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「探偵……な。遠くはないが近くもない。俺はフリーの幻術師だ」

 それだけ言うと蓮祇は、説明は終わったというように口を閉じた。双角からも何の注釈もない。
 ――げんじゅつ、し?
 ファンタジーで聞いた事のない単語だが、まさか本気で言っているのだろうか。
 そんな疑問が霞凪の表情に出ていたのか、蓮祇が怪訝そうな顔で霞凪に問いかける。

「……幻術師って意味、ちゃんとわかってるか? まさか幻術師まで知らないなんて言うんじゃねェだろうな」
「あ、いえ、はい、知ってます! 本で何度か読んだことなら!」

 反射的にそう答えてしまった霞凪だったが、二人が冷めた視線になった事に気づき、すぐに後悔することとなった。
 どうやら、『本の中だけではなく、実在する』というのが、この世界の常識らしい。

「……えーっと。それじゃ、幻術師には会ったことがない、ってこと?」
「……少なくとも、自分が幻術師だーって言う方に会ったのは初めてです……」

 おそるおそる言った霞凪の言葉を確認して双角は、はぁ、とため息をついた。そして、疲れたように蓮祇を見やる。

「……ねえ、一応訊いてみるけど。この子の言ってること、本気?」
「……訊いといて良かったな。本気だ」
「あ、はい、冗談とかじゃないです……すみません……」

 なんだかこうも疑問を持たれてしまうと、申し訳なくなってきてしまう。やはり、そろそろきちんと言うべきだろう。
 あの、と一つ前置きして、霞凪はおそるおそるきりだす。
「一個確認させて頂きたいんですが……もしかして蓮祇さんは、というか幻術師の方って、嘘発見器みたいなこと、できるんですか……?」

 仕種などで人を見極める名探偵かと思ったのだが、その問いに対する答えが『幻術師だ』なら、幻術師という能力者が、一律そのような技術を持っているのかと思ったのだが、果たして蓮祇は頷いた。

「幻術ってのは人の心に幻を見せる技術だからな、その技の対象である心の動きをある程度把握できるようでないとうまい幻術は見せられない。完全に心を読むってのはあまりできないが、単純な感情、及びその揺れの大きさはわりとしっかり掴めるな」
「そう、なんですか……」

 ならば、話しても信じてもらえるだろうか。

「あの……それなら、今からちょっとオレが体験してきたことについて全部お話ししますけど……できればその話の信憑性、きっちり証明して頂けると助かります」

 一息置いて、霞凪は切り出した。

「実はオレ……たぶん、異世界から来たと思うんです」

 ――予想通り、蓮祇と双角の表情から感情が消え去って、早くも霞凪は泣きたくなってしまった。

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