ヒガンバナ

「時に君は、春に咲く彼岸花を知っているかい?」
 唐突にあいつは切り出した。
「春に咲く彼岸花……?何バカな事言ってるんだ。あれは……」
「『秋に咲く花だろう』。そう言いたいのかい?」
 あいつの言葉に、私は頷く。
「まあ、君がそう思うのも至極当然だ。僕が言う、『春に咲く彼岸花』も『咲く』というよりは姿を現すと言った方がいいかもしれないしね」
 姿を現す……?
 花は『咲く』のが普通だろう。
 私がそう言うと、
「うん、それは道理だ。でも、この『彼岸花』だけは『姿を現す』の方が合っているんだよ」
 そう言いながら、あいつは地面から『それ』を拾って私に見せる。
『それ』は、
「桜の……花弁がない花?」
 あいつは頷いた。
「薄桃色の花びらが散り、後には紅い本体だけが残る。もっとも、こんなに真紅に色づくのは、桜の中でも限られてくるんだがね。……彼岸花に見えるだろう?」
 確かに、大きさは2cmしかないものの、それはちょっとした彼岸花にも見えた。
「だけど、時間が経つとこの『彼岸花』も枝から離れて散って行く。桜が散って彼岸花が残り、その彼岸花も全て散った時、春は終わる。……風流だと思わないかい?」
 私は頷いた。
 あいつは、近くのソメイヨシノから、薄桃色の花弁が風に舞うのを見て、目を細めた。
「……桜の季節も、もう終わりだな」

 サクラ散ル。嵐の中を、雪のように。

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