T.

 随分昔の話になるが、俺の通っていた小学校には七不思議があった。まあ、七不思議くらい珍しいもんじゃないし、正直な所俺は全く興味がなかったのだが、クラスでは日がな一日その話題で持ちきりになる時もあった。好奇心旺盛な小学生としては、当たり前なのかもしれないが。
それでも俺は、長い間その話題に触れた事はなかった。そんな些事に、自分の時間を取られたくなかったのだ。あの日までは。

 俺の小学校は掃除の時間が放課後にあったのだが、その日、俺の班は特別教室の担当だった。一班に五人の生徒が割り当てられているのだが、掃除をし始めた時にいたのは俺と吉田という奴だけで、他の三人は係の仕事だかなんだかでいなかった。思えばこれが、あの怪現象の予兆だったのかもしれない。
 ロッカーからT字箒を取り出し、黙々と床を履いていると、吉田がなにやらニヤニヤしながら何か話したそうに近づいて来た。気持ち悪い。しかし、話を聞かない事には解放してもらえそうにもなかったので、仕方なく話を聞く事にする。どうやら今日、日付が変わる頃に七不思議の検証をしに行くらしい。おまえも来いよと言われたが、俺は当然、断った。
 だが、吉田は断られてなおニヤニヤしていた。何がそんなにおかしいのかと思っていたら、おまえ恐いんだろぉー、と、奴はとてつもなく憎たらしい口調で言いやがった。それを無視すれば良かったのだが、当時は俺も尻の青い小学生である。つい吉田の挑発に乗ってしまい、ああ行ってやろうともと言ってしまった。吉田はニヤニヤ笑いを一層深めながら、さっすが俺のともだちぃー、と調子に乗った台詞をのたまったので、ゆっくりと溜まってきていた苛立ちがついに頂点に到達した。そこで野球少年である俺は、持っていた箒をバットに見立て、吉田目掛けて思いきりフルスイングした。吉田は開いていた窓から、綺麗な放物線を描いて青空に吸い込まれて行った。

 家に帰ってからも、七不思議の検証に行くべきか行かないべきか迷ったが、吉田にああ言ってしまった事もあり、不本意ながらも結局行く事にした。
 深夜零時前に、入り用かと思った道具を詰めたナップザックを背負い、こっそりと家を抜け出して学校の西門前に赴く。因みに学校にはもう一つ、正面玄関という出入り口があったが、そこは侵入する際に乗り越えられそうになかったので、断念した。
 西門に着いても吉田はいなかったのでそのまま待っていたが、零時を過ぎても来る気配はなかった。どうやら奴の方が怖じ気づいたらしい。俺を挑発しておきながら、なんというざまだ。最早草食系男子を通りこし、ただのヘタレである。
 俺はしばらく奴の軟弱さに憤っていたが、しばらくしてからこれからどうすべきかについて考え始めた。家に帰るという手が最善だっただろうが、血気盛んだった上、学校まで来て引っ込みがつかなくなった俺は、最終的に、学校に乗り込んで七不思議を検証するという当初の目的を行う事にしてしまった。これもまた、若気の至りという奴である。

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