と蓮祇は霞凪にとって『信用できる人』に分類されていた。これからまた、全く知らない人間のもとに行かされるよりは、ずっと安心できる。

「決まったわね。二階に空き部屋あったでしょ、そこを掃除して使うといいわ」
「だからなんでおまえが部屋まで決めてんだ」

 蓮祇の声を意に介する様子もなく、双角はソファから立ち上がった。そして、霞凪をじっと見つめる。

「それじゃ、私はそろそろ署に戻るけど。……大丈夫?」

 何が、とは言わない。だが、霞凪も訊き返すことなく、しっかり頷いた。

「はい。大丈夫です」
「そう。ならいいわ。相談とかあれば、気軽にしてね。――蓮祇、後は任せたわよ」
「任せたというより押し付けただろ」

 この蓮祇の皮肉も、完全に黙殺される。じゃあね、と霞凪に軽く手を振って、立てかけられただけのドアから双角は出て行った。
 ――部屋にまた、沈黙が流れる。

「……あの、蓮祇さん」

 おそるおそる、霞凪は蓮祇に声をかける。双角がいる手前、強引に決まってしまったのだが、二人きりになってしまうとどうにもやはり、ここにいていいのだろうか、という居心地の悪さが拭えない。
 霞凪を見やることなく、蓮祇はぼそりと呟く。

「……一応最低限のことはしてやる。あとは自分で自分の面倒を見ろ」
「……はい!」

 思わず満面の笑みになり、霞凪は立ち上がって一礼した。

「これから、よろしくお願いします!」
 

[ 10/26 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -